Final chapter Tower of qliphoth ⑤

 午後八時。東雲の島田技研。

 眩い照明の元で島田技研及びシマダ武装警備の職員達が総出で作業をしており、その様相は戦場と言っても過言ではない賑々しさであった。あるいは祭の前夜の盛り上がりか。

 三台の大型の装甲されたトレーラーの周囲には機材や武装を積んだコンテナなどが並べられている。フォークリフトが〈キュクロプス〉を積み込んでいる。

「どけどけ! 自分の作業が終わった奴は散れ!」

 フォークリフトを操作している作業員の怒声。他にもあちらこちらで声を荒げる者がいる。

 その大騒ぎを既に〈黒瞥〉と〈シンデレラアンバー〉を装着している夕夜と美月が見つめていた。マスクを開放して顔面は露出させている。背中からは既にカーゴに積まれた充電用クレイドルと接続しているケーブルが尻尾のように伸びていた。

「ここからニッタミのある大鳥居までどんくらいだっけ?」「高速かっ飛ばしていくから三十分もしないですよ」「何もなければの話ならな」「ええ、何もなければの話ですが」「奴さんの動きはどうだ?」「首都高湾岸線羽田出口に動き有り。警察の機動隊ですね。DAEの姿は確認できませんが固められてます」「だそうだ。何もなければって話は無くなったな」「所詮は権力の犬か……我が古巣ながら情けなくなってくるね」「全くだ。だから辞めたんだがな」「十中八九〈でかぶつ〉も出てくるんだろうなー」「ここは私達三係が引き受けましょうか」「助かる」「お巡りボコれるとか、楽しみにになってきた!」「ニッタミ本社の様子はどうだ?」「先程からVIPって感じの高級車が何台か入ってきてますね。警備と思しき輩はいますが、屋外に戦力配備と思しき動きはまだ無いです」「了解した。引き続き監視と報告を頼む」「準備運動は済んだかー?」「ばっちりでーす」「社屋の中に強襲するのは真崎と影山だろ」「あの二人なら大丈夫だ」「夕夜、新しい左腕の調子はどうだ」「ばっちりです。今回の劉博士は良い仕事してくれますね」「最早今週のビックリドッキリメカって感じじゃねえか」「おにぎり作ってきたから機動強襲課の皆さんは召し上がってくださ〜い」「お味噌汁もありまーす! お茶はこちらです」「中身何?」「面倒だったので全部梅です」「うぇ……マジか」「千葉、梅干し苦手か。知らなかった」「いかん、〈黒瞥〉装着してるからおにぎり食えない」「はいゆうくん、あ〜ん」「あ〜ん」「いちゃついてんじゃねえよ、緊張感ねえな!」「美月ちゃんも、あ〜ん」「あ、あ〜ん……」「んぐ……んまい」 「装備全て積み込み終了しましたー! 各チームのリーダーはダブルチェックお願いしまーす!」「よしきた」「〈キュクロプス〉搭載完了! 着装要員は全員着装して待機!」「待って、まだおにぎりが……!」「ダブルチェック終了。装備の積載はこれで完了だ」「各員、装備確認!」「うぃー」「煙草持ったかー?」「うぃー」「忘れ物しても取りに帰らんぞ」「うぃー」「やべ、ライター忘れた!」「貸してやるよ」「全員が生きて帰るまでが任務だからなー」「うぃー」「死なれると総務としても面倒なんだからね!」「うぃー」「総務のお局さん、この間辛島を生き返してこい!ってマジギレしてた」

「おーい、待って待ってー」

〈サーベラスチーム〉の乗るトレーラーに劉雪梅が白と黒に塗装された二つの人間大のコンテナを積んだフォークリフトが近づいてきた。

「なんですか、それ」

 美月が訊ねると、雪梅は自らの技術を誇るようににんまりと妖しげな笑みを向けた。

「お前たち二人のための新兵器だ」

「ついに出来たんですか」

 夕夜が顔を上げて、〈黒瞥〉のマスクを開放する。

「おうそうだ。今装着してあげるから、二人ともちょっとこっち着て」

 言われて美月もクレイドルから立ち上がり、一旦カーゴから降りる。

「『ヴァイブロブレード』、いわゆる高周波ブレードだ。前回使ってもらった義手のデータからようやく完成にこぎつけたよ」

 最初に黒のコンテナのシーリングが解かれる。中には一本の装甲に覆われた筒と柄のようなものが安置されていた。よくよく見れば、装甲された筒は僅かに反っており、筒と柄の間には鍔と思しきものが挟まっている。そして柄には簡素ながらも菱紙による装飾も施されていた。これはまるで……と美月は驚きを顔に浮かべた。

「使用する時は黒瞥の腰にある端子からケーブルで接続する必要がある。だから黒瞥本体のバッテリー残量には気をつけること」

 次に白のコンテナが開封された。中にはシンデレラアンバーとは全く以て対象的には漆黒のアサルトライフル大の銃が収まっていた。形状から銃として認識することはできるが、どのような銃かということは判別できない。何より銃口さえも見当たらない。それほどの変わった形状をしていた。

「……あのこれは?」

「あぁ、これはだね……」そう劉が解説の口を開いたところで、一画にアラートが鳴り響いた。

「全車スタンバイOK!」「任務開始準備整いました!」「劉博士、こんなところで一体なにやってるんですか!」

 アラートと共に準備スタッフたちの怒号が劉に被せられる。スタッフの一人が劉の手を取り、トレーラーから引き離そうとする。

「待って! 彼らに新しい装備を……!」「だったら予め申請しておいてくださいよ!」「いきなり新しい兵装追加されちゃ、サポートも把握しきれないじゃないですか!」

 職員達がトレーラーの傍にいる雪梅を引き剥がそうとする。それに構わず彼女は説明を続けた。

「いーい、影山ちゃん? とりあえず移動中にそれと〈シンデレラアンバー〉を接続してね。接続方法はさっきの〈黒瞥〉と同じだから。そうすればオートでドライバのインストールとレクチャーが始まるから。あとそれ未完成品だから気をつけるんだよ! 」

 最後に全く無視できないような言葉を残して、カーゴの扉が閉じられ施錠された。「あの、最後に聞き捨てならないこと言われてたんですが大丈夫なんでしょうか……」と美月は夕夜に訊ねるが、「まぁあんなんだけど、あの人がしくじったことはねえよ」と答えるだけで、彼は新しく与えられたおもちゃに意識を集中していた。

 そして三台のトレーラーが発進する。 東雲から大鳥居までは三十分もかからない。美月と夕夜は早速渡された新装備のセットアップをカーゴ内で始めた。

 夕夜はヴァイブロブレードを鞘から抜く。ぬらりと鞘摺りの音を立てて姿を現したのは、形こそ打刀のそれだが、日本刀というにはあまりに武骨が過ぎている。日本刀は芸術品とも評されるように、その刀身には有る種の典雅さを称えているものだが、今夕夜が手にしているそれにはそういったものが皆無だった。刀身を補強するためか峰の部分は装甲で覆われており、刃先は光沢を塗りつぶしており刃紋も無い。一応、申し訳程度に柄と鍔をそれっぽくしていることで、それが日本刀を模しているものだと見てとれた。

 だがそんな実用性しかない代物でも夕夜には魅力的に映ったようで、夕夜の瞳は恍惚に揺れていた。早速〈黒瞥〉の腰部にある充電用端子からケーブルを伸ばし、柄頭にある端子と接続した。すると、夕夜の網膜にヴァイブロブレードのドライバをインストールしていることを示すインジケーターが投影された。程なくしてインジケーターは百パーセントとなり、次に新たに追加された武装に関するチュートリアルが開始される。

 チュートリアルを追っているのか、視線を中空に向けてしきりに動かしている夕夜の姿を見て、美月も新たに渡された漆黒の銃器を接続しておくことにした。

 シンデレラアンバーの腰部端子と接続しながら、その銃器をまじまじと見る。アサルトライフル程度の大きさではあるが、見た目よりもその重量は遥かに思い。シンデレラアンバーの機動に影響が出ないギリギリの積載量ではあるが、こんな重いものを担いでこれから大暴れするというには、いささか不安材料ではある。

