王都ゴミ収集業務

低迷アクション

第1話

王都ゴミ収集業務


 モクモクと白、赤、緑など色とりどりの煙を吐き出す4本の煙突を眺め、

王都騎士団元兵卒“マサ”はため息をつく。


(偉いトコに来ちまったもんだ…)


「おいっ!マサッ、ボサッとしてんな。早く“パッカードン”の背中に乗れ!」


豊満な胸が隠しきれていない非常に雑な感じで、作業着を着こなした元魔物使いの

“シノさん”が背中を“ドン”と叩く。マサは慌てて、自分達の仕事で使う怪獣の群れが

鎮座する場所に向かう。褐色肌の彼女は、スタイルも含め、ソーGOOD!だが、下手な事を言えば、お尻に刺した皮鞭が飛ぶから偉い事だ。


「今日は“魔法ごみの日”だから、急ぐよ~」


緑色の巨体に乗った“コーさん”は元女戦士。シノさんとは違う白い肌は、とてもキレイで

優しい感じが溢れんばかりだが、細い目が開かれた時は、怒りの合図。だから、

急がなければいけない。


ちなみにパッカードンとは、地を這うドラゴン型の魔物だ。膨大な食欲と地面を素早く移動する機動力を持った、この怪獣は人間と魔物の前大戦の最中では、

マサ達、軽歩兵にとって恐怖の対象だった。しかし、戦が終わった今は、その腹に収まる

食欲と収集量を利用し“ゴミ収集獣”として、活躍している。


そんな自分としては、何度、剣を突き立て、弾かれ、振り落とされた記憶の残る恐怖感が

残る固い背中に飛び乗った。


それを確認したシノさんが怪獣の頭を軽く蹴り(こんな事が出来るのは、調教師としても

名高い、魔物と生活環境が近い森の民族出身の彼女だからだ。普通の人間では、まず喰われる)


気だるそうな咆哮を上げたパッカードンが森の焼却場から移動を始めた…



 森を抜け、舗装された道路を進めば、王都の市街地だ。高い城壁も、そのほとんどが取り払われ、平和の時代を体現している。昔はこうではなかった。空から降り注ぐ魔物達、森に潜む亜人、山賊、それら全てと闘い、やがては共闘し、豊かで穏やかな時代を作ってきたのだ。今、自分が乗っているパッカードンがその一つだ。王都内、指定のゴミ捨て場を巡回し、


365日、12の月に区切られ、7日で1週に定められた世界で、休日2日の内、平日5日をゴミの収集業務にあたる。平日1日、2日目は燃えるゴミ、


3日目は魔法関係の業者(占い、薬屋、医療機関など)や、王都研究機関から出る

“魔法ごみ”の収集。


4日目は“害獣”とされた大型の魔物や、研究で使われた死骸など収集する。

“怪獣ごみ”と戦士や鍛冶屋の出す、武器、防具、鉄製品などの“鉄ごみ”の日。


最後の5日は燃えるゴミと“その他”のゴミの日。この、その他が色々厄介だ…


実際の収集の仕方は簡単。指定のゴミ袋(麻布で作られた頑丈なモノ)に入れられた中身を

大口開けたパッカードンの口腔に流し込んでいく。大部分は怪獣の栄養として消化されるが、短時間での詰め込みは限界がある。


そうやって、パッカードンの喉元にゴミが見え始めたら、限界の証拠。

4本煙突の焼却場に運び、ドワーフとゴブリン達が掘ってくれた大穴にゴミを吐き出し、

再び収集のため、都に下りる。


貯められたゴミは炎の精霊と契約した焼却場の魔法士達が丹念に焼き払い、残った廃クズを炭鉱ゴブリンやドワーフ達が土に埋める。森のエルフやドライアド達からは顰蹙を買っているが、現在、王都の研究員達が知恵を絞り、堆肥として活用できるかを試験中との事だ。


