人の命とピザ、どっちが大事なんだ!!

ちびまるフォイ

プロのピザ屋はどこまでも完璧に

「家の外にいるやつら! 全員動くんじゃねぇぞ!!

 少しでも妙な動きしてみろ! この人質が細切れになるからな!!」


犯人は窓の外から興奮しきった様子で包丁を振り回す。


「警部……!」


「ダメだ。ここの出入り口は1つ。

 うかつに近づいて人質を傷つけるわけにもいかない。

 家族を呼んで説得するしか無い。犯人に家族は?」


「すでに両親は他界しています」

「交渉人は手配できないのか?」

「夏休みです」「働き方改革ッ……!」


警察は悔しそうに犯人のいる部屋を見上げていた。


「八方ふさがり、か……」


誰もがあきらめた時、籠城する部屋のインターホンが鳴った。



『 こんにちは。ピザバートです! 』



犯人は人質を抱えたままドアを開けた。


「おう、来たか」


「お待たせいたしました。

 "お子様大好きふわふわチーズエビマヨ4"のLサイズです」


「おう置いていけ」

「ではお会計、4500円になります」

「ねぇよ」

「は?」


「見てわからねぇか? こっちは人質とって身代金要求してんだよ。

 金がねぇからこんなことやってんだ!

 いいから黙ってピザだけ置いて帰りやがれ!!」


「ふざけんな!! お金が払わなきゃピザも

 ピザについてくる"お子様だいすきなりきりおもちゃセット"も渡せない!!」


「あ゛あ゛!? だったらこの人質がどうなってもいいのか!?」


「やかましい! ここでこのピザを持って返ってもいいんだぞ!!」


「それだけはやめてくれ」


「私だってそんなことはしたくない。

 お客様にはいつだってアツアツを届けるためにこっちはかっ飛ばしてきたんだ」


犯人はふたたび窓際に立つと眼下で待ち構える警察たちに叫んだ。


「おい!! 身代金とは別に4500円すぐによこせ!!」


「なんでだ!!」

「ピザが買えねえんだよ!!」

「なんで注文したんだ!!」

「お腹へったんだ!!」


警察側ではお金を投げてよこそうかとも考えたが、

捕まえたあとで犯人に渡した4500円が経費として戻ってくるのかどうか

微妙に難しいことを知るとみんな財布の口を閉ざした。


「悪いがそちらの要求はのめない!」


「ざっけんな! この人質がどうなってもいいのか!!」


「そもそもどうやって渡せばいいんだ! そっちは6階だろう!?」

「……くそっ!!」


犯人はあきらめてまた部屋の中に引っ込んでカーテンを閉めた。


「おいピザ屋! 下で待機しているやつが料金を払うからピザをよこせ!!」


「馬鹿言うな! お金を払った人にピザを食べてもらう!

 金を払いもしないやつにこのピザは渡せない!」


「人質の命がどうなってもいいのか!?」

「ここで折れたら、ひいてはうちの従業員の家族が飢えるんだよ!!」


犯人は包丁をかざしピザ屋はピザカッターを振り上げる。

お互いに一切れも譲らないにらみ合いが続く。


「ひ…………し……」


犯人の腕の中で人質がとぎれとぎれに言葉を紡いだ。


「ひきだしに……4500円入ってる……」


「お前……どうして……!?」

「いやなんかさっきから匂いかいでたらお腹空いちゃって……」


人質のへそくりカミングアウトに驚いたのは犯人だった。


「まあ思えばずっと立てこもってるもんな……」

「こっちも定期的に助けて!って叫んだものだからカロリー使っちゃって」


犯人は人質を開放し、人質は引き出しからお金を取り出してピザ屋に渡す。


ピザ屋はお金を受け取ってから犯人へと詰め寄る。


「で、どうするんだ?」


犯人は目をそらしながら吐き捨てる。


「あんたも下のやつらに言われて来たのか。俺はけして折れねぇ。

 最後までここで抵抗してやる。説得なんかに応じるものか!!


 ……なんでこんなことになっちまったんだろうな。

 今までは普通に生活していたのにいつからか人生の歯車が狂っちまって。

 今じゃピザやにLサイズ(おもちゃつき)を払えないほど追い込まれて……。

 こんなはずじゃなかったんだ……! こんなはずじゃ……」


「そうじゃないだろ!」


ピザ屋は熱を持って犯人にビンタした。


「叱ってくれるのか……こんな俺を……」


「そうじゃない! 辛いソースは使うかどうかを聞いているんだ!!

 お前はどうするんだ!!」


「使う!!!」


犯人は人質と相談してピザの半分くらいに辛いソースをかけた。


「あんまり辛かったら交換してね」

「うん、私は辛いのわりと平気だから」


何時間にもおよぶ立てこもりにより疲弊していたふたりは

待ち遠しそうにピザの一切れをつまみあげる。


へりから垂れるチーズを落とさないように口に運ぼうとした時――


「警察だ!! 犯人め! 動くんじゃない!!」


鍵の開いたままだった扉から警察がなだれ込んで犯人を取り押さえた。

口に入る直前だったピザは悲しげに箱へと落ちる。


「ちくしょう、離せ! 離しやがれ!!」


「さんざん苦労させやがって。これでもう観念しろ!!」


「くそ……いつだって俺の人生はこうだ……。

 いつもゴール間近で誰かに邪魔されて台無しにされる……」


「さあ立て」


警察に支えられながら犯人は力なく立たされて連行される。

その目線は食べられなかったピザへと向けられていた……。



「待て!!」



ピザ屋は警察に向けて強く言葉を発した。


「まだその犯人に用がある」


「ピザ屋……! お前……わかってくれたのか……!!」


犯人は最後に触れる人の優しさに涙がこぼれた。

警察も最後だけはと犯人を抑えていた腕を緩める。


ピザ屋は犯人に近づいてそれを渡した。




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