 シンデレラアンバーのシステムと漆黒の銃器が接続され、ドライバインストールのインジケーターとともに、その銃器の名称が眼前に表示された。

 その名称を見て、美月は思わず呆れたような声を漏らした。

「あの……劉博士ってもしかしなくてもアホなのでは……」

「やっと気づいたか。あの人、加減ってものを知らないからな」

 劉雪梅。台湾からやってきた、典型的なマッドサイエンティストである。

 トレーラーがカーブを曲がらなくなって、五分ほどが経過していた。おそらく高速道路に乗り上げたのだろう。

 その場にいる全員の視界上にアラート表示が投影されたのはその時だった。

『熱源及びローター音接近しています!』

 美月達を運搬する戦闘車両のハンドルを握る葵の声。

『ガンシップかよ……!』

 千葉が呻く。

 トレーラーに装備されているカメラと網膜投影が同期され、美月達の視界上にカーゴの外の光景が投影される。

 AH-64アパッチ戦闘ヘリがこちらを睨めつけていた。

「なんか来るとは思ってはいたが、街中で堂々と戦闘ヘリ飛ばすとはキレてるとしか思えんな」「我来ってナノマシンに手を出してるくらいのイカレ野郎なんだろ? だったらこの程度のこと屁でもねえって思ってるだろうよ」「そりゃあ、国会議員様だからな! 上級国民だからってもんで、警察を黙らせたんだろうよ!」「そうかい! 俺、次に警察から仕事回ってきたら真面目にやってやんねえからな! くそったれの公僕どもめ!」「はいはい、無駄口叩かないでさっさと撃ち落としましょうね」「は〜い」

 いくら根腐れしていたとしても警察は警察だ。街中で払い下げの軍用ヘリが羽音を立てていたら、どれだけ寝ぼけていたとしてもすっ飛んでくるはずだ。それにもかかわらず、サイレン一つ聞こえてこない。今頃、そこかしこで通報されている一一〇番は桜田門の通信指令室で止められていることだろう。

「村木さん……!」

 美月が立ち上がり、村木に指示を乞う目を向ける。だが村木は「駄目だ」と首を横に振った。〈サーベラスチーム〉、特に美月と夕夜はニッタミ本社社屋の突入要員であり切り札だ。道中でDAEのバッテリーも弾薬も、そして装着者の体力も消耗させるわけにはいかない。

「おうおう! 影山よ! ちょっとは先輩を立てることくらい覚えてくれよ」「そうそう。俺たちの出番少なかったし、これぐらいは手柄譲ってくれよ」三係、そして四係のメンバーの猛々しい声。

「お嬢ちゃんお坊ちゃんがたは目的地までおねんねだ」

 そう言って、キリカは立ち上がった美月の肩を押さえて座らせる。

 先頭と二番目走る二両のトレーラーのカーゴが展開される。一両に四機のキュクロプスが既に武装のセイフティを解除し構えていた。

 一ツ目髑髏の紅い眼睛が夜のハイウェイに流れていく。

 機動強襲課三係〈ガルムチーム〉のリーダー、コールサイン〈ガルム1〉の天野が肺一杯に空気を吸い込んで戦闘開始の、そして今宵の狂騒(カルナバル)の開催を声高に告げた。

「さぁ戦争を始めましょう! 手始めにまずは目の前のうるさい蠅を叩き落とします! 戦闘開始(オープンコンバット)!」

 一台のカーゴには四機、合計八機の〈キュクロプス〉が一斉に手にしている重機関銃のトリガーを引き絞る。M2、七四式、そしてミニガンがけたたましく吠え、火線がアパッチを追う。

 だがアパッチは急速に上昇し銃撃を回避する。そして反撃のばかりに30ミリチェーンガンの雨を振らせた。

 三両のトレーラーのステアリングを握るのは二係フェンリルチームである。先頭の〈バーゲストチーム〉を運搬する車両の担当は三条だった。警察官時代のカーチェイスで培ったドライビングテクニックで、アパッチの機銃掃射の被弾を最小限になるように回避している。いくら防御力に優れたキュクロプスであっても、アパッチの30ミリはダメージとなる。ましてやトレーラーのタイヤをぶち抜かれたらひとたまりも無い。

「ゴジラも殺せなかった奴が俺達を殺れると思うなあ!」

 全く命中する気配の無い機銃の火線にパイロットが焦れたのか、アパッチの外側パイロンから閃光が走る。ハイドラ70ロケット弾が先頭トレーラーを食い千切らんと襲いかかる。

 三条がステアリングを切る。車体を大きく揺らしながらもロケット弾を回避。目標に命中しなかったロケット弾はアスファルトの路面を破砕しただけで終わった。後方で噴き上がった爆煙はすぐに遠ざかっていった。

 大きく揺れるカーゴの中でも〈キュクロプス〉は全く微動だにしていなかった。足裏からアンカーを床に打ち込んでいるため転倒することは無い。

 対空ミサイルのジャベリンを撃つも、アパッチがフレアを撒き散らしミサイルの目を逸らせる。目標を見失ったミサイルは虚空へとフラフラ飛び交い、そして自爆した。

「へいへい、皆様がたよ。ヘリ一つちゃっちゃと叩き落とせねえのかよ。うちのチームのシンデレラが舞踏会に遅れるっておむずかりのようなんだがよ」煽るようなキリカの言葉。

