三つ巴の攻防戦《序》
ニールの剣がジェクションの剣を弾く。
それと入れ替わるように、今度は進がニールに向かって剣を振り下ろした。
「何だテメェ!」
「お前個人に恨みは無いが死んでもらう!」
カキィンと剣と剣が小競り合う音が響く。
今の進なら、“気”を最大限に活用すればニールやジェクションとも互角に戦える。
剣が弾かれ、進は砂埃を上げながら滑るように引き下がる。
ニールやジェクションはまだ進が実力を解放したことを知らない。故にまだ彼の事を舐め腐っている。
進に勝機があるとすれば、二人がまだ油断している今しかない。
進は両手で剣を握り、その剣身を変える。
ショートソードからクレイモア。剣身の長さは二倍以上になり、重量は三倍近く増える。
ズッシリと両手にのしかかる重剣を、“気”で腕力を増強して軽く振り回す。
「また武器が変形した!?」
「中々面白い武器を持っているな」
敵は前方にも後方にも。左右は建物によって退路を塞がれている。
八方塞がりとまではいかないが、挟撃を受ければ進もどうなるか分からない。
「―少しだけ試してやろう」
ジェクションが地面を抉る。重い音を鳴り響かせて進との間合いを一気に詰める。
進はジェクションが飛び出した時点で即座に振り向き、手に持つクレイモアを高速で振り抜く。
轟撃はジェクションには当たらず、剣の切っ先スレスレでジェクションは足を止める。
そして、振り切ったのを確認するとジェクションは魔剣を一薙ぎする。
(フェイント)
ワンテンポ遅れての攻撃。進はクレイモアを手放し、思い切り空に飛び退いて回避する。
ジェクションが剣を振ると、斬撃によって生じる衝撃波がニールを襲う。
「おいおい!」
ニールは聖剣の側面を見せて衝撃波を受ける。ニールが受け止めた部分は消散し、衝撃波のサイドはそのまま勢いよく突き進み、街の建物の壁を容赦なく斬り刻む。
「なんだ、お前アイツを試すんじゃなかったのか?」
「お前の相手を止めたわけではないからな」
聖剣を振り払い、再び構え直す。
上空に飛び退いた進は、宙返りをしながら手元に
空中でトリガーを引き、銃口からは無数の銃弾が撃ち出される。
「なんだあの武器!」
ニールとジェクションは弾丸の雨を各々の剣で弾く。
全部は弾かない。自分に当たる弾だけを取り除く。
進が着地すると二人の『勇者』に向き直る。
「色んな武器が使えるのか」
「珍妙な武器もあるものだ」
ニール、進、ジェクションの位置順から、進、ニール、ジェクションの位置順に変わった。
挟み撃ちにされる側から、今度は挟み撃ちにする側の立場になる。この機を逃す進では無かった。
「くたばれ」
進はそのままアサルトライフルを連射する。照準は定めない。定めたところで避けられるのが目に見えている。
ならば、あえて狙いをつけない。
下手な鉄砲も数撃ちゃ当たるの理屈で攻める。進は引鉄から指を離さず、銃を乱射し続ける。
「何でもアリかよ!」
「愉快な玩具だ!」
ニールとジェクションは放たれ続ける弾丸の尽くを弾く。斬る。砕く。穿つ。
片や勇者。片や魔王。人外の領域に片足を踏み入れている二人には、武器の相性や間合いなどは一切関係ない。
それでも進は銃を放ち続ける。
『勇者の武器』の銃は弾切れを気にする必要はない。どのような銃種であれ、連射出来てしまう類のものであれば何でも機関銃のように扱えるのだ。
しかし、それは『残弾数』に絞った場合のみ。
弾切れを起こす心配はなくとも、連射を続ければいずれ銃身はオーバーヒートを起こす。
バァンと、進の持つアサルトライフルが腔発を起こす。
(銃身が持たないか)
ならば、と進は壊れたアサルトライフルを投げ捨て、すぐさま新たな銃を手元に生み出そうとする。
その一瞬の隙を、二人の『勇者』は見逃さない。
「「はぁぁっ!」」
ニールが真っ先に飛び込む。
進が武器の変形に集中している一瞬の隙。そこを突くのもまた一瞬。
「!」
進は銃の精製から
右手に握られた剣で聖剣をどうにか弾き返す。
「甘いっ!」
カキィッという鋭い音が響くとともに、進の体勢が大きく崩れる。
その隙を狙っていると言わんばかりに、入れ替わるように今度はジェクションが魔剣を振るう。
ニールの上空から飛び掛ってきたジェクションの一振りを、進は“気”を使って自身の肉体を無理やり押し飛ばすことで回避する。
妙な違和感に押し出され、進は地べたに顔を付けながらもどうにか体勢を持ち直す。
