奇奇怪怪
JJ
音
パチンコ店や、綺麗な女性が接待してくれる夜の遊戯場など。
昔から欲の集まるところには、霊などの類のものが集まりやすいと言う
話を良く聞きますが…この話もその1つに入るんではないでしょうか。
この話を教えてくれたのは、M県に住むTさんという女の子です。
このTさん、当時20代前半。
つきあって1年ほどになる、同じ年頃の彼氏さんが居たそうです。
まだ年も若くしていましたし、この彼氏さんの親御さんが
真面目な方達で、2人で暮らすにはまだ早いんじゃないかと
なかなか、家を出るのを許してもらえなかったそうです。
自分1人で引越し費用を出せるほどの貯金もなかったので
「仕方ないか、お金が貯まるまで」と我慢していたのですが…
若い2人です、やっぱり一緒に居る時間が欲しい。
明日は会社が休みとなると、2人で会って食事をしてどこかに泊まる。
そんなことを繰り返していたそうで…
そのうちに明日が仕事でも、外泊をするようになりました。
しかし20歳そこそこの2人、さすがにお金が続かなくなってきた。
Tさんは諦め半分で、彼に言いました。
「もっと安い所あったらいいのにね…」
すると少し時間を置いて…
「ん…一個あるけどね~」
「えっ?あるの?」
「あるにはある…」
安いホテルがあると聞いたTさんは、テンションが上がったのか
「どこにあるの?」
「いくらするの?」
「ボロボロなの?」
と連続で質問。すると彼
「いや…そういうんじゃないんだ」と一言。
「…?まさか誰かが殺されてとかそういう…?」
しばらくの沈黙。
「いや、そういうのでもない」
「じゃあ、何?」
「造りが変なんだ。
部屋に入る階段の天井がすごい低い、でも中は普通なのよ古いけど」
「ふぅん…」
彼の話だけを聞いていても一向にピンときません。
「じゃあさ、近いうちに行ってみようよ」
「いいよ」
あれから3日が過ぎ、週末です。
「あそこ行ってみる?」
「うん、行ってみる。」
2人は車に乗り走り出しました。
車で20分足らずの所にそのホテルはありました。
確かに今時のホテルと違って、電飾といい看板といい薄ら暗く
「人目を忍んで来る所ですよ」と建物自体がいっているような感じの
古いホテルだったそうです。
建物の敷地に入る所には、今時は見かけなくなった重いビニールのカーテン。
それを潜ると建物が見えてきました。
これは今でも普通にあるような、2階が部屋で下が車庫という造り。
車から降りて奥へ行くと階段があって部屋に上がる、人に会わないで良いようになってる。
…と、車から降りた彼がじっと立ったまま動かない。
「どうしたの?」
「ちょっと待ってよ…」
彼は辺りを見回している。
「なになに?」
「いや、鍵かかってるから開けてもらわないと」
「は?」
すると、こんな場所には似つかわしくないおじいさんが懐中電灯を片手に歩いて来る。
「いらっしゃいませ、開けますね」
小さく言うと、おもむろに車庫の奥へ。
「どうぞ…」
そう言って階段を上がっていく。
階段ってこの階段かな…先日の彼の言葉を思い出した。
「上低いんで、頭打たない様に気をつけて」
行ってみようと言ったものの、これは何なんだろうと思うような階段。
まるで屋根裏部屋に上がる階段のように幅が狭い、そのうえ鈍角。
本来は短いはしごか何かで上がっていた所に、無理矢理階段をつけたから天井が異様に低くなったというような違和感があったそうです。
部屋について、料金は先払いでおじいさんに…
「ではごゆっくり、チェックアウトは10時になりますので。」
そう言っておじいさんは出て行った。
「ね、階段の天井低いでしょ?」
「うん、低いけど他は普通だね。」
そう言いながら部屋の中や、お風呂場を一通りチェックして回った。
特に変わった所はない。
ドアを開けて入ってすぐにソファーとローテーブル、その上にはお菓子が置いてある。
開け放たれてはいるが、仕切りのアコーディオンカーテンがあって隣りはベッドルームと至って簡素な部屋です。
ソファーに落ち着いて正面のテレビが目に付いた。
「テレビって、これ?まだ見れるのかな?」
そこにあったのは、ブラウン管のテレビでした。
「いや、テレビはこっちでしょ」
と笑いながら、彼がテレビのリモコンでテレビをつけた。
「あ、そっちか。だよね」
そうしていくつか番組を見て、お風呂に入りベッドへ。
横になって2人、おもむろにTさん。
「ここ、おじいさんとおばあさんでやってるのかな?」
「なんで?」
「2人だから、あのブラウン管のテレビ置きっぱなしなんじゃない?
