第13話 魔法植物
大量の茶葉を買い込んでから二日が経過。
その間、問題の土地について特に進展はなかった。エインさんからの頼みで、アリナさんと二人で新しい植物を取りに行ったり、全く別の場所の土を採取しにいったりと色々行ったのだが、成果はなしとのこと。
正直なところ、エインさんの知識が足りないだけなのではないかと思わないでもないけれど、口には出すまい。流石に失礼だ。僕よりも植物や土地に関する知識があることに間違いはないのだから。改めて今回の問題が如何に難しいものであるかを認識した。
「………」
無言で頁を捲り、頬づえを付きながら文字列と挿絵を眺める。
エインさんが自室に籠って調査を続けているため時間を持て余した僕は、二日前から通っている街の図書館で本を読み漁っていた。
読んでいる本は主に植物の図鑑。何か今回の件に関連するような事柄がないか、微力ながら調べているのだ。
ちなみに成果はありません。そう簡単に見つかるのだったら今頃とっくに解決していると思うから、見つからなくて当然。気長に……している余裕はないけど、落ち着いて調べたほうがいい。焦りは禁物だ。
「んっー……」
長時間読み続けたせいか、集中力が切れた。
肩を解し、手を伸ばして脱力する。視界の端には、今日読んだ十数冊の本が積まれていた。全て植物図鑑や、農業に関わる参考書のようなもの。あまり興味のある分野ではないけど、仕事のことだから仕方なく読み進めている。
ふと視線を館内に移すと、僕のように本を読んでいる人が数名に、学校の勉強だろうか?参考書らしき本を開いてノートに羽ペンを走らせている人も数名。数日後には王立グランティナ魔法学園の入学式があるようだし、入学後に行う授業の予習かな?お疲れ様です。
皆自分のことに夢中なのか、館内は話し声一つしない。聞こえるのはペンを走らせる音と、本の頁を捲る音だけ。
「……ちょっと休憩」
小さく呟いて席を立ち、扉を開けて通路へ。
向かったのは、図書館内にある休憩スペース。飲食禁止の図書館には、こういった場所が数か所程設けられており、ここで読書の疲れを紛らわす人が多い。が、今日は元々人も少なかったからか、僕以外に人はいなかった。
椅子に座り、水筒に入れてきた紅茶を一口飲み、ほっと一息吐く。かなり本を読んだ甲斐もあり、植物に関する知識は大分身についた。中でも魔力を含む魔法植物については、今まで知らない種や性質など、かなり深く知ることができた気がする。
けれど、肝心の枯れ果てた作物に関連することは見つけ出せていない。
それもそうだろう。育つ環境としては最適な場所でカラカラに枯れ果て、周辺の虫までも死滅させてしまう現象なんて、聞いたことがない。一体何が原因なのか──ズキッと頭が痛む。
長時間フル回転させていたから、疲れたのだろうか?痛んだ箇所を押さえ、軽く呻く。
「……勉強のしすギッ!?」
オーバーヒートしていた頭を擦った時、何やら首筋を冷たいものが伝った。驚きのあまり大仰な仕草で振り返ると、こちらを嘲笑うかのような悪い笑みを浮かべた人が。
「可愛い反応」
「あ、アリナさん?なんでここに……」
犯人は、少量の水が乗った奇妙な形の葉を手にしたアリナさんだった。僕が問うと、指先で葉をくるくると回して手に腰を当てた。
「暇だったから。今日もあの専門家は部屋に籠ってるし」
「それなら、僕みたいに独自で調べたりしてくださいよ」
「それは終わった。一人であの農作地帯に行って調べたけど、土に異常はない」
「え、一人でって──あぁ、植物で何か生み出して行ったんですか?」
「植物とはいえ、虎は馬と比べ物にならない速度で走る」
「便利な魔法ですね。それで、結局手がかりなしですか?」
アリナさんは頷く。
「それと、薬が使われた形跡もない」
「ふむ……わけわからないですね」
「同感」
一体原因は何なのだ?もうそれなりの日数東都に滞在しているが、進展がまるでない。その事実だけで、心が折れそうだ。
「それで、僕を呼びに来たのは暇だったからですか?」
「違う。これ」
「?」
アリナさんは手にしていた葉を僕に手渡す。丁度、僕の掌と同じくらいの大きさだ。どこかで見たことがあるような?
「これは?」
「
「……あ、さっき図鑑で見たやつ」
見覚えがあると思った。
珍しい魔法植物として結構有名な種だ。
「えっと、確か食べると身体に電気が流れなくなるんでしたっけ?意味わかんないですけど」
「耐電花草の葉脈に含まれる魔力は、人間の魔力と反応して変化する。正式な効果としては、魔法士が有する魔力の一部を耐電性にし、それを体表面に流す。摂取してから数分程度で効果が現れる。昔は魔法士の戦いで用いられていた」
「変な植物ですね」
似たような効力をもつ魔法植物が世界には幾つも存在しているのだから、凄いものだ。
手の中の葉に視線を向ける。葉の端々がくるりと曲がっており、見た目は毒を含んでそうだ。
「で、どうしてこれを僕に?」
「珍しいから持ってきただけ。何か使えそうな場面で使うといい」
「使う場面なんかないでしょう……うわっ!」
不意にアリナさんが指をパチンと鳴らすと、手の中の耐電花草の葉が淡く光、茎から四枚追加で生えた。合計で葉は五枚に。
「なんで増やしたんですか?」
「珍しいから」
「珍しいからって……別にいらないので捨てても──わかりました捨てません」
指先を僕の方に向けてニヤッとしやがった……。よくないことを考えている……いや、完全に脅迫だ。
脅されては仕方ない。五枚の耐電花草を氷で包み、冷凍保存。これで腐ったりすることはないはずだ。
「それじゃ、私は帰る。陽も沈んだし、早めに帰るように」
「え?もうそんな時間ですか?」
懐中時計を見ると、夕方を大きく超えてもう夜の時刻だ。本に夢中で全然気が付かなかった。図書館に人が少なかったのは、時間も関係していたようである。
「わかりました。もう少ししたら帰ります。まだ読み切ってない本が一冊あるので」
「わかった」
休憩室を出て、僕らは互いに逆の方向へと歩く。あと少しで読み終わると思うから、そこまで時間がかからないだろう。
僕は氷塊に包まれた葉をボールのように軽く投げながら、図書室への扉を開けた。
◇
『──ギ』
薄暗い室内に、機械が軋むような音が──声が反響する。発生源は、木の床に転がっている、大きく膨らんだ丸い物体。
木造の椅子に腰掛けた俺は、片手にウイスキーの入ったグラスを持ち、それを一息に呷る。
「さぁ、成長した顔を見せてくれ──私の
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