「うるっせぇ! 黙ってろ楔!」

「いやぁ、手伝ってやりたいのは山々なんだがよう。ウチらは本番まで待機って命令されちまってるからな〜」

「スナイパーは影山一人だけじゃねえんだよ」

〈ガルムチーム〉の村上の〈キュクロプス〉がバレットXM109ペイロードを構える。

 狙いはコクピット。だがNATO弾はキャノピーを穿つことなく逸れた。どこぞに命中したのか微かに火花が上がるだけに終わった。

「スナイパーは……なんだって?」

 だがテールローターの回転が緩くなり、そして止まった。

 テールローターによるトルクが失われれば、ヘリというものは木の葉のようにくるくる舞い落ちるものと決まっている。制御不能に陥いったアパッチは、そのまま住宅街へと墜落し、爆発炎上した。

「最悪」「あーあ。俺しーらね」「住民からの通報に対応しなかった警察の責任ということになるんだろうな。ざまあみろ」

「わたしなら、アパッチを住宅地に落とさないように仕留めることができました」

 美月の言葉に、その場にいた全員が呆けて沈黙するが、次の瞬間には通信は爆笑で埋まった。

「言ってくれるじゃねえか! この案件が終わったら勝負だ、小娘!」「じゃあ、俺は影山に張る」「俺も影山」「アタシも美月にな」「私も美月ちゃんにかなー」「俺も影山っす」「おい、賭けになんねえぞ!」

「俺も影山にだ。で、ちょいとものは相談なんだが、全員前方を見てくれ。どうしてくれる? え?」と三条の声。

 天野が〈キュクロプス〉のカメラアイを望遠モードに切り替えて、遠方を見遣る。

「あらあら、出待ちがあんなに。人気者は辛いですね」

 首都高速羽田出入り口。ゴールは目前だが、その出入り口は固められていた。数機の〈モビーディック〉とライトアーマー装甲車両が機動強襲課の行く手を塞いでいた。警察にはまだ〈モビーディック〉は配備されていない。考えられる可能性に先頭車のハンドルを握る三条は胸の内に反吐で吐いた。

 だがやりようはある。先程と違って、相手は頭上をぶんぶん飛び回る鬱陶しい羽虫ではなく、地面を這いつくばっているウジ虫どもなのだから。少し始末に手間はかかるが。

「答えはシンプルだ。押し通る。〈サーベラスチーム〉を我来の尻の穴に突っ込めば、勝利条件達成も同然だろ」

 先頭の〈ガルムチーム〉のトレーラーのカーゴ上面から二機の〈キュクロプス〉が顔を出した。DAE専用対戦車ハープーンランチャーとパンツァーファウスト4ロケットランチャーを向ける。

「というわけで、東京湾まで吹っ飛びやがれ!!」

 巨大な杭のようなハープーンの集中砲火が装甲車輌を串刺しにし、そして遅れて発射されたロケットランチャーによるHEAT弾頭がそれらを吹き飛ばす。

 包囲網に穴が開いた。先頭だった三係〈ガルムチーム〉のトレーラーが車線変更し、二係〈サーベラスチーム〉に道を譲る。〈サーベラスチーム〉の車輌を運転する葵はギアをシフトしする。重機関銃による銃撃がフロントガラスを襲う。防弾仕様のガラスを突き抜けてくる弾丸に臆せず葵はさらにアクセルを踏み込む。ロケットランチャーによる爆煙を突き抜けて、〈サーベラスチーム〉は包囲網を突破した。

 追いすがる警察車両の行く手を阻むように、三係〈ガルムチーム〉と四係〈バーゲストチーム〉のトレーラーが道路を塞ぐ形で停車した。カーゴから八機の〈キュクロプス〉が飛び降り、戦闘が開始される。

 繰り広げられる戦闘を背後に〈サーベラスチーム〉のトレーラーが高速を降りる。

 大鳥居の街は静寂そのものだった。街並みに灯る明かりは街灯だけだった。ニッタミ本社が存在する区域は戦闘になる可能性が高いため、行政により避難と立ち入り禁止措置が為されたのだろう。だがそれは、行政が今宵の戦闘を認めたということになる。先程の警察部隊に〈モビーディック〉が存在していたことから、そう判断できた。

