第18話 クラス発表

「昨晩は、よくお休みになれましたか?」


学校への道すがら、僕は共に歩くリシェナ様とレナ様に向かって問いかけた。二人共、寮での朝食の時は結構眠そうだったけれど、今では完全に目が覚めたようである。


「えぇ。それなりに眠れたほうだと思うわ」

「私は枕が普段と違ったので寝付くまでに時間がかかりました。一度寝てしまえば、熟睡はできたんですけど」


悩まし気に頬に手を当てていうリシェナ様。どうやら、王女殿下は自分の枕でないと寝つきが悪くなるようで。僕には全くわからないことだ。最悪、床があれば僕は眠れるからね。


「そういうレイズ様は、よく眠れましたか?」


顔を覗き込んで問われ、笑顔を返す。


「それなりに、とだけ。普段朝早いので、その時間には自然に起きてしまいました」

「ということは、朝日が昇る前には目が覚めて?」

「そうなりますね」


習慣というものは恐ろしいもので、もっと遅くまで眠っていてもいいはずなのに、勝手に目が覚めてしまう。恐らくだけど、この後また眠くなるんだろうなぁ。いつもなら、今は二度寝をしている時間帯だし。

眠気に耐えなければならないことを憂鬱に思っていると、レナ様がミリーに問いかける。


「ミリー様は、よく眠れましたか?」

「はい。姉と一緒に寝たので、いつもよりも寝心地がよかったです」


ミリーがいいながら僕の左腕にしがみつく。誓約の効力が発動されて、かなりしんどいはずなのによくここまで元気そうに振舞えるものだ。

と、感心してると、先ほどまで並んで歩いていたリシェナ様がいないことに気が付き、振り向く。


「?どうしましたか?」


立ち止まって固まっているリシェナ様に問いかけると、ギギギっと機械のような動きで顔を僕の方へと向けた。驚いているような、放心しているような、どっちとも言えない表情だ。

?何かおかしなことを言っただろうか?


「い、一緒に眠られたのですか?」

「え、えぇ、まぁ」


曖昧に肯定すると、リシェナ様は僕に詰め寄り、慌て気味に言った。


「ど、同衾するのはどうかと思われるのですが……?」

「いやいや、兄妹ですし、懸念されているようなことにはなりませんよ。この歳になっても、甘えたがりは直っていないようなので」


御覧の通りと、付け加える。

ミリーは僕の腕を抱え込んだまま離そうとしないし、僕も離すように言うつもりもない。多分、一人で歩くのも結構辛いと思うんだ。

甘やかし過ぎなのはわかっているけど、久しぶりに会ったわけだし、このくらいはいいかなと。

それに、今の僕は女の姿。周囲の生徒たちも仲睦まじい姉妹を見るかのようで、特に気に留めた様子はないのだ。


「それは……そうかもしれないですが……」

「レイズ。察してあげなさい」

「は、はぁ」


何を察しろと。

言いたかったけれど、流石に反抗なんてできない。まぁ、どっちみち一緒に寝るのは昨日だけのつもりだったし、別にいいのだけれども。誓約の効果がなくなれば、ミリーも一人でも眠れるだろうし。


「今日から一人で寝るんだぞ?部屋もあるんだろうし」

「えー」

「えー、じゃない」

「別にいいじゃん。血縁関係がないとはいえ、兄妹なんだから」

「兄妹の中でも線引きは必要ってことだろ」

「昔は毎日一緒に寝てたのに」

「何年前の話だよ」

「一年くらい」

「……そうかも」


結構最近まで一緒に寝てたんだなぁ……。いや、家の寝室が狭かったから一緒に寝るしかなかったんだけど。僕らは一つの部屋を二人で使っていたから、一緒にいることが多かったし。

……立ち止まって話していたら遅刻してしまうし、歩きましょう。

促し、再び歩き始める。


「今さっき気になることが聞こえたのだけど、二人は血縁関係がないの?」

「ないですよ。僕は元々身寄りのない子供で、森を彷徨っているときに、ミリーの祖父母に拾われたんです」


懐かしい。今からもう十年も前のことになるのか。

拾われたのがまだ最近のように感じるけど、時が経つのは早いもんだ。まだそんなことを思う年齢じゃないけどさ。


「そうだったんですか……その、レイズ様のご両親は?」

「顔も知らないので、わかりませんね。物心つく頃には、いませんでしたし。本当に、祖父母に拾われて幸運でした。必要な教養を身に着け、村で魔法の師事もしてもらえて、ミリーにも会えましたし」


不意に、思い返す。

祖父母に保護され、村に迎え入れられる前のこと。

暗く、鬱蒼とした、絶望に満ち溢れた世界を。



小さな声で僕を呼んだミリーは、僕の背中を摩る。

長年妹をやっているからか、考えていることが筒抜けみたいだ。


「大丈夫。少し、昔を思い出していただけだから」

「それ、私に会う前の……」

「まぁ、そうだね」


強く、腕を抱きしめる力が強くなった。

顔には、哀愁の表情。


「思い出さなくてもいい。お兄ちゃんの昔は……全部悪夢だから」

「……あぁ」


慰めの言葉を受け、ミリーの頭を強めに撫で付ける。

だけど、覚えておいてくれ。

過去は、絶対に消すことができないんだ。



寮から歩き、到着したのは学園中央に位置する噴水広場。

今日の朝、ここで掲示板に割り当てられたクラスが張り出されるのだ。噴水は紙が濡れないように止められており、その周囲には既に大勢の新入生が集まっていた。

彼らが囲っているのは、お目当ての掲示板。


「私のクラスは……」


リシェナ様が背伸びをして自身のクラスを探し始める。僕は必然的にリシェナ様と同じクラスなので、彼女に着いていけばそれでいいのだが……生徒の数が多くて見えにくい。

僕は元からそこまで身長があるわけじゃないし、今は女の子になっているから更に低くなっている。女の子にしては高い方なんだろうけど、周囲には高身長の男子生徒も結構いるので、非常に見にくいのだ。


背伸びをしつつクラス確認をしていると、リシェナ様が僕の制服の袖を引っ張った。


「レイズ様!ありましたよ!」

「随分と早いですね」


これだけの数の生徒がいるというのに、もう見つけたようだ。眼に関する占有魔法を持っているからなのかはわからないけど、とにかく早い。

僕らは何処のクラスになっているのか……。


「私たちは特進のAクラスですよ!」

「特進?」

「成績が特に優秀だった生徒が入るクラスのことよ」


レナ様が補足をし、張り出された特進クラスの紙を見る。


「ま、予想はできていたけどね。結構テストの手応えも感じたし、魔法もそれなりにできたし」

「あ、ミリー様もAクラスですね」

「当然でしょうねぇ。なにせ、レイズの妹だし、飛び級なら必然的にAクラスになるわよ」

「お姉ちゃんと同じ♪」


ということは……全員同じクラスということか。

い、いいのかな?僕はあくまで護衛なのに、そのために枠を一つ潰してしまって。Aクラスに入ることを目標にしていた子もいるだろうに。

内心で申し訳なく思っていると、レナ様が察したのか小声で付け足してくれた。


「大丈夫よ。今回は貴方用に一枠多くしてあるから」

「それもそれでどうなんですかね?」

「国からの命令なんだから、何も言えないわよ。それよりも、貴女はこの子を危険に合わせないようにしっかりと護衛すること」

「了解です……」


どうにも他の生徒に申し訳ない気持ちになりながらも、僕はレナ様の言葉に頷きを返す。

真面目に受験した子たち、本当にごめん……。

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