エピローグ 女装系男子の平穏な日常2
優羽と話し合った翌日、つまり月曜日。
私は普通に登校して普通に学校で過ごした。
昨日あんなことがあったわけだけど優羽の態度はだからといって変わることもなく、昨日のうちに事の顛末を説明していた凛ちゃんもいつも通りだ。少しだけいつもと違ったのは昼休みに英梨花が教室にいなかったことぐらい。一応LINEでは土曜日のデート(仮)を台無しにしたことを謝ったものの実際に面と向き合って謝りたかったのだが学校には来ているようなので放課後、部活で会ったときに謝ればいいだろう。
授業が全て終わり放課後になった。
今日から見学期間も終わり一年生は部員として部活動をすることになる。
私と凛ちゃんと優羽と英梨花と姉さんは部室に集まっていた。
「ちょっと月乃。部員これで全部なの?」
全員が集まって十分ぐらい経ってから凛ちゃんが言った。
「知らん。顧問に訊いてきてくれ」
姉さんは頬杖をついたまま文庫本に落とした視線を上げずに答えた。
「いや! あんた部長でしょ⁉ それぐらい把握しときなさいよ!」
「・・・・・・まあ全部だろ。見学にこの場にいる四人以外来なかったからな」
「そんな適当な・・・・・・」
凛ちゃんの部長という言葉が刺さったのか姉さんはけだるげなではあったもののちゃんと答えた。まあめちゃくちゃ適当なわけだが。
「なにか部活動見学以外に新入生に働きかけてないの?」
「一応部誌を発行したな。図書室に置いてあるはずだ」
優羽の言葉に姉さんはこちらを向きながら言った。今日はオリキャラ創りの時のように机の配置は変えていない。なので五人の中で一番教壇に近い席に座っていた姉さんは一年生に今まで背中を向けていたのである。
「部誌・・・・・・そんなの図書室に置いてあったかしら?」
「なかったような?」
「確かにボクも記憶にないかな」
英梨花、私、優羽が同じ答えを出した。
四人の視線が自然と残りの一人、凛ちゃんに集まる。
「・・・・・・あたし図書室行かないから知らないんだけど」
「・・・・・・わたしは確かに発行した部誌を図書室においてもらっていたはずだが」
凛ちゃんに尋ねたことをなかったことにして姉さんが言った。
「じゃあ全部はけた、とかかしら?」
「あーそうかも」
「なるほど! じゃあ見学に来てなくても部誌を読んで来てくれる一年生もいるんじゃない?」
「まあありえるかもしれんな」
姉さんが頷いた。
「というか姉さん何かしないの? 今日はまだ文芸部らしい活動をしていないんだけど」
「何を言っているんだ、我が愚妹は。しているだろう?」
「え? 何かしたっけ?」
部室に入ってきてから喋るか読書をするかのどちらかしかしていないはず。
「文芸部とは部誌を発行しないときは何もしない部活だろう? だからわたし達はちゃんと文芸部らしい活動を行っている」
「・・・・・・そうじゃなくて。私が言ってるのは部活動見学の時にしたオリキャラ創りみたいな活動のことを言ってるの」
「例えば?」
「・・・・・・リレー小説とか」
「気分じゃないな。旭陽以外で何かしたいことのある部員はいるか」
「はいはい! ツイスターゲームをしたいです!」
私の意見を一言で切り捨てた独裁者に優羽が元気よく立ち上がって応えた。
「え、それ文芸部と関係あるか?」
「あるよ月乃ちゃん! 文芸部は小説を書く部活なんだからツイスターゲームを書かないといけない時が来るかもしれないでしょ? そのための取材だよ!」
優羽が英梨花へ頻りに視線を送っている。
「そうかもしれないな」
姉さんはそれに気づいているのか気づいていないのか、それには何も言及しない。
「うん。だからその時がいつ来てもいいようにツイスターゲームをやりたいです!」
優羽が英梨花の方を向いて言った。
それより今の優羽のツイスターゲームをするための論理の展開の仕方には聞き覚えがある。優羽にあのラノベ貸したことあったんだっけ。ほら『ぼ』から始まるラノベ。
「・・・・・・それはつまり私とツイスターゲームをしたいと陽羽里・・・・・・くんは言っているの?」
陽羽里とくんの間に妙な間が空いていた。敬称を付けるのも嫌になるほど優羽に呆れているのかもしれない。
「だめ?」
「・・・・・・訊くほどのことかしら? 誰があなたみたいな性欲の塊とツイスターゲームなんてするのよ」
「性欲の塊なんて! 羽咋さんはひどいなぁ」
「・・・・・・ならどうして前屈みになっているのかしら」
本当に優羽は芸が細かい。
「凛ちゃんと旭陽ならやってくれるよね!」
相変わらず優羽は前屈み。優羽は私の方を見ている。
「いや、やらないけど・・・・・・」
優羽と身体的接触なんてできない。優羽は私から視線を切って凛ちゃんの方を見た。
「ついすたーげーむって何?」
凛ちゃんは知らないらしい。
「ツイスターゲームっていうのはね・・・・・・あ、実際にやって見せた方が分かりやすいかな。羽咋さん、手伝ってくれない?」
「だからやらないって言ってるでしょ・・・・・・」
優羽の流れるような不自然さの全くない二度目の提案に、けれど英梨花は騙されないのだった。
と、まあそんな感じで、色々あったけど、ともかくは元の通りに時間が流れていくのでした。
女装系男子の恋愛模様 にょーん @hibachiirori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます