新しい元号、新しい世界

トンネルを抜けたらそこは異世界だった

 元号が変わり、28歳になった。

そして、今、異世界にいるらしい。


 落ち着いて考えてみよう。

あの時、仕事で地下管廊かんろうに潜っていて…


地震があって…


生き埋めになって死んだと思っていたら、無事脱出に成功して…


そして、今に至ると。



 ゲームなら、まず、ステータスをチェックするところだが、生憎あいにくと生身なのでそんな便利な機能はない。


 見えるところに大きな外傷は無い。強いて言えば背中を少し打ったくらいか。

あ、あとメガネのフレームが少しゆがんでる。


 所持金は…今は関係ないか。所持品は、スマホ、ライター、LEDライト、ポーチの中の小物くらい。外した腕時計も一応着けとこう。

同僚がちょっと早いけど見逃しといてやると言ってくれて、直帰用に私物の入ったリュックを背負しょってなければ本当に何もないところだった。

多分、潰れてるけどリュックの中身も時間ができたら整理しておこう。


 現在地は多分異世界。確か仕事で通ってる施設にはツツジが植えてあったはずだが、目の前には沖縄で見たような植物が生えている。

それに、海の見えるところにいたはずが森の中にいる。

柑橘類のようなにおいが漂っている。


 時間は5/16 01:37とある。確か、19:23の故障に対応して地下管廊かんろうに潜ったはずだからおよそ5時間。道理で空腹なわけだ。

もちろん、地下管廊に潜った時からずっと圏外らしく着歴もメールも連絡アプリも沈黙したままになっている。

電源は切っとくか。


「さて、どうするかな。」

癖になっているひとり言をつぶやくと解決策が思いつくような気がした。

気のせいだった。


最善策は帰ること。これは多分不可能。

なら、次善の策としてはこの世界を生き抜くことか。

可能ならば面白おかしく。できるだけ楽に。

いままで特に面白みのない人生だった。それくらいはいいだろう。



こうして私の(多分)異世界生活は始まった。

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