First meeting!
4月。それはほとんどの学生が胸踊るだけ踊らせまくって結果的に変な方向に行きがちな季節。いわゆる入学式というやつを、思春期の少年たちは悶々としながら待ち望む。
これは世界的に見るとかなり変わったタイミングらしい。我が帝国では4月をある種の始まりとしている節があり、近隣諸国では入学式を9月に行うのが通例だ。たしかに特殊ではあるが、別に、その他の国に前例がないわけではない。とある学者によると、数十年ほど前に存在したニホンという国と、こうした文化が共通しているらしい。
一説によれば、この国の総統にはニホンの血が混ざっているらしく、そうしたニホンの文化などを好んで取り入れるなど。そういったことがあるとかないとか。
こんな風に身のないことを考えつつ、ニホンが原産だというサクラが舞い散る中で僕は赤いレンガ造りの巨大な門の前に立つ。僕は、特に意味は無いけど、取り敢えず後ろを振り返る。
我が家から私鉄やら地下鉄を乗り継いで1時間20分の都市ペルソナ。伝説の殺し屋がいる、とか、都庁が核兵器に変形する、とか、意味の分からない噂が拡がっていることで馴染み深いあの都市ペルソナ。世界でも有数の観光名所であるその大通りを、如何なる煌びやかな店にさえ見向きもせず、ただひたすらに直進し続け、大量の桜並木(というより林。あるいは森)をさらに突きぬけた先にあるのがこの門。と、その先に見えるギムナジウムその名も『バーミリオン』。
振り返るついでに諸々思い返してみたが、いくつか言いたいことがある。
一つ、遠い。
二つ、立地が悪い。
三つ、でかい。
四つ、こわい。
こわい。こわいこわいこわいこわいこわい。
正直めっちゃこわい!!帰りたい!!てかトイレ行きたい!!門の前からでも漂ってくる威圧感が僕の膀胱を縮めている感じがする。死因が膀胱破裂とか嫌だって!
『解剖は?』『出来てますよ』『死因はなんだったんだ?』『膀胱破裂です』
『ぼう…、フォッww』
みたいな会話されるなんて血統の恥だし。
自分限りで末代になるのかなぁ、などと考えつつ改めて周りを見回すと気になるところがある。
今日は晴れやかな天気かつ晴れやかな行事――かつ緩やかに膀胱の危機を迎える僕――であるのだが、かの行事に参加すべきいわゆる新入生の姿がどこにも見受けられないのだ。気になるというか、不気味というか、異様である。少なからず僕はここに居るとしてだ。まさか僕一人なんてことはないだろう。などとうだうだしていると、
「なぁ!お前も新入生か?そうだよな!かぁー、にしてもでっけぇ門だぜ。だがな、こんなことで足すくんでちゃ漢がァすたる!いざ参る!先行くぜー」
勝手に話しかけてきて、勝手に完結して、勝手に肩組んできて、勝手に漢の話しして、勝手に意味わかんないこと言って、勝手に走り去っていった。
「嵐かよ……」
遠くなっていく背中を見つめながら思わず口に出た。
彼の放つ熱気に感化されたのか、それとも頭をやられたのか。そんなことは今になってもわからないが、ちょっと肩からずれたカバンをいい感じに直して、彼の背中を追うように巨大な入場ゲートをくぐる。
僕のはじめのはじめの第一歩は、意外とあっけないものだった。
ヒノモトダンジ 夏冬春秋 @KatouHaruaki
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。ヒノモトダンジの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます