第1話雨露霜雪-③

「久しぶりに警報の鐘が鳴ったね」

「珍しい、珍しい」

「君たちは行かなくていいのかい?逆に僕にどっかに行けと?」

 

 二人は目を合わせてから、グラデスを見て深く縦に首を振った。

 グラデスはジト目をしてから、ため息をついてコップを置いた。そして席を立ち、椅子を鳴らした。その音が首筋を凍らせた。


「呉々もしでかさないようにね?」


 二人はその場に立ち尽くしているだけだった。

 その部屋には、雪を表すかのような塵が光に反射しながら部屋中を舞っている。


「じゃ、よろしくね」

「うん」


 二人はグラデスが部屋をあとにするのを見て、窓から見える彼を消え去るのを待った。

 彼は何を考えているのかよくわからない、たまに彼等の見方をしたり、敵になったこともある。


「ひー!怖かったよぉ!」

「あいつはそうゆうやつだって知ってるだろ」

「知ってるけどさぁ」


 そう言ってヒルカは窓の外を眺める。窓の外は茶色の壁。そこには蛇が壁に連なったようなパイプが張り巡らせている。

 この個室は工場内にあるが、機会の動く音は聞こえてこない。グラデスはいつもこの個室をあとにする際に、工場にいる子供たちと会話をしてから、工場内のどこかへ消えていく。

 この工場には出口もない。空もない。寝る場所もない。そもそも子供たちは寝ることを知らない。


「俺行くわ…」

「うん、行ってらっしゃい」


 リラは壁にかけてある時計を見て、少し寂しそうな喪失感を纏った目をした。ヒルカはそれを見て、あることを口にする。


「記憶が無い時ってさ、何やってるんだろうね。私達」


 リラはその話しを無視して、部屋を出て行った。無視したのはいいとして、ヒルカがいるにも関わらず、部屋の電気を消してから部屋を出ていったのだ。

 誰かが部屋にいるのにも関わらず、だ。

 それから、部屋の電気がつくことは無かった。



 銃声が鳴り響く工場内。

 血が飛び散っている茶色のかべ。この茶色は今までの血がこびりついているのではないか、とそう思わせるほどだ。


「おい!こっちだ!」

「な~に~し~て~る~の~?」


 ニーヤに似た少し背が伸びて大人に近ずいた、少女が武装した男達に歩み寄る。

 武装した男達は、じりじりと詰め寄ってくる少女に非難の言葉を投げる。


 既に地面には幾つもの死体が転がっている。


「ひひぃっ!ば、バケモノ!化け物め!!」

「ここに足を踏み入れた者は帰れないんだよォ~?知らないの~?」


 ニーヤには似ても似つかない。目の周りには、線が引かれている。それが血管なのかもわからないほどに。

 他の子達も武装した男達に襲いかかっている。

 フガルは工場内全体を見渡すように、一周くるっと体を動かす。何かを見つけたのか、フガルは声を荒らげる。


「リリ!!」

「知ってるよ、兄さん。そんなに叫ばなくても」


 その少女はフガルを兄さんと呼び、振り向きもしなかった。フガルは悲しそうに、目をうるうるさせるがそんな暇を与えないように男達はフガルに襲いかかる。

 だが、武装しているのにも関わらず、一瞬にして人間と言う原型を無くしたようにクシャクシャに潰されている。

 目玉が地面にクシャと不快音を立てて投げつけられたかのように、地面にへばりついて落ちた。

 溶けかけのアイスが落ちたかのようだ。


「私をなめないで、兄さんの妹であってニーヤの姉なのだから、強いに決まってるだろ」


 そう言って、後ろから襲ってくる男を背中から急に生えてきた二つ羽で串刺しにした。

 心臓だけが左の羽の先端に掲げられた様に突き刺さっている。


 フガルの妹であってニーヤの姉であることを明かした少女、リリは自身の羽に刺さった男をどかしたかったのか、横に引きちぎった。

 そして、羽から落ちる男を踏みつけていった。


「さっさと居なくなって、ここは…」


 リラがライフルの様なものを構えて機械の上に立つ。そして、男達の指揮を執っている男を標準に合わせて、引き金を引いた。

 その音に合わせて辺りに巻き散らかっていた死体は、吹っ飛んだ。


「私達の居場所なんだから!!!」


 ニーヤが目をかっ開いて、工場内の男達を潰した。そのあとの静寂は、何か感じるものがあった。

 敵とみなされていた男達は誰一人生き残ることなく、地面に横たわっている。誰もが即死であり、意識のあるものはいない。激痛を長時間に渡らせることをしないことにあたっては、優しさで片付けていいか分からないが、子供たちの優しさだろう。

 機械の間から、隠れていたかのように血を浴びている女が現れた。髪はボサボサだが身にまとっているものはしっかりとしたスーツである。


「みんな良くやったね…」

「いつものおばさんだ!」

「いつものおばさんって何、おねえさんって呼びな」

「いや」


 語尾にハートでもつくかのように、ニーヤは可愛く答えた。それは昼間のニーヤでは無いようなテンションで。


「リラ、君はあとの掃除のことを考えてくれたのだろう?優しいね」


 リラは何も答えなかったが、嬉しそうに頬を赤らめた。


「怪我してないかい?怪我したやつはおいで」


 と、声をかけるが誰一人前に出ない。それだけ強い、ということなのだろう。これで分かる、この工場内に敵とみなされた者が侵入した場合は、即座に殺されるということ。

 攻撃する隙を与えていないのだろう。


「さて、君たちも休憩するとするか」


 そう言って、女は皆を横一列に並べて肩もみをしていった。

 肩もみをされた子供はバタバタと倒れていった。それを気にする子供も居らず、女も当たり前のように肩を揉んでいく。

 全員の肩もみを終えたら、一言声をかけた。


「お疲れさん。可愛い子供たちよ」

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機械不憫童子 @tokumitu1225

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