重くて動かせないんだよ、多分…。
だからソファーもそのままなんだよ、ソファーあそこだと新しいテレビ見にくいのに動かせないんだね。」
「あ~なるほど」
「最初はどんなだろうって思ってたけど、何か納得した~、ほかにも車停まってる部屋あったし大丈夫そうだね」
そんな話をしながらうつらうつら眠りに落ちていったそうです。
どのくらい時間が経ったのか、ふと目が覚めた。
隣では彼氏が静かに寝息を立てている。
再び眠りにつこうと寝返りを打って、布団をかぶり直した。
目を閉じたままでぼんやり起きていると、何か気配を感じた。
『…ん?何だろう』
そのまま体勢を変えずに気配を窺がっていると…
スッ…スッ………スッ…
という足を擦って歩くような音。
『えっ?誰か居る?!』
どうも背中を向けているアコーディオンカーテンの向こう側、隣の部屋で気配がする。
アコーディオンカーテンは寝る前に30センチ程開けてほとんど閉まっています。
薄暗い部屋の中、神経を耳に集中させて窺がっている。
…スッ…スッ………
確実に音が聞こえている。
『まさか、泥棒?!』
荷物は隣の部屋です、荷物の中には財布も入ってる。
『やばいよ…どうしよう』
隣の部屋に居る何かにばれない様に、横で寝ている彼氏にそーっと手を伸ばした。
スッ……スッスッ……スッ…
音はまだ聞こえてる、背中から伝わる気配はだんだん強くなっている気がする。
伸ばした手で軽く彼を揺すってみた。
『嫌だ、何で起きないの』
もう少し強く揺すってみる。
それでも全く起きる気配がない。
『何よ、どうなってんの?』
Tさんの彼氏さん、いつもは少し声を掛ければすぐ目を覚ますそうで
こんな事は、初めての事だったそうです。
…スッ……スッ……カッ…
『えっ?…今の何の音?』
彼氏は一向に起きない。
隣では少し変わった音、怖くて動くに動けません。
目を閉じたまま固まったようにじーっとしています。
『泥棒なら財布いらないから、早く盗って出てってくれないかな…』
そんなことを考えていると、突然背中に気味の悪い寒気を感じた。
『…えっ?』
スッ…スッ…スッ……カッ…スッ…
『絶対何か居る!!』
さっきまでより音がはっきりしてる。
どうやら部屋の中を歩き回ってる。
『泥棒じゃない!』
ここでTさんはこの世のものじゃないと確信したそうです。
その後もその音は何分か続き、ふと静かになりました。
『…あれ、音がしなくなった?』
そう思った瞬間、さっきまでと比べ物にならないぐらいの寒気が腰の辺りから首元へと通り抜けた。
『!!!覗いてる?!』
あの間仕切りのアコーディオンカーテンの隙間、女が覗いてる。
背中を向けているのに女だということがわかる。
自分を見ている訳ではないようだが、こちらの部屋をじっと見ている。
『入って来ないで下さい!入って来ないで下さい!』
心の中で呪文のように続けた。
もう怖くて堪りません、今自分が見えてることがバレたらどうなるんだろうと思うと細かな震えが止まりません。
…スッ…スッ…スッ……カッ…
『…行った…?』
硬く瞑った目の中に、映像のように隣の部屋が見えた。
暗い豆電球の明かりの下、女が1人いる。
何をしているのか部屋の中をクルクルと歩き回っている。
そして時々ソファーに腰を掛け、テーブルの上にある水の入ったグラスを手に取り飲んでいるように見えた。
『あの音…だったんだ』
女は水を飲み終わると、またすっと立ち上がりクルクル歩き回っている。
そこで眠ってしまったのか、気が遠くなったのかどちらかはわかりませんが気づくと朝になっていたそうです。
朝になると彼氏さんは普通に起きて来ました。
すぐさま昨日の話をしますが、なかなか信じてくれません。
「起こしてくれればよかったのに」
「起こそうとしたよ、でも全然起きなかったんだよ!」
「うそだよ~…」
あの女はなんだったのか、何故彼氏さんは起きなかったのか…
疑問は残ったままです。
ネットなどで調べても、その場所で何か事件があったなどという情報は
見当たらなかったそうです。
ただ不思議だったのは、週末に宿泊でチェックインした時
他の部屋にも車が数台停まっていたのに、日曜の朝7時頃にチェックアウトした時、早朝にもかかわらず自分たちが泊まっていた部屋以外に車は無く、全ての部屋に空室のランプが点いていた。
「みんなは、知ってたのかもね」
そう言ってTさんは笑いながら、話を締めくくりました。
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