こうした人間以外の勢力を交え、それぞれの得意を活かし、共生していく社会システムは

素晴らしいが、人材には適材適所があるとマサはいつも思う。


「おっら~、マサァッ、チンタラやってっと、パッカーの餌にすっぞぉ~!?」


口調と一緒で、かなり本気のシノさんが、パッカードンの頭から自身の頭を蹴る。頑丈な

麻布のおかげで、ゴミは詰め込めるだけ、詰め込める。ハチ切れるという事がない。


おかげで袋の重さは成人男性1人分、これを平日5日で合計100袋分を毎日運ぶ。100人の野郎を抱えると同じ事なのだ。いくら、兵隊上がりのマサでも、限界があるってもんだ。


「シノ~、マサ君は“人間”なんだから、あんまり無茶言っちゃダメダヨ~」


袋2つを何とか抱え、喘ぐ自分の横を、袋4つを片手に2つずつ持った

作業着ごしでもわかる抜群の肢体を持ったコーさんが悠々と歩き、パッカードンの口に

軽々放り込む。


口で受け取る怪獣も嬉しそうに喉を鳴らす。マサの時には、手ごと噛みつきそうな嫌がらせをするっていうのに…


まぁ、これは仕方ない。コーさんはバーバリアンとアマゾネスのハーフ、筋力も美貌も

持ち、なおかつ魔物からの寵愛を受ける収集員なのだ。


運転手というか“魔物乗り手”のシノさんにしてもそうだ。彼女に手懐けないパッカードンはいない。マサだけが、只の人間…


元々はコーさん、シノさん、パッカードン達と戦ってきた存在、共生社会におけるゴミ収集という、特殊作業、普通の人間の、なり手のいない業務に異種族の平等間を出すために設けられた特別配置、それがマサの立ち位置…、ヒドイ物と来ている。


元敵と肩を並べ、元敵の背中に乗って、指定場所を移動する内に、マサの嫌な担当地域の

番が来た。王都など、公共機関の魔法ゴミは良い。ある程度の得体が知れているからだ。


だが、民間の、特に占い師や魔法使いが多く住む地域のゴミは本当に怖い。

出されるゴミに何が入っているかはわからないのだ。あらゆる勢力、民族が集う王都では


マサの、いや、公式には知られていない呪術に魔法が多くある。それらから出されるゴミだ。

それを収集する作業員達の危険レベルは非常に高い。


シノさん達みたいな、亜人種ならまだしも、一般人のマサは、常に恐怖が付きまとう。

指定の麻袋は、袋の口から中が見えると言っても、内容物の全てはわからない。


また、仮にそれを持っていけたとしても、焼却され、煙となって空を覆う極彩色豊かな

煙達が自分達の体、大地にどれだけの影響をもたらしているのか?不安は隠しきれない。


指定場所に積まれたゴミ袋をコーさんが軽々と持ち上げるのを見て、自身も覚悟を決める。

いや、覚悟を決めなきゃ、シノさんからの皮鞭、悪くはパッカードンの餌食。


目の前にあった袋を掴む。重さはいつもの通り。よし、大丈夫、問題ない。後はこれを

パッカードンの口に…


「!?」


手元に走る謎の衝撃に全身が硬直する。今、この袋…動いたっ!?


「おいっ、マサッ!ボーっとしてんなぁっ!アタシ等、収集員は、王都の一般職連中と

違って、上がりの時間が早いんだよ!その分、祝祭日出勤、仕事はタリーがなぁっ!」


「す、すいま…あの、シノさん、この袋何か動いてますけど?」


「ああっ?気にすんな。そんなモン、とりあえずパッカーの口に入れとけぇっ!」


苛立つシノさんの手が徐々にお尻に伸びていく。不味い、心なしからパッカードンも

苛立つ目でこっちを見ている気がした。


「あらぁ~、シノ君、こんな所に立ってると危ないよ~?」


背中に当たる柔らかい感触に、そのまま全身を押される。コーさんのワガママボディは

不味い。“早くやれ”という無言の威圧がかかっているという事だ。


不味いっ!更に言えば、袋の蠢動が加速していくのが手に取る、とゆうか

体感レベルでわかっていく。


(ええいっ、ままよ!)


3匹の亜人美女と魔物に気圧され、ヤケクソ気味に放った袋が運悪く怪獣の牙に引っかかり、

破れた袋から、大量の緑色の液体、スライムがマサの全身に飛びかかった。


「・・・・・」


全身緑色に染まり、立ち竦む自分を、通りの建物のあちこちから、黒い帽子を被った

老若の魔女達が指さし、笑う。パッカードンも、シノさん、コーさんも同じ様子だ。


(転職しよう…)


この後、焼却場内に設置された浴場でスライムが落ちるかどうかを一喜一憂しながらも、

マサは固く、非常に固く決意した…




「“キャーッ”なんて、生娘みてぇな悲鳴上げると思ったか?マサァッ!?

テメー、人間は一番最後に風呂入れって言っただろうがっ!」


一番大事な部位は湯気で隠れて見えなかった…じゃなくて、シノさんの鋭い拳が

マサの顔面に決まる。そう言えば、そうだった。昔気質の職人気質、それとも人間差別?


よくわからないが、新人の入浴は一番最後、就業時間終わりのギリギリと決まっていた。

曇りガラスで見えないが、浴室内では、自分が来た事に怒り狂う武闘派美女達の怒りと驚きの声が上がる。


(ヤバい、殺される)


スライムが残る頭を抱え、外に飛び出す。煙の拭く焼却用の大穴を見下ろし、タバコを

加えた。自分の人生、ゼッテェ、下り坂…いや、身分も頭もない兵卒上がり、平和な時代に不要な奴等の再就職先はここしかないか…


「せめて、亜人娘ちゃん達とのイチャコラでもあれば違うんだが…」


いや、無理だ…先程の入浴事情で自分の立場は下から下の下に下がった。小規模なコミュニティ社会、噂はあっと言う間に職場内を駆け巡り、友好的交流と出会いは皆無だろう。


そう呟く自分に強い視線を突然感じ、辺りを見回す。焼却場外れの森に1人の少女が佇んでいる事に安心する。良かった。関係者じゃない。


今の1人言を聞かれても、全然、問題ない。滅多にないが、都内の清掃業者や、

組合関係の一般ゴミの持ち込みも時々ある。


恐らくその関係者、家族か?いや、あのとんがり耳は亜種、エルフと言う奴か?


「どうかしましたか?お嬢さん?」


緑の液体が粘つく顔に笑顔を作り、どうにか繕う。収集作業員は、王都の政策を体現する顔、

領民と接する機会が多いため、下手な言葉や態度は即、政府に対する不審に繋がる。


“それだけは避けろ”と、辞令交付の際に行政大臣から言及されているのだ。


「ニンゲン、今ニミテイロ…」


こちらの誠意とは真逆に恐ろしい呪いの言葉を吐き、森に消えていく少女。恐らく

焼却場反対の種族だ。


そりゃそうだろう。人間と共生を選んだとは言え、自分達の故郷を切り開かれ、

ゴミの焼却場という環境破壊の温床を作られた彼女達にとって、ここは憎しみの地。


マサ達にとっては、共生社会の歪みを見る最前線…仕方ない事とは言え、誰かがやらなければいけない仕事を自分達がやるしかない。


「辛い…」


思わず出た独り言を、再び誰かに聞かれていないか怯える自身に、

マサは再度絶望した…(終)



 4日目は害獣と防具等の収集日、マサ達の担当地区の初めは色街になる。

魅惑的な衣装を着た踊り子が立ち並び、娼館の立ち並ぶ通りのゴミとあっては


男として色々妄想爆発だが、現実はそうではない。客と彼女、彼氏達の、

欲望の残り香…筆舌し難いモノがある。


そんな暗い気持ちを抱きながら、袋を掴む手に、黄色い声がかかった。


「すいませーん、これも収集してほしいんですけどー!」


「はい、はい!ご苦労さ・・・」


と上げた顔が硬直する。ゴミ収集業務員が現場で働く上で最も辛い瞬間…


「あれっ?マサちゃん?」


「も、もしかして、ミーアちゃん…」


ほとんど下着みたいな踊り子の衣装を着たのは同郷の女の子…

不味い、このままの会話の流れだと…


「久しぶり~、10年ぶり~?全然変わらないね、マサちゃん!でも、どうしたの?

確かマサちゃん、王都の兵団に入ったんじゃぁっ?」


無邪気な笑顔で心臓壊しの一撃を入れてくる彼女に頬が引き攣っていく。


「う、うん、いや、平和な世界じゃん。俺も職無しでさ。王都の収集業務やってんのよ。」


「ふーんっ、そうなんだー」


頬に指を当て、納得といった顔をする彼女の、露出高めな肢体に喉が鳴る。

シノさんやコーさん程じゃないが、昔一緒に野原を駆け巡った頃と違い、

良い体になったもんだ。


「まぁ、潰しが効く体だからさ。ミーアちゃんは今、何してんの?確か、王都で

歌い手を目指すって言ってた…あ…」


いつの間に、自分からも彼女に鋭い一撃を発してしまった事に気づくがもう遅い。


「あ…えーっと、私も色々あってさ。今、ここらで働いているんだ~。」


お互い気まずい沈黙が流れる。何故、気づかなかった自分?場所と服装を考えれば

わかる筈だ。彼女がどんな人生を歩み、今、どんな生活を強いられているのかを…


この場を早く切り上げたい、そんな気持ちがありありな言葉をかける。



「じゃあ、俺仕事だから。またね。」


「…うん、またね~」


多分、会う事はもう二度とないだろう。足早に路地に消えていく、彼女の形の良い

弾んだお尻を目に焼き付ける。


隣に立ったコーさんが苦笑交じりのため息と“自分も経験あるよ”と言わんばかりの顔で、

マサに頷き、言葉を発した。


「うーん、マサ君、何かあれだね?あれって何?言われたら、答えようないけど、

あれだね?とりあず…オッパイ、揉む?」


「・・・・・・いえ、今は遠慮しときます。てか…ありがとうごうざいます」


彼女の精一杯のフォロー、それとも憐み?に対し、マサは黙って首を振り、ただ、礼を言うのだけは忘れなかった…(終)



 今日はとことん“ついてない日”と決まっているようだ。最後の担当区、王都騎士団の

ゴミ捨て場には金色に輝く巨体、いわゆるドラゴンという存在が、その身を横たえていた。


「オイオイ、こりゃ、でっけぇな?神龍クラスじゃないか?」


「ワリいな、シノさん、国境警備の監視所に落ちてきた奴でさ。どうも大分弱ってるらしくてな。医療機関や魔法使いにも聞いたが、特に出来る事はないって話なんで、山に持っていってくれ。」


シノさんの声に、銀甲冑に身を包んだ兵士、かつてはマサのいた職場の人間が現れ、

説明する。彼としては知り合いと遭遇する確率を出来るだけ、避けたいが、今はドラゴンの移送を優先する事態だ。


その巨体に上手に身を隠しながら、コーさんと協力し、手早くロープを巻き付け、

パッカードンの背中に括りつける作業を行う。兵士達の協力もあり、どうにか収集を終えると山に向けて移動を開始する。


パッカードンの背中とゆうか、ほぼドラゴンの背に乗ったマサは、その姿に改めて

畏敬の念を抱く。


大戦中はドラゴンと戦う事は何度かあったが、生きているモノと、こんなに近くまで

接近したのは初めてだ。自然と言葉が漏れる。


「あの、シノさん。このドラゴンは、何処が悪いんですか?」


「多分、空気が悪いせいだな。アタシ等とお前等人間、共存したのはいいけど、

その影響で環境が大きく変わった。良い事もあったけど、悪い面もあるって事だ。


ゴミを焼却するのはいいけど、あらゆる要素を含んだ灰は大気を汚し、その後で降る雨が大地を汚す。今後も、こういった問題は増えていくだろうよ。アタシ等とお前等にとってもな。」


「そうですか…」


「仕方ないよ。マサ君。繁栄と平穏の陰にはこーゆう問題は常に付きまとう。私達の

仕事は、その最前線…恐らく今後もこーゆう場面に出会う事が多いから、覚悟しといた方が

いいよ。」


「何とかなりませんかね?」


「えっ?」


マサの言葉に、シノさん達が少し驚いた声を出す。言ったマサ自身が驚いていた。

自分は何を言っている?焼却場に、この巨体を送り込めば、嫌な仕事は終わる。


“時間外勤務”なんて以ての外だ。しかし、そうは思っても、心は動く。恐らく答えは

簡単。目の前のゴミ、いやドラゴンがまだ“生きている”からだ。


(助けてやりたい…出来たら…)


しかし、自分にはその方法がわからない。そりゃそうだ。王都の天才と専門職が

お手上げなのだ。兵卒上がりの自分に何が出来る?


だが、目の前の彼女達なら、何か知っているかもしれない。人間には出来ない事を…

その方法に対し、自分に出来る事なら全てを駆使しよう。互いが互いの得意を活かして

支え合い、声の上げられない、救えない誰かを助け上げる。共生社会っていうのは、

こーゆう事を言うんじゃないのか?


ダメ元の懇願に、顔を見合わせていた二人の美女がこちらに笑顔を向ける。


「まぁ、方法はない事は無いぞ。マサァッ!」


「時間外勤務だけど、新人のマサ君の頼み、先輩達がひと肌脱ぐとしますか?」


「あ、ありがとうございます。」


「その代わり…」


「その代わり?」


急に声に凄みが加わった二人、マサの表情にも影が差す。


「死ぬ気で走れよ?」


シノさんとコーさんの言葉が不気味なハーモニーを奏でた…



 元兵士で本当に良かった…暗い森の中をひた走るマサの後ろを


「ニンゲン、コロス!」


と叫ぶエルフ達が木々の間を飛びかい、毒矢を放ってくる。先輩美女達の作戦はこうだ。

ドラゴンの体を癒すのは清浄な空気。その地は山深く、標高の高い地域だ。

そこまでをパッカードンとシノさん達が全力で駆けあがる。


だが、人間側に味方した彼女達を森の住人達は容易には通してくれない。だから、囮が必要。連中が最も嫌う存在=人間、マサ自身がだ。


かつての戦いの記憶が蘇ってくる。感覚は鈍ってない。聖域と呼ばれ、普段なら、絶対に

人が立ち入らない森に入ってだいぶ立つ。辺りは真っ暗と日が落ち、視界は常人ならゼロ。

だが、自分なら逃げ切れた。後は合図を待つのみ。成功すれば、パッカードンの咆哮が上がる。あの不機嫌な遠吠えが恋しく思う日が来るとは…


目の前の木立に矢が何本も刺さり、慌てて進行方向を変えた。まだか?一体、何時になったら、合図が出るのか?合図はぁっ・・・・


(この後、マサは朝まで、森を走り抜け、徹夜で焼却場に出勤し、シノさんとコーさんの

“あ、忘れてた…てか、生きてる!凄い”と言う三段階変化の表情に静かな怒りと

時間外勤務の成功を確信し、安堵のため息をついた)…



 寝不足のままの平日最終日、燃えるゴミに続いた、その他のゴミは最悪だった。

どっかの剣士が捨て場に置いたのは呪いの魔剣。4日目の防具ゴミの時に、収集出来ませんという紙を貼っておいたが、そのままにされたらしい。まぁ、正直、ほとんどの“その他ゴミ”がそうだが…問題は、魔剣の影響で、他のゴミ、家具やら、生ゴミが袋ごと意思を持ち、動いている事だ。


こーゆう時の収集作業員の仕事は、特別指定のゴミ袋を持ち、意思を持った連中を手早く

収集する事にある。袋の内側には対抗呪文の印が刻まれており、大抵の魔術なら、封じ込める事が出来る寸法だ。


実戦経験のあるマサ、元女戦士のコーさんは上手に連携を取り、袋を羽交い締め、または

飛びかかってくる袋を巧みに除け、特別指定の袋を重ね被せていく。


「ほらぁっ、パッカーの口はいつでも開口だよ!」


シノさんが軽快に叫び、パッカードンの大口を開けさせる。そこにテンポ良く、袋を放り入れ、事態を収拾させていく。


「オーケー、これで全て終了。上がろうか?」


全てを終え、汗ばんだ作業着に形のいい胸元のラインを描くコーさんが、声をかけ、怪獣の背中に飛び乗る。


マサとしても、徹夜明けの上にこの重労働。今や元敵の背中でも楽に寝れそうな状況だ。

二人の先輩方の週末の予定を聞く内に、いつしか船を漕いでいた。

思わぬ衝撃で目覚めたのは正直、予想外だった。


「どうしました?」


と上げる声はコーさんの豊満なバストに顔面を包まれ、空中を舞った時点で吹き飛ぶ。

地面に叩きつけられ(頭に、胸のクッションサービスは無かった)顔を起こす横には

シノさんの太ももが鎮座している。


「野郎、大した魔剣だよ!」


彼女の言葉で全てを察した。目の前のパッカードンがえづいている。苦しそうに全身を揺らす怪獣の口腔から詰め込んだゴミが吐き出され、巨大な全身を形成していく。


やがて、あらゆるゴミを満載した“巨人”が、マサ達の前に立ちはだかり、巨大な一撃を

地面に打ち込んできた。すんでの所で飛び出すも、次の一撃を回避出来る自身はない。


手元には武器もなく、大きさ的に対抗できそうなパッカードンは嘔吐後の空腹感で動けそうにない。


考えるより、体が動く。巨人の前に立ちはだかり、挑発するように動き回って見せた。

昨日の時間外勤務と同じだ。


自分が囮を務め、その間にシノさん、コーさん達が何とかする。大丈夫っスよね?お二人!

そう思い向けた自分の顔は、上空をボンヤリ見上げる彼女達の視線を見て“えっ?

打つ手なし!?”と軽く絶望する。


だが、それもすぐに杞憂に終わった。


「こりゃ、助かる。焼却場まで持っていかなくとも、勤務終了だ。」


「ですね~」


背中を熱い空気が走り抜ける。振り向けば、一瞬にして灰となった巨人が崩れ、

金色のドラゴンが、まだ炎の静まり切っていない口をゆっくりと閉じていった…



 「長い1日だったな…」


タバコを吸いながら、マサは呟く。先輩達の入浴終わりまでの待機時間を大穴の前で過ごしている最中だ。明日、明後日は休日。そして、出勤。ハードな日々が待っているだろう。


しかし…目を閉じる。


これも良い経験だ。人、そして亜人が共生社会のゴミ収集業務を通し、

世界のあらゆる面を知る。その中には政府が使えぬ支援や方法を知り、自分のスキルとして

学んでいく。それが今後、もしかしたら、増えていくであろう、環境問題や種族同士の

関係づくりに活かせる?橋渡しになれる。いや、大仰するぎるか…とにかく、

この業務は絶対に意味がある。今は確信を持って言えた。


不意にエルフ娘の時と同じような視線を感じ、目を開けた。

自分の前に黄色い髪をした少女が立っている。一般ゴミ持ち込みの家族?

いや、違うな。これは、もしかして…


マサが声を出す前に、ゆっくりと、しかし、とても音色の良い声が響く。


「タスケテクレタ、お礼、アリガト」


「いえいえ、こちらこそ、ありがとう!」


「・・・・ウン・・・」


頷く彼に少女がコクンと頷いた後、少し微笑み、光を発していく。

やがて巨大な翼が羽ばたくのを見つめ、彼もゆっくりと笑い返した…(終)






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