第2話

 やっと家に着いた……

 玄関で崩れ落ちたアタシは1mmも動けない。

 もうしんどい。風呂入りたくない。風呂入る体力残ってない。 でも……メーク落とさないと……髪もベタベタするし……あーめんどくさい!女辞めたい(泣)

 もう眠い。一分でも一秒でも寝ていたい。電車でメークしてごめんなさい。



 玄関から這うようにバスルームへ向かい、仰向けに寝転んで服を脱ぐ。こんなとこ誰かに見られたらお嫁に行けません。




 かぽーん






 はーーーーーーーーっ! さっぱりした!



 なんだかんだ言って、風呂に入るとさっぱりして目が覚めるんだよね。




 ぷしゅっ



 ビールのプルタブルが疲れを吹き飛ばす。



 ギュッギュッギュッギュッ……



 ビールが流れ込むよりも先に喉が迎えに行ってるのが分かる。



 ぷはーーーーーーーっ。極楽極楽。



 あーお腹すいたー。

 そういえば今日は1食しか食べてない。ランチのサンドイッチだけ。

 冷凍庫を開けると好物の焼き鳥があった。戸棚にはわかめラーメン。あぁ、アタシの元気メシ。よくぞ買い置いたアタシ。やっぱりアタシのことを一番わかってるのはアタシだよねー。誉めてつかわすぅ!



 焼き鳥をチンして、ラーメンにお湯を注いでTVをつける。ふとテーブルを見た。



『えぐっ……えぐっ……』



 ビールの缶に寄りかかって座り込み、真っ赤な顔でしゃくりあげるちっさいおっさんが居た。


 え? なにこれ? おっさん? さっきのクタビレたおっさん?バーコードが垂れ下がっている。確かにさっきのおっさんだ。でも、身長10cmほど。頭にはネクタイを巻いている。



『じょうちゃん! アンタほんとにいい人だ! さっきね、おいさんにはちゃあんと聞こえたんだよ! アンタの心の声が!』



「心の声?」



『そうだよ! お、お父さん……カッコいいよ……って。えぐっ…えぐっ…うわぁーーーーーーん!』



 あーあ、泣いちゃったよ。



「おじさん、泣かないで」



『じょうちゃんだけだよ、そんな優しいこと言ってくれる人は! おいさん、おいさん、嬉しくって……オロロロローーーーー』



 わー! 今度はゲロった!



「わかった、わかったよおじさん。嬉しかったんだね、良かった良かった」



 ウンウンと頷きながら涙を拭い、おっさんはそのまま寝てしまった。



 もー! このゲロどうすんの?!

 あっ! ビール全部飲まれてるっ!

 なっ! アタシのレバ串かじられてるっ!

 えー! わかめラーメンのびてるよもぉーーーーーっ!



 怒りに震えながら片付けていると、大の字に寝転んだおっさんが寝言を言った。





『ZZZZ……じょうちゃん……ありがとね……』





 嬉しそうに笑ってる。









 おっさん

 ずるいよ……。





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ちっさいおっさん ぴおに @piony

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