(連携か)
持ち直した進に襲い掛かるのは、二つの剣。
左右から襲い掛かるそれらを進は、聖剣は真正面から剣で受け止め、魔剣は後ろ向きで素手で受け止める。
「ほう…!」
魔剣を素手で受け止められたことが衝撃だったのか、ジェクションからは小さな感嘆の声が漏れる。
もちろん素の状態の進が、音速を超える速度の刃を素手で受け止められるはずもない。
“気”。進は動体視力、反射神経、自分の持つ肉体的能力全てを“気”で強化し、ジェクションの刃を押さえた。
進はそのままの姿勢で、ジェクションの持つ魔剣を折ろうと力を込める。
「面白いぞ小僧」
そうはさせぬと、ジェクションは進を蹴り飛ばそうと魔剣から手を離し、後ろ蹴りを振る。
進もそれを回避しようと魔剣から手を離し、聖剣と鍔迫り合いをする剣からも手を離して大きく後ろに下がる。
「ぐっ…!」「かはっ…!」
ジェクションの蹴りが、ニールを蹴り飛ばし。
ニールの聖剣がジェクションの足首に、僅かに傷を刻む。
ニールは住宅の壁に叩きつけられ、ジェクションはアキレス腱を斬られたことにより膝をつく。
しかしジェクションの傷はすぐさま再生する。
「使役は『治癒』、位階は『高』、『
ジェクションがそう唱えると、足首に付けられた傷痕はみるみる塞がっていき、ついには健康的な足首にまで姿を戻した。
(使役と位階?)
聞いたことも見たことも無い魔術に進は警戒を強める。
シエルが何度か見せていた魔術とは、根本的な何かが違う。そう感じた進は早期的に決着を決めるために、大型の武器を生み出す。
進は
その銃は、
二人が纏まっている内に一斉に仕留めてしまう作戦だろう。
しかし、それは愚策。
RPG-7の銃口初速は115メートル毎秒。進と『勇者』たちとの距離は約100メートル。一秒も掛からずに二人を爆発に巻き込むことだろう。
それでは遅い。遅すぎる。
「爆ぜろ」
進は引鉄を引く。
爆音が鳴り響くと同時に、銃身から煙を上げながら弾頭が勢いよく発射される。
「はっ!」
ジェクションの振り下ろした魔剣が、弾頭を綺麗に半月の形に斬り下ろす。
弾頭はジェクションには当たらずに、二分されてジェクションの脇を通り過ぎる。
「はぁっ!」
二分された弾頭に、さらにニールの聖剣が横に一文字を描く。
半月の形にされた弾頭は、さらに小さな銀杏の形に四分された。
勢いを失った弾頭はニールのすぐ後ろを過ぎ、4つの小さな爆発を起こす。
(化け物め)
進がそう思う間にも、ジェクションは一気に間合いを詰める。
魔剣と贋作の剣が何度も交じり、火花を散らす。
「…お前、民草への配慮はどうした」
「あ!?何の話だ!」
魔剣を弾いてジェクションに向き直る。
「お前の先程の攻撃、街への被害は全く考慮していなかったな?」
「それがどうした」
「馬鹿者が。
上に立つ者が下の者の気持ちを考えないなど、それは愚の骨頂だ」
「…はぁ?」
突然始まった謎の説教に進は首を傾げる。
「有能な王になるにはまず、下の者の立場になって物事を見なければならん。
ただ己の好き勝手に権力を奮い、暴挙の限りを尽くすような王は無能極まりない」
(急に何だコイツ)
本当に進に関係の無い説教。何故ジェクションは急に王としてのあり方を語り始めたのか。
「ちぇらっさぁぁぁ!!!!」
「「!」」
ジェクションが説教垂れている間に、ニールが聖剣を掲げて飛びかかってくる。
進は剣を構えて迎撃の体勢を取る。
が、しかし。
ニールはジェクションに斬りかかった。
「はぁ???」
協力したかと思えば仲間割れ。本当に二人の行動が理解不能な進は、ある種の恐怖すら覚えた。
ニールの聖剣をジェクションは回避する。
ニールが着地すると、ジェクションが言っていたことに反論するように声を上げた。
「違うだろうが!!コイツは“王”じゃなくて“勇者”になりてぇんだよ!!」
???と進の頭に疑問符が浮かび上がる。
「何?そうなのか」
「そうだろ!じゃなけりゃ俺を殺しに掛かったりしねぇよ!」
ちぐはぐな言葉遊びに混乱する進だったが、これだけは確実だと理解した。
「お前ら、俺の事をバカにしてるだろ」
―未だに二人は進を『敵対勢力』だと認識していなかった。
『復讐勇者』の異世界紀譚 コントローラーの中の人 @kjnut
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