「長らくのご乗車、お疲れさまでした。まもなく目的地へ到着致します。前方に見えますのが、そびえ立つクソでございます」

 葵がその艷やかな声でバスガイドの物真似をする。カーゴ内の四人は再びトレーラーのカメラと網膜投影を同期させると、ニッタミ本社社屋が映し出された。

 地上からのライトアップによって神殿の如き厳かさを湛えてはいるが、それはあくまで権威の誇示でしかない。

「まさしくダーク・タワーってやつだな」

 突入前の最後の一服を燻らせてるキリカが見上げる。

「スティーブン・キングか」夕夜が返す。

 夕夜とキリカのやり取りに美月はどんな話をしているのか理解できなかった。きょとんとした抜けた表情を浮かべている彼女に村木が声をかける。

「昔の有名な小説だ。この仕事が終わったら夕夜に貸してもらえ」

 キリカの感想を述べた言葉に美月は同意しか無かった。聳えるニッタミ本社ビルはまさしく暗黒の塔と言って差し支えは無い。二股に分かれたあの形状は権力への妄執の象徴、支配欲が形を成したと言っても過言ではない。

「さてさてご乗車のお客様、当バスは間もなくあのくそったれのニッタミ本社ビルへと突入となります。ご降車のお客様は特攻(ブッコミ)のご準備をお願いしまーす」

 ハンドルを握る葵の声と共にエンジンは戦慄き、トレーラーが加速する。葵の視線はニッタミ本社敷地内の正門を捉えていた。鉄製の扉が行く手を阻む。だが構うものでもなかった。

「入館許可書だ! 喰らいやがれ!」

 カーゴ上部が開放され、キリカの〈キュクロプス〉がRPGを手に顔を出すと一番槍を叩き込んだ。HEAT弾頭が鉄製の門をいともたやすく引き裂き、そして吹き飛ばす。

「異世界逝っとけや、オラァ!」

 葵と共にさらにトレーラーのエンジンが吠える。立ち昇る爆煙の中をトレーラーが突き進む。途中、行き掛けの駄賃のように正門の守りについていた傭兵を跳ね飛ばしていく。だが、いくつかのDAEと思しき重い衝突と重機関銃の弾幕についに停止した。

「〈サーベラスチーム〉、タッチダウン!」

 エアバッグに埋まった顔をほんの少し上げて、葵は通信した後に社屋玄関の様子を確認する。当たり前だがその守りは堅牢であると言えた。

「出番だよ!」

 葵の声を合図にまずは二機の〈キュクロプス〉がカーゴから飛び出してきた。それと同時に二機は両手に持つ、RPGやらジャベリンやらをぶっ放していく。煙幕を張ることを兼ねた高火力による先制攻撃。それに加え、カーゴ内に設えた七四式重機関銃の銃座で夕夜と美月は水平に薙ぎ払っていく。

 舞い上がった粉塵が晴れていく。その中に一体のDAEの姿があった。

 目の覚めるような赤のカスタムされた〈モビーディック〉。

「千原妹か!」

 村木が警告する。

「姉もゾンビもどきになったんだから妹も同じように考えたほうがいいだろうな」

 アラート。〈赤のモビーディック〉がこちらを敵と認識し、武装を向けたことを警告する。

 美月と夕夜もカーゴから飛び降りると、美月はマークスマンライフル・H&K XM8・SharpShooterを、夕夜はドラムマガジンのショットガン・AA−12をフルオートでぶっ放しながら敵陣営に突撃していく。追いすがるように頭上をグレネードランチャーの榴弾が追い越すと、二人の目の前に着弾した。攻撃目的ではない。粉塵と爆煙が吹き上がり、二人の姿が消える。

 クロスレンジ。美月と夕夜の二人の網膜にアラートが投影される。敵との殴り合いを行える距離であることが警告だ。だがこんな雑魚どもに構うつもりは無い。

 突撃の勢いを利用して踏み込み、そして飛び上がる。グレネードの爆煙の中から白銀と漆黒の影が二つ飛び出し、夜空に舞った。

 そして二機はビル正面玄関の真ん前に着地する。千原妹の背後である。千原妹は直ぐ様振り向き、二人を追撃しようとするが、背後からの銃撃に咎められた。キリカと村木によるものである。

「ここはアタシたちに任せて先に行け!!」

「言いたいだけだろ、それ!」

「お前ばかりずるいからな!」

 もとよりそのつもりだ。二人はその言葉に対し、背を向け駆けることを返答とした。

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