第28話 エピローグ
王女殿下誘拐未遂事件。
建国祭という年に一度の祭典の日を狙って行われたこの事件は、王国殲滅兵室を中心とした魔法士の活躍により、秘密裏に終息を迎えた。
街中に放置されていた親衛隊の制服に身を包んだ遺体や、戦闘に寄って破壊された住宅の一部などは皆、王国騎士団の尽力により、民衆に事態を公にすることなく回収、修復が行われた。
当然のことながら、これで全てが解決した、というわけではない。
親衛隊員を殺害・ゾンビ兵と化した黒幕の正体や、それらの隊員や魔獣の心臓に刻まれた魔法式の詳細な解明。
そして何より、アルセナスが言っていた主という人物の謎。今回の事件で、王国に仇なす者の存在を確認し、早急な対策を練る必要も出てきた。
宮廷魔法士は今後、事件の根本的な解決、加えて、実力の向上など、忙しい日々が続くことになるだろう。
一先ず、事件は表沙汰にはならず、王家の言葉も無事に終了し、建国祭は終わりを迎えたのだった。
そして数日後──。
◇
とある日の昼下がり。
王宮の庭園に置かれたベンチに並んで座った僕とエルトさんは昼食を食べながら、先日の建国祭のことを話していた。
「そういえばよ。お前が倒した親衛隊の副隊長はどうなったんだ?」
「生きてますよ。一応は」
「一応?どういうことだ?」
怪訝そうに眉を顰めたエルトさんに、僕は肩を竦めながら答える。
「一応とは言っても、植物人間になっているというわけではありません。ミレナさんが何かしらの魔法で、彼にかかっていた魔法を解きましたからね。詳しい効果は、後ほど調べるそうです。まだ目は覚めていませんが」
「魔法を解いたからと言って、お前に身体中穴だらけにされたんだろ?よく生きてたな」
「元々急所は外すように狙っていました。それに、ミレナさんお得意の治癒魔法が加わったので、障害も残らずに目を覚ますだろうと」
「いや、反射させて命中させるならまだしも、急所を外すように弾道を調整するとか……どんな腕だよ。反射角とか諸々問題大アリだろ……」
「そこはほら、僕は狙撃者ですからね」
「理由になってねぇ、よ!」
額に軽い衝撃。いきなりデコピンは痛いですわ……。
サンドイッチを一気に頬張り、咀嚼し飲み込んで背もたれに背を預ける。
「まだまだ問題は残っていますが、これで一段落ついたって感じですかね」
「いや、問題はまだ残ってるだろ」
「?何が──ぁ」
エルトさんが向いている方向──中央に設置された噴水へと視線を向け、曖昧な笑みを浮かべる。
そうでした。まだ一つ、大きな問題が残っているのでした。
「お前、なんかやらかしたのか?」
「そんなことしてませんよ……多分」
「じゃあなんで──王女殿下がずっとお前のこと見つめてんだよ……」
視線の先──噴水の影には、隠れてこちらを見つめている王女殿下──リシェナ様がいらっしゃいました。陽の光に照らされて、美しい銀髪が輝かしく煌めいている。相変わらずお美しい。
「……この前の護衛の件以降、毎日のようにああやって影に隠れてこっちを見てるよな?なんなの?あれ」
「僕に聞かれても……」
「明らかに見てるのはお前だし、直接聞いてきたらどうだ?」
「いや、何も要件がないのに話しかけるなんてそんなこと……」
以前は護衛の任務があったため、話しかけることはできたけど、今はそんな事情は皆無。王女と一平民魔法士という立場に戻ってしまった。
本音を言えば、話したいことは結構ある。
というか大事なことが一つ──あの時、なんて呟いたのか。それに、あの眼の輝き。多分それが僕の
あ、目が合った。微笑んで、軽く会釈。
と、若干顔を赤くしながらも笑顔で会釈を返してくださった。
……何だろう、心の疲れが癒やされていくようだ。日々の精神的疲労が、一気に浄化されていくような、心地よい感じ。控えめに言って、とてつもなく素晴らしい天使の笑顔です。ありがとうございます。
と、一人で癒やされていると、リシェナ様は以前のように全速力で走り去ってしまった。
「……まぁ、青春してるようで何よりだ」
「どういうことですか?」
「そのうちわかるさ」
言って、エルトさんは昼食を食べ終えてその場を立ち去ってしまった。去り際のため息の意味はわからないけれど、聞いてもはぐらかされるだけだから聞かないでおこう。
それはともかく、最後に残った問題……まぁ、だいたいお察しでしょう。先程の光景が、それです。
──最近、姫様からの視線が気になります。
この問題、解決する時は来るのだろうか?
疑問を浮かべながら、僕はサンドイッチを平らげるのでした。
■ ■ ■ ■ ■ ■
一章は、これで完結となります。
読んでくださった方々、本当にありがとうございます。
まだまだ未熟ですので、拙い部分も沢山あったかと思います。申し訳ありませんでした。
二章以降のお話を考えるので、毎日更新は一旦ストップします。ごめんなさい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます