もし僕が異世界へ行き、めちゃくちゃにする。同じことを2~3人もやってたら汚くなるでしょ?だから問題は人間の頭の中だ

水と食料を分けてもらおうとは思ったものの、村人Aは動いてくれない。


話をするなら相手と同じ目線で。

ということでかがみこんでお願いしてみる。


「水と食料を分けてください。」

日本語で。


「Water & Food Please」

英語で。


「Wässer Bitte」

ドイツ語で。


「しるぶぷれー」

フランス語?で。


「バクシーシ」

自分でも知らない謎の言語で。


全部だめだった。概ね地球語は通じないのかもしれない。

今どき翻訳機能がついてない異世界とか笑える。

いや、全然笑えないんだけど。


こっちが困っているのを察したのか村人Aがやっと顔を上げてくれる。

そちらがそう来るならこちらも別の手を使うことにすることとしよう。


おなかが減って頭を使いたくないんだけど仕方ない。

ここが本気の見せ所なんだ。


疲れ切った脳よ、今一度ちゃんと動いてくれ!


もし、ここが仮に“人間”の世界だとして、村人Aの話す言語がチョムスキー文法によって構成されているとしたら語順はこうなるはず。


例文) オレサマ オマエ マルカジリ。


だからこうする。


自分を指さして両手で水をすくって飲む真似。

続いて右手で手づかみで食べる真似。


村人Aははっきりと困惑しながらも何かを言っていた。

意思疎通はできたみたいだ。良かった。


確かに困惑するのもわかる。

ただで寄越せというのは確かにむしのいい話だ。

気持ち程度の支払いをすることを伝えるためにもう一度同じジェスチャーをして、最後に小銭入れを取り出す。


ところで、お気持ちでって言われた時の相場ってわからないよね。


村人Aは中世の農民っぽい恰好に見える。

(現代人である私には中世と近代の農民の違いはわからないが)


少し考えて銅貨2枚と半分の25円を出した。

「チッ!」

舌打ちをされた。


この世界の銅貨の価値ってわからないけどやっぱり少なかった?


ざっくり137円にしてみる。

「チッチッ!」

2回も舌打ちをされた。

その上、はっきりと首を横に振りながら拒絶された。

私に見えるように最初の25円までお金を返され、そしてその後、なぜか五体投地された。


私は困惑を隠せない。


おおよそ人類をやっているとわかると思うが、五体投地というものは“服従”または“崇拝”、最低ラインでも、全くの敵意のないことを表し、相手をその状態のままに

しておくことは結構恥ずかしい。


「チッチッ!」拒絶の意を示し。

村人Aを助け起こし。

私も五体投地する。


同じように助け起こされ、村人Aはなぜか涙ぐんでぷるぷるしていた。

このまま地面と仲良くしていてもきりがないので、もう一度水と食べ物のジェスチャーをすると覚悟を決めたかのように手招きをされたのでついていった。


森を抜けて村の入り口付近まで来たときに「ヌーラワジ」と聞こえた。

村の名前か村人Aの名前かわからないけど今度は使ってみよう。

もちろん、ゴッホの例を挙げるまでもなく村の名前=村人の家名というパターンだってありうる。


名前がわかるということは良いことだ。少なくとも、今度からはもう少し知的な会話ができるという素敵な知らせだ。


村の外れの家というか東屋というか三匹の子豚に出てくる狼が吹けば飛ぶこと間違いなしのソレに着いたころには日差しは強くなっていた。


祭壇に供えるように差し出された、なんだかよくわからない物たちを味もよくわからないままに無警戒に飲んで、食べて、某ゲームなら「うまごや」と表記される寝床で寝たら次の日だった。

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