あなたのお家はどこですか

ひとまず落ち着いたのでヌーラワジ殿の情報を確認してみる。


地面に絵を描きながら質問をしてみる。

「チマグー、“上の”、“人”、“これは何?”」


「“人”、“上の”、“人”、“上の”、“人”」

つまり、このあたりの農民の支配者の中でも偉い人だろう。

大当たりだ!


「“眠る”“眠る”フジムラ、“外”、“行く”、チマグー、“上の”、ヌーラワジ、肯定」

“家”という語がよくわからないから多少変だが、お呼ばれは明後日の様だ。


ひとまず、完全装備を整えるとする。

どちらかと言えば華美=偉いという感じなので、夜光ダスキ、安全標語リボン、カラビナ付きキーチェーン、ガチャガチャで回したストラップ等で飾り付けをしよう。

変に思う地球人なんて自分しかいないんだから我慢すれば大丈夫。

一応、就職の面接みたいなものだから相手が変に思わなければ大丈夫。


念のため、ポーチにナイフとライター、小銭入れ等の物品も準備する。

相手の好みがわからないということは、何が役に立つかわからないからとりあえずたくさん持っていくという作戦である。


次の日、いよいよ、明日が面接?の日に(息子)がえらいこと泣いていたと思ったら、かまどの火が消えていた。

かわいそうなので、ライターで火をつけてやったら喜んでいた…が、小さな火から炭に火をつけるというのは現代人の持っていないスキルである。

結局、消えてしまって、2回目は(息子)に任せた。

(息子)を叱った後に一部始終を見ていた(母)はなかばあきれ顔である。

あの一件以来、私をそこまで恐れも敬いもしている感じではなくなってきている。

所詮、食べれる獲物は怖くないといった感じだろうか。


当日、案内の兵士に4人でついていったら、史跡何とか亭みたいなところに連れてこられた。とりあえず、スーラワジ殿はただものじゃない。


早速、私以外の3人が断れない任意同行をされて事情聴取をされているらしい。

異世界だろうが、むしろ異世界だから?落し物は拾い主の物。

で、拾い主の雇い主はヌーラワジ殿。つまり、私はヌーラワジ殿の物。

うん、痛くなければ全然アリだな。いろいろと大きいし。お金持ちだし。

それに、何より現代人の知識が役立つ仕事場は、この辺ではここしかなさそうだし。


良い時間となったので、昼食を出された。

実地試験だと思ってマナーはわからないがきれいに食べることを心掛ける。

しかし、あまりにも大量なのと、料理のどれもが不自然に甘いので、きっちり半分だけ食べて後は残すことにした。

昼食後、ついに私が呼び出された。


こちらのマナーはやっぱりわからないので、前されたように返してみる。

まず、敵意のない証にポーチからナイフを出して、足元に投げ捨てる。

叙爵のポーズをとって“感謝する”。

次に、「“食べる”、“飲む”、“感謝する”。」

これでどうだろうか?


向こうも“感謝する”とある。ひとまず成功だ。

今回もヌーラワジ殿は何かしゃべっているが、やっぱりわからない。


メモも取らずに話を聞くのは失礼なので、聞こえた言葉を少しでも書こうと思ってメモ帳に書いているとものすごい食いつきをされた。

思った通り、読み書きができるというのは大変貴重なスキルの様だ。

なんで気づいたかって?

10日以上も寝泊まりして、文字の1つもない家で過ごすと誰でも気づくって話。


ヌーラワジ殿は大変興奮して、屋敷の一室に招いてくれた。

そして、何か一生懸命説明している。

よく分からないけど、時々“感謝する”と返しておいた。


最後に、もう一度4人集められて、ヌーラワジ領主殿から(母)にお金が渡される。


長かった一日が終わり、帰ったら(娘)が泣きそうな顔をしていた。

「フジムラ、“上の”、ヌーラワジ、“家”、“行く”、肯定。」

「“寝る”、“寝る”、“行く”。“ここ”、“帰る”、否定。」


よくわからないが、とりあえず面接には合格したようだ。

ただ、それは必然的にこの家族とのお別れということで。


旅立ちの日はあっという間に来た。

迎えの兵士に通じないとわかっていても

「フジムラです。よろしくお願いします。」

というと

「“名乗る”、クフェリーグ、なんちゃらかんちゃら」

と言っていた。

客人または偉い方が先に名乗るのがどうやら礼儀らしい。

これからの生活で必要になるだろう。


3人とも見送りに来てくれた。もういよいよ時間がない。

“きのう”も“あした”もない。“きょう”だけの生活だから“いつ”とは約束できないけれど約束しよう。


「“上の”、ヌーラワジ、“家”、“行く”。“ここ”、“家”、“帰る”。」


ついこの前、覚えたばっかりの“家”という言葉。

短い間ではあったけど、いつの間にかここを“家”と感じている自分に少し不思議な感じを覚えて、どうしても後ろを振り返れなかった。


引っ越した日の夜はずっと満月を見ていた。



第2章へ続く

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