第8話 世界は回る

「僕は今、一人で生きている」

「うん」

「いずれ、一人では生きていけなくなる。そしたら、誰と生きていけばいいんだろう。ねえ。ハツキが信じて、置いたたくさんの、成果は世界をよくしているのか。…ハツキのいない世界を、よくしているのか。こんな意味がない世界を」

「うん」

「ハツキはいつも言ってたんだ。そうやって世界は回るって。どうしてもそうは思えないんだ。僕が奪われたものは、僕が得たものに対して、明らかに大きい。明らかに大きいんだよ。ねえ、ハツキ。いつか君がいなくなった代価が、僕に払われるのか。君の代わりが。ねえ、そんなのいらないよ。そしたら、一人で生きていくしかないよ。誰かとなんて、生きれないよ」

「うん」

「でも、本当はそうじゃないって、ずっと知っていたんだ。ハツキが、いつもそう言っていたんだ。本当は、一人で生きているなんて、ごめんだ。ずっと一人なんて。だけど。だけど、ハツキが死んだ。君が死んだら、いったい、何が本当だっていうんだろう。ハツキ。もっと一緒にいたかった。君がどこかに行くなんて、こんなのひどい。ひどいよ。不幸になるのだって、二人だから大丈夫だったんじゃないのか。一人なら、意味なんてないよ。ばかみたいだ。僕ばっかり、君を失うなんて。君ばっかり」


「…泣かないで」



 深夜の公園で、僕は驚いた顔をしていた。ハツキは恥ずかしそうな仕草をまだしていた。


「君は僕のことが好きなの…」

「そうだよ。気が付かなかった?」

「気が付かなかった」

「鈍いんだな、君」

「そうだったらいいのにって思っていたけれど」

「ねえ。実は私、君になら殺されてもいいって思ってる」

「殺さないよ」

「例えばの話」

「僕も君が望めば、死ねると思う」

「死んじゃだめだよ」

「例えばの話」

「えへへ。じゃあ両思いだね」

「初めてだよ。両想いって」

「私もだよ」

「こんなときってどうするものなの」

「とりあえず今度の日曜日にデートの約束をするんじゃない」

「じゃあ、今度の日曜日、僕と水族館に行かない?」

「喜んで」

「二人で遊ぶことって今までもあったのに、変な感じだね」

「ねえ。私思うんだ。君ともしお別れしなきゃいけないときがあっても、決して悲しいものにならないって。君と恋人じゃなくなっても、君との関係は一生ものだって。そんな気がする」

「いまからそんなこと考えてどうするの。まずは、一生恋人でいることを考えてよ」

「うん」

「どうしたの」

「なんでもないよ。それにしても君は私と一生恋人でいる気かい?男ってやつは生殖本能の赴くままに女の子を泣かせる生き物だからねえ。浮気とかしちゃうんじゃない」

「僕は古風な風習を自ら背負ってそれを美徳とするから。浮気はしない。君は?」

「さっきお許しがでたから、ずっとそばにいることにする」

「よろしく」

「番犬よろしく君のこと見張っててあげる」

「いざとなったら守ってね」

「君がほかの女の子を襲おうとしたら、その女の子をね」

「僕は紳士的な観念を自ら背負ってそれを矜持とするから。襲わない」

「そ。期待してるわ」



「私、ありきたりだけれど、君がいないと生きていけないかも。君がいないとこの世界に何の価値もないって思ってる」

「本当にありきたりだね」

「そう、でも、私には何より大事なこと」



「二人なら幸せになれるかな?」

「ふふっ、急だね」

「ずっと幸せになりたかったから。君と一生いられたら、幸せになれるかな…」

「いいじゃない。不幸でも」

「どうして」

「君と一緒なら、私は不幸でもいいよ。二人でいられたら、不幸でも大丈夫」


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灰雨とアルコール 早雲 @takenaka-souun

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