第3話
大音量で曲を聴いていると、部屋の湿度が少し上がり麗奈の入浴が終わった事に気付く。
それと同時にシャンプーの良い香りが、部屋全体に充満した。
「待たせたわね」
「それ程待って――ってなんて格好で居るんだ!」
振り向くとそこにはバスタオル一枚を巻いただけの麗奈が立っていた。
湿った銀髪と赤みがかった肌が、出るところは出ている麗奈の色気を加速させる。
そんな目のやり場に困る格好でいる麗奈に対して、夜が更けたこの時間に俺は大声を出してしまった。
「着替えが無いもの、仕方ないじゃない」
「俺のを貸すから今すぐ着ろ!」
「下着も?」
「あるわけ無いだろ!」
グレーのスウェット上下を手渡し、俺は急いでユニットバスの中に駆け込む。
本当に自分の家だと言うのに落ち着けないとは。
先程の麗奈の姿が脳内を過ぎる。
同年代とは思えない程に抜群なスタイルで、バスタオル越しでも身体のラインが分かってしまった。
すらっと伸びた綺麗な生足や、風呂上がりによる赤みがかった白肌。
艶かしいそれらが、雄としての本能を刺激してきた。
そんな煩悩まみれの状態で外に出たら何をするか分からない。
俺は脳が冷静さを取り戻すまで、蛇口の冷水を頭に掛け続けた。
◇
雑念を断ち切り風呂を終えて部屋に戻ると、先程渡したスウェットを着た麗奈が、俺のベッドで寝ている事に気付く。
一泊は約束したが、まさか家主の俺のベッドを独占されるとは思っていなかった。
寝ている麗奈の顔を見る。
起きている時に見せていた顔とは違い、今は少し安心した様な顔をしていた。
彼女がどんな理由で家出中なのかは知らない。
しかしこの寝顔を見るに、ただ事ではないと思える。
もしかしたら、あのまま公園で夜を明かすつもりだったのかもしれない。
それなら今日くらいはうちでゆっくり休ませてやっても良いと思えた。
「たく、変な奴に捕まっちまったな」
「乙女の寝顔をニヤニヤ見てる変態には、言われたくないのだけれど」
「うお!」
声の方に顔を向けると、寝ていた筈の麗奈がハイライトのない目でこちらを見ていた。
ゴミを見る目で見てくる麗奈に俺は大きな嘆息を吐く。
「否定しないという事は認めるのね」
「もう好きにしろ……」
「ねえ、どうして助けてくれたの?」
寝ていた麗奈は起き上がり、先程とは打って変わって真剣な表情で話し出す。
警察に囲まれ、補導されそうになっていた自分を何故助けたのか。
その答えを麗奈は求めていた。
正直な所、理由という理由は無い。
別に麗奈でなくても助けてたかも知れないし、もしかしたら助けていなかったかも知れない。
だからどうしてと言われても答えに困ってしまう。
「偶々偶然だ」
「そう……ならその気まぐれに御礼をしなければならないわね」
「ならそのベッドから降りろ」
「今夜は一緒に寝てあげるわ」
そう言って麗奈は再びベットに横になり、自分の横を叩いて俺を誘導する。
どうやら俺は試されている様だ。
今日出会ったばかりの女子と、同じベッドに並んで寝るのか。
もしくはここは紳士的に断り、ベッドを独占させてやるのか。
男としての決断を迫られていた。
今日は色々とあって疲労困憊だ。
思考も停止寸前で、今は何も考えたく無い。
じっくりと考える気も起きず、俺は早く休みたい一心で軽はずみな回答をした。
「奥に詰めろ」
「あら、度胸があるのね」
「当然だ、それにこれは俺のベッドだ」
ベッドの中央にいた麗奈を壁際に押しやり、自身のスペースを確保する。
少し大きめのベッドのお陰で、二人で横になっても窮屈にはならなかった。
身体を横にした途端強烈な眠気が襲ってくる。
その眠気に身を任せ、俺は暗く深い闇に意識を手放そうとする。
しかし意識を手放す寸前、今の状況に僅かな違和感を感じた。
若い男女が同じベッドで横並びになって寝ているこの状況。
何かまずいような気がしてならない。
しかし俺は思考をやめる。
何故ならもう既に睡魔が俺を闇に誘っていたからだ。
俺は限界だった意識を手放し、違和感に対する答えを出さないまま、深い眠りにつくのだった。
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