【検証】重篤な人見知り冒険者は仲間ができない

ちびまるフォイ

自分が仲間に向いていない理由

「あの……えっと……」


「冒険者ギルドへようこそ。クエストをお探しですか?

 それとも旅の仲間を探していますか?」


「……その……やっぱりいいです……」

「なんで!?」


クイックターンで引き返す冒険者のかばんをひっつかんでなんとか引き止める。


「なんで帰るんですかーーいま来たところでしょう!?」


「ちがうんです。こうしてあらためて聞かれて

 俺はどういう仲間を求めているのか具体的なビジョンがまだ甘く

 それを伝える手段も十分に考えていなかったから時間がかかる。

 俺のような弱小冒険者が受付でもたもたしていると他の冒険者から

 "早くしろよ"と後ろ指さされてしまうんです。だから――」


「めっちゃしゃべるなこいつ!」


受付は強引に冒険者をカウンターに座らせる。


「仲間を探してる、でいいんですよね?」

「はい……」


「勝手に逃げないでくださいよ。私がやばいやつみたいに思われるでしょう?」


「そこまでは考えが至らなかったです……。

 今度はトイレとかこつけてこっそり帰ることで

 あなたが帰らせたのではないように見えるように気を使います」


「いやそれ私への精神的ダメージ深刻だから」


ギルド受付は名簿を冒険者の前に差し出した。


「あなたは見た感じ剣士だから魔法使いなんてどうかしら。

 ほかにも盗賊、僧侶、ユーチューバーもいるわ」


「能力ではなく性格的なものはないんですか?」

「性格?」


「いや俺こんな性格だから……仮に一緒にパーティ組んだとして

 変な空気にさせてしまって本来の力を引き出せないかもしれないでしょう」


「そんなことはないかと……」


「でも受付さんは俺のことめんどくさい客だなって思っているでしょう?

 それと同じことが旅をともにする仲間に与えてしまうんですよ!!」


「お前なにしにきたんだよっ」


「はっ……そ、そうでした……半年間もひとりで旅を続けてきて、

 それでもやっぱり自分への限界を感じてこうして仲間を探しにきたのに

 結局はいつも通り困らせるだけ困らせて、仲間もみつけられないまま

 "あいつまた1人だよwwwwww"などとなじられてしまうんですね」


「ここに来るまで半年も一人で戦っていたんですね。

 やっぱり仲間がいないと倒せないでしょう?」


「いえ、敵は普通に倒せるんですが、いかんせん門が……」

「門?」


「冒険者なのにひとりで門を通ろうとすると不審者やスパイ扱いされて

 最初の街から先に進めないんです……」


「謎解きで詰まったRPGみたいになってる」


受付は頭をかかえてしまった。

どうしてもっと早くこなかったのだと言いたくなるほどに。


「ああ、でも安心してください。冒険者といっても千差万別。

 あなたのように人付き合いが得意じゃない人もいるんですよ」


「ほ、本当ですか!」


「ええ。ですから、あなたと同じような人との旅なら

 お互いにどう接していいかわかるから楽なのでは?

 こないだ来た……ホラ、この子なんか人見知りだと話していましたよ」


「待ってください! その子はダメです!」

「え? なんで?」


「よく考えてみてくださいよ。人見知りと人見知りを同じパーティにすると

 お互いに会話に詰まって重い沈黙になるじゃないですか。

 しだいに旅=沈黙という精神的負担から旅への参加率が低くなって

 お互いに気を使いながらお互いに負担をかけあう気遣いのデフレスパイラルですよ!」


「どうすりゃいいんですか! 社交的な人がいいんですか!」


「それはもっとダメです! コミュニケーション取れるとかいうやつは

 単に相手に自分の要求を押し付けがちなんですよ。敵を倒したらうぇーいとか言って

 ハイタッチしてくるんですよ。拒否しても空気悪くなるから合わせていくうちに

 俺自身が辛くなりそれにうっすら感づかれはじめるころ"あいつ感じ悪いよな"から始まる

 俺に関しての悪い噂が蔓延して戦闘にかこつけ後ろから魔法で殺されるんですよ!!」


「社交的な人と接するだけであなたが魔法で殺されるまで想像できてしまう

 あなたの被害者妄想に関心ですよ……」


「わかってください! 俺はけして仲間が嫌いなわけじゃないんです!

 でも俺はどうしても人付き合いが上手くないので、一緒にいると辛くさせてしまうんです!

 針が異常成長したハリネズミのジレンマなんです!!」


「え、ええ~~……?」


受付はふたたび頭を悩ませた。


「それじゃ……人間以外はどうですか?

 あなたほどに人が苦手な人がたまに選ぶんですが、

 テイムしてきたモンスターをギルドでも雇っているんです」


「それはつまりモンスターを仲間にして旅をしているってことですか?」


「そうですね。モンスターなら言葉は通じませんし気も使わないでしょう?

 ですがパートナーとしてあなたの右腕として活躍してくれますよ。

 ある意味では人間よりも深いつながりを感じられるかもしれません」


「う、うああああ!」


「どうしたんですか!?」


「ぐっ……ぐあっ……それは……それはどうしてもダメなんです!」


「モンスターはどうしてダメなんですか?」


「モンスターと旅をしているところを同年代の他の冒険者にでも見られたら

 "あいつ人間とも協力できねーのかよwwwwww" "どっちが魔物なんだかwwwww"

 と物笑いの種にされて、ますます外を出歩きにくくなってしまいます!!」


「無駄にプライド高いな!!」


受付は万策尽きたという脳内速報が初めてテロップで流れた。

それを察したのか冒険者もがっくりと肩を落とす。


「すみません……やっぱりひとりでやっていきます……。理想が高すぎました……。

 でもよく考えたらこれは良かったのかもしれません」


「え?」


「こんな状態で仲間を雇っても相手に負担をかけてしまうでしょう?

 何度も同じように回復させたりするのは申し訳ないじゃないですか。

 もっと、誰の力も必要ないくらい強くなってから仲間を雇えば

 必要以上の負担を与えずに冒険できるはずですから……」


「それ仲間じゃなくてただの護衛のような……」


「かもしれません。でもしょうがないです。こんな性格ですから……。

 転生学校でも先生に悩みがあるのかと気を使われ

 転生修学旅行の班ぎめが怖くて当日休むことを事前に告知し、

 一人でご飯食べていることを見られるのが恥ずかしくてゼリー飲料で済ませたり。

 こんな俺に真摯に向き合って肩を並べて一緒に考えたりして

 ともに旅をしてくれる仲間なんていないことは気づいていたんです……」


「待ってください! まだいるじゃないですか!!」






その後、ギルド受付と一緒に旅をする冒険者の姿がそこにあった。

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