第12話 帰還

目が覚めた・・・


白い天井がそこにはあった・・・


妹が寝息を立てている・・

「つきっきりで、看病してくれたのか・・・」

頭を撫でた・・・


  ≪忠雄くん、じゃあ残るんだね。この町に・・・≫

  ≪うん、あやめさん・・・でも・・・≫

  ≪でも?≫

  ≪一日だけ、戻る。生の時間に・・・≫

  ≪了解≫


今日一日だけ・・・

というのも、変な表記だが・・・


生の、元の時間に戻ってきた。


そっと抜け出して、屋上へと向かう。

気付かれない方がいいだろう・・・


ここにいたか・・・


少女がいた。

よく知っている、そしてこれから、もっと知って行く

あの少女が・・・


「不思議だね」

「うん」

「この町には、たくさんの人がいる。でも・・・」

「でも?」

「交わるのは、奇跡的な確率なんだね・・・」


確かにそうだ・・・

同じ町内に住んでいても、出会う人は限られている・・・


全世界となると、どのくらいの確率だろう・・・


「忠雄くんは、自分の選択に後悔はない?」

「うん」

「気付いていると思うけど・・・」

言わなくてもわかる。


あやめさんが言ってた、静の世界である、ロンリータウン。

確かに死という概念はない。


その代わりに、無という概念がある。


なので・・・


「ロンリータウン、孤独の町」

「うん」

「私たちは、あの町を緑豊かな町にすること・・・」

「うん」

「大変な作業だけど、自然と動物だちは、戻ってくる・・・」


そう、そうなれば孤独でなくなる。

孤独でなくなれば、存在意義はない。


となると、僕たちは無となり、もう生の世界である、ここには戻って来れない・・・


「・・・いこうか・・・忠雄くん、あの町へ・・・」

「うん」

「アダムとイブにはなれないけど・・・いいよね・・・」

「うん」


僕には、この言葉しか出てこない・・・

なら、せめて・・・


美里さんが、優しく抱きしめてくる・・・


「おふたりさん、迷いはないね」


いつの間にか、あやめさんが来ていた。


戻ろう、ロンリータウンへ・・・


でもその前に、この世界での想い出を作ろう。


「忠雄くん、エスコートよろしくね」

「僕が?」

「男でしょ!」

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ロンリータウン 勝利だギューちゃん @tetsumusuhaarisu

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