0-2 愛のない街に(辿り)ついて







曇りの夜が多い街だ。



















昼間の空模様なんて関係なしに、日が暮れる頃には、ソウルミュージックが溢れそうな分厚い唇のような雲がどこからかやって来て、私たちは蓋をされる。











ただ私が残念に思うのは、あの雲は分厚いだけで、せいぜい陽気な鎮魂歌を囁くことぐらいしかできないだろうということだ。







付け加えておくと、私は鬱陶しい雲は嫌いではないが、彼らがつくるえくぼはとても見るに堪えないと思う。






























鬱屈とした夜しか知らないこの街の人たちは満月の形すら思い出さなくてはいけない。







もしもここに日本人がいたらきっと英語を使わなければ愛を告白できないのだろう。


もっとも、彼らに「愛」があったら、の話だが。


 


 ともあれ、この街の景観はロマンチックな月に照らしてもらうほどのものではないから私はこの仕打ちには納得している。







複雑に絡み合った退廃的なビルの抜け殻たちとそこに巣食う、より獣のような野性味を帯びた、あるいは丸腰の、光の群れ。私たちはそこに住んでいる。




























 私も、月を見たことがない










今日も夜間工場の点滅する赤い照明やそこらの煩雑なネオンの緑やオレンジ色の光で分厚い雲がのっぺりと照らされている。










 照明がそんな感じだから、舞台であるこの街も、演者であるこの街の人たちも不気味に映ってしまうのだ。
















因みに観客はいるらしいのだけれど、彼らはチケット代も入場料も払う気は無いようだ。








そしてきっとそこで催されるのは、吐き気は言うまでもない訳なのだが、観客がいるとすれば、ミュージカルではなく、限りなく人形劇に近いのだろう。














 何故って、この街にはヒトはいないからだ。



この街の住人は皆、ヒトの手によって産み出された思考する機械、










アンドロイドだ。




































ヒトではない。









少なくとも彼らは私たちに喜劇を演じてほしいとは思っていないだろう。






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ネオンの金魚とアンドロイド 寺町 果子 @yumekanaemasu

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