ちっさいおっさん

ぴおに

第1話


 今日も帰宅は0時過ぎ。

 住宅街の中の暗い道、一人家路を急ぐ。


 もう! なんでうら若き乙女が毎日午前様なんだよ! 暗い夜道を歩かせやがってブラック会社め!明日の会議も早いのに、資料が間に合わないし同期はミスするしマジ○ぬ。もう無理。寝ながらブラインドで打ち込んで誤字ないってスゴくない?頑張ってるアタシ。偉いぞ、上司より数倍偉い!


 そんなことを考えながらイヤホンを片耳に突っ込む。あーこの声、と ろ け る……ほんとに癒される。誰よりも癒してくれるよ。あなたが居なければ私はここまで来れなかったよ。本当は両耳でしっかり聴きたいけど、この暗闇で両耳塞ぐのは怖い。毎日こんなことしてて大丈夫かな? いつか事件に巻き込まれそうだよ。




 はっ‼




 なにあれ?! 前方10時の方向に未確認生物?

 怖い怖い怖い怖い心霊系?



 未確認生物が街灯の下を通りすぎる。

 ボウッと浮かび上がったその姿は──



 おっさん。

 くたびれたおっさん。

 スーツをこれ以上ないほどクタビレさせ、俯きすぎてバーコードが垂れ下がり、肩にはショルダーバッグがくい込んでいる。



 街灯の下を通りすぎ、再び闇にまぎれるおっさん。

 おっさんの周りだけ一段、闇が深いような気がする。




 なんだおっさんか……

 えらくクタビレてるな。わかる。わかるよ。疲れたよね。会社ではネチネチとイビられ、家ではクサいウザいと疎まれ、毎日サンドバッグのようにパンチを浴びているんだね。でも腐らずがんばってるんだよね。私なんかよりずっと頑張ってるよね。

 お父さん、カッコいいよ! ヨレヨレでも、頑張ってるお父さんはカッコいいんだよ!



 アタシは心の中で謎のエールを送りながらおっさんの横を通りすぎた。コツコツとヒールの音を響かせながら。

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