お使いクエスト

偉大な勇者だって雑魚モンスターを倒すところからスタートする。

ましてや、私の好きなRPGのお使いクエストは水くみだったりする。


そんなこんなで水くみだ。

道すがら遠くに見える人たちは地面に手を当てて何かをしていた。

んで、田んぼというか畑というかには、あぜというかうねというかそういう収穫を上げようとする努力の跡が見当たらない。

道と田畑とは一応区切られているけど、平成の常識からいえば、とても農業をしているとは思えない。

鉄製農具もないみたいだし、牛馬の類もいない。

やはり人の手だけでは厳しいのか……。


ちなみに、同じくらいの大きさの田畑が、隣り合って作物と休耕田に分かれていたので、二圃制であるのはすぐにわかった。

生産性は低いと。

実家の父親の趣味の畑では、田畑の横に豆やちょっとした作物を植えて、少しでも収穫を増やそうとしていたが、そういったそぶりもない。


色々な理由で出来ないのかもしれないけれど、こんなに働いてなかったらある程度は死んでも仕方ないんじゃないかなと思った。


むしろ、そうならないためにも今は必死に水くみをするのみ。


余計なことを考えている間に井戸に着いた。

両手を広げたよりも直径のある大きな井戸だ。

井戸には巨大なシーソーのような機構が付いていて、テレビで見た知識だが、土建に異様に強い男性アイドルグループが使っていたのと同じようなタイプだった。

どこを押せばいいのか見た目でなんとなくわかったので、ヌーラワジャ(娘)に指さしで汲み上げる方か、木桶に移す方か聞いてみる。


シーソーの側を選んだので、肯定して配置に就くと、(娘)はさすがに慣れているらしく実に効率よく全体重をかけた。

つまり、やや高いところにぶら下がって、登ってシーソーの上に座り、徐々に端っこに座り移動する。てこの原理により、井戸側は徐々に上がる。

最大まで上がったらしく、手の届くところに吊るされた桶が来たので、持ってきた木桶に水を汲んで、横にずれて手を振る。1回で1杯と少し汲めたのは良かった。

もう一度繰り返し、(娘)が降りたので帰ろうと木桶を持ち上げたが、思ったよりも大分軽かった。長年の現場仕事で力が付いていたのだろう。

水くみが時間はかかるが、さして苦労する仕事でなかったことを喜び、家路につく。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る