第33話 目標は間近
時間に余裕が出来てきたので更新再開です。
何が繁忙期じゃ。
■ ■ ■ ■ ■ ■
「ミリー様は……大丈夫でしょうか?」
僕の傍を歩いているリシェナ様が、不安そうに後方を振り向きながら呟いた。
人間擬きの怪物をミリーに任せて廊下を進み、僕らは無事に実習棟へと続く場所連絡通路に到着することができた。てっきり傀儡になった学生が群がっているものだと思っていたけど、意外なことにそのようなことはなかった。ドルトとメリーナが予想以上に学生を引き付けてくれているのかもしれない。二人が霧で傀儡になってしまわない内に、早く決着をつけないと。
僕は周囲に魔力反応がないこと、眼前の連絡通路に罠がしかけられていないことを確認した後、二人を伴って通路の上に足を踏みだした。
大丈夫。体重をかけた途端に通路が落ちるなんてことはないようだ。
「大丈夫ですよ。普段はふざけている面が目立ちますけど、戦いにおいてはミリーはとても優秀ですから。あんな化け物に後れを取る様な子ではありません」
とは言いつつも、僕も少し心配なところはある。
ミリーは一人でも十分に強い。それこそ、魔獣に囲まれても苦労せずに一蹴することができる程には。
ただ……戦いの勘は冴えている反面、昔から作戦を立てて戦うことを苦手としているんだ。
僕はミリーとは真逆で、戦いながら勝機を探し、見つけた勝機に結び付くよう考えながら戦う、頭脳戦とも呼べる戦い方を得意とする。アルセナスとの戦いでは指光弾を反射する氷の元まで近づけるように行動を取り、王国東部の農業地帯で蟲の怪物を倒した時は雷で感電させるために貯水タンクの元に移動したり、というふうに。
さっきの怪物は……直感だけど、戦いの知恵は冴えると思う。東都で戦った蟲と似たようなタイプをしている。対象を殺すためだけに生み出された、化け物。
そういうタイプは総じて、力のゴリ押しだけでは勝てないのだ。
と、レナ様が僕の顔を覗きこんで言った。
「僕も不安です、っていうのが顔に出ているわよ」
「……っ、すみません」
「無理もないわ。義理とはいえ、家族なんですもの。心配してなかったら、寧ろ薄情過ぎるって思っちゃうわ」
本当にこの人は洞察力と言うか……色々と鋭すぎる気がするよ。
「リシェナ様、すみません。僕もミリーが心配です」
「あ、謝ることなんてないですよ! レナと同じで、ちゃんとミリー様のことを心配しているのは……安心しました」
連絡通路を渡り切って実習棟に入った直後、僕はレイピアの先端から雷を発し、それを床に突き立てた。放出された雷は棟内の壁を伝い……一階には何人かの反応があるものの、この階には誰もいないようだ。
「時計塔はこの上の階から伸びる通路を進んだ先です。そこまで、何とか無事に辿り着くことができればいいのですが……」
そう簡単にはいかないだろう。上の階には幾つかの魔力反応があるし、それ以上に時計塔には今回の騒動の首謀者がいるはずだ。妨害は絶対にある、と考えた方がいい。予想外は予想内にしておくべきだ。
僕は二人に振り返り、今後の行動を告げる。
「僕はこのまま時計塔に向かいます。お二人は、この階にある空き部屋に身を隠してください。この階には敵はいませんので、今の内に」
「勝算は、あるのよね?」
不安そうに問うてくるレナ様に、僕は頷く。
「既に作戦は開始していますので、ご安心ください。まぁ、第一段階は運も絡んでくるんですけど……とにかく、視認さえできれば倒すことができます。今回の敵は人間だと思うので、以前のように八星矢で周囲に甚大な被害を齎すこともないでしょう。ただ……」
「ただ?」
「……敵も、対策はしてきているはずです」
さっきの怪物と言い、今回の敵はこれまで同じだ。アルセナスを操り、東都を滅ぼそうとしていた者たち。僕は今までに何度も奴らと交戦し、その計画を打ち砕いてきた。既に交戦経験がある以上、敵に僕の魔法のことは知られているに違いない。
手の内を知っている者に対しては対策を練ることができる。だから、僕の戦いに合わせた作戦を立てている可能性は十分に考えられるんだ。
「僕らが勝利を収めるためには、相手の裏をかく必要がある。裏の掻きあい、と言ってもいいですね」
「裏の掻きあい、ですか」
「はい。敵を倒すためには、想定外のびっくりするサプライズが必要ということです。そのサプライズをするために、お二人から離れることになるのは、心苦しいですけど」
仕方ないとはいえ、正直かなり不安だ。僕がいない間……二人が隠れている場所に敵がやってきて、殺されてしまったら。考えたくない可能性がどうしても脳裏に浮かび、その都度頭を振って最悪の想定を振り払う。
裏の掻きあいであると同時に、スピード勝負でもあるんだ。
最悪の未来が到来しないよう尽力しなければ。と、覚悟を決めていた時、レナ様がリシェナ様の肩に手を置いて言った。
「しょうがない。レイズが私たちのこと気遣って、戦いの最中に焦らないように、私が頑張ってあげる」
「? すみません、レナ様には戦力としての期待は微塵もしていないんですけど」
「失礼ね」
唇を尖らせながらレナ様が言うと、リシェナ様が彼女を見やった。
「何かするつもりなの? レナ」
「いいえ、何もしないわ。リシェナの隣にはずっと私がいて、私が戦えない王女殿下を護ってあげるってこと」
「えっと……護れるの?」
「リシェナまでそんなことを言うの? 酷いわね」
いやだって……と、僕とリシェナ様は同時に顔を見合わせる。
レナ様は公爵令嬢で、戦いの前線に立っているイメージは全然ない。そもそも、攻性魔法を満足に扱えるのか不安を抱くくらいだ。
が、レナ様は僕らの不安など意に返さない、と言った様子で、何処からともなく一本のナイフを取り出して見せた。
「信用しなさい。女の子だからって、護られるだけの存在じゃないのよ。こう見えて──私結構できるから」
◇
照明とガラスが砕け、破片がそこかしこに散らばる教室の中。
白墨の粉が宙を漂い、破損した備品が散乱している床の上で……私は肩から流れ出る血に顔を顰めて、大きな亀裂の入った天井を見つめていた。
「………………死ぬかも」
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