006 日常6
ホールに戻り、声がする方へ目を向けると、少し大きめのテーブルで、ラビ達が仲良くふざけ合ってるのが見えた。
自分の分が残っているか確認しようと様子を伺うと、タヌキが、残りの一個を大事そうに抱えて、見るからに美味しそうなクッキーを、もそもそと食べているのが見えた。
「遅かったな! もう無いぞ!」
「だろうね」
「ルイの分も残しといてって言ったんだけどさ……」
アキは伏し目がちに、申し訳なさそうにしている。
比べて、へらへらとしているラビの顔が癪に触る。
「分かってた、分かってたさ。でも、どうせならその優しさを、形にして残しても良かったんじゃない?」
自然とため息が出る。
テーブルの上で、こちらのやりとりを気にも止めず、一心不乱にクッキーをちみちみもそもそととかぶりついているタヌキに目を奪われて、しばらく見つめていると、こちらに気づいたタヌキが不思議そうにこちらを見上げた。
しばらくの間、タヌキと見つめ合う。
そして、はっと何かに気づいた表情になるタヌキ。
「こ、これはわたしのものです! 欲しいと言ったって、あげません!」
クッキーを大事そうに抱え、慌てるように言うタヌキ。
「あなたのは、そちらに――」
クッキーが入ってたであろう、皿へ目をやった後、言葉を詰まらせたタヌキは、目をパチクリとさせている。
「えっと……あの……これ、あげます」
この世の終わりの様な表情をした直後、項垂れながらも、クッキーを突き出すタヌキ。
今にも泣きそうな表情が痛々しい。
「……いらないよ。食べかけじゃん」
「そ、そうですか! 食べかけなら仕方ないですよね! ええ! 仕方ありません!」
ぱっと、表情を明るくしたたぬきが、再びクッキーへ齧りつく。
あんなに美味しそうに食べているのを見ると、俺が食べれなかった事なんて、別にどうでも良い気がしてくる。
「今日、開店すんだっけ?」
「どうだったかなあ……昨日も開けたから、分からないな。残りどのくらいなんだろ」
昼寝しているキツネの腹を撫でながら、口をへの字にして言うアキはも、どこか少し眠そうで、うとうとしている。
少しすると、今にも寝そうになっているアキは、自分の顔をパシリと叩いて、背筋を伸ばした。
その音で、体をびくりとさせて、起き上がったキツネが目をパチクリとさせている。
「っんだよお……驚いたじゃねえか」
「あ、ごめんね!」
アキは、キツネの頭を撫でながら立ち上がると、作業場の方を見た。
「聞いてくるね」
席から離れ、作業場の方へ向かうアキ。
ぱたぱたと歩く後ろ姿に揺れている尻尾が、ご機嫌に揺れていた。
小気味良く揺れる尻尾を見ていると、眠気を誘われ、意識が持っていかれそうになる。
アキが座っていた場所を陣取る。
ついでにキツネの頭を、指先でくしくしと撫でた。
キツネは少し嫌そうな顔をして、こちらを見たが、手を跳ね除けない所を見ると、まんざらでもない様に感じる。
指先に感じる、触り心地の良い毛並みを堪能して、ふうっと一呼吸。
今日の獲物、楽に狩れるとは言え、命のやりとりだ。
疲れないと言ったら、嘘になる。
長い事、こんな生活をしていると、感覚が麻痺してきたが、それでも、軽いスポーツをした時より疲れる。
精神的にも、疲れているのかもしれない。
胸のあたりが重く感じ、もやもやとした気持ちが拭えない。
何と無くではあるが、姉さんが作ったクッキーを食べれば、そんな暗い気持ちが、少しは楽になるのにと、さらに気が落ち込んでしまった。
「クッキー、食べたかった––」
店の入り口から、木を叩く様な音がして、心臓が跳ね上がる。
誰かが、店の扉を勢い良く開け、入ってきた様だった。
「僕だよ!」
きつねとたぬきの送り者 @araikumaneko
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