脳内再現

R音

1

「ゆみか~早く起きなさい!」



 母の声で夢から引き戻されるがなんとか踏ん張っている。


「あと5分…」




カーテンの開く音とともに太陽光線が体に突き刺さる。

「おはよう」

 


 眩しいな。

 まだ寝ぼけた右手を動かし'右目'を擦り「お母さん眩しいよ~」と少しぶりっ子してみた。


「あら、今日も美しく輝いちゃってる?」と母は冗談交じりに言った。


う…一枚上手だった。

母の悪戯な顔に混じる本気な顔にわたしは思わず笑ってしまった。顔を洗い1階に降りると既に父と弟が座っている。


 弟が宿題を大慌てで進めている横で対照的な父は新聞に穴が飽きそうなほど睨む。


珍しく随分険しい顔だな。

二人の凄まじい気迫に私は圧され気まずさが込み上げてくる。


はぁ…朝ごはんでも食べよ…


椅子に座りテーブルに並べられた食パンに手を伸ばす。



父は新聞を折りたたみながら「またうちの近くで殺人事件だよ」といいコーヒーに手を伸ばす。


あんまり興味のない話題だ。

私には関係ないし、何よりつまらない。


「ふーん」

適当に返事をしバターでひたひたな食パンに齧り付く。


サクサクな耳、ふわっふわと千切れていく白い部分。

じゅわっと口いっぱいに広がるバターの香り。


あぁ…幸せだ。

おいしぃぃ。



思わず頬が熱くなる。


「うなじから延髄を引き抜かれて目玉を片方抉りとられたんだってよ、お前達も気をつけろよ」


今はそんな話よりもパンに集中したいのに!

無視をするのも可哀想だしなぁ…



パンで顔を隠しつつ弟を見る。


ジロリ…


宿題でそれどころではない様子だ。

まるで何も聞こえてない、ただの屍のようだ。


なんて返事しよ…「ゆみか早く食べちゃいな」


「はーい」


母の神のごときタイミングに救われた私は朝食を食べ終え毎日恒例の刹那的なファッションショーを終え大学に向かう。


「いってきまーす」



「俺も行くか」

 父が重い腰を持ち上げカバンに手をかけ車の鍵をポケットから取り出すのを横目に私は家をでた。




ひんやりと感じる冬の陽気。


コートに身を包みるんるん気分で歩く。


そう、私は冬が大好きなのだ。


理由?


そんなの好きだからに決まってるでしょ?








  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

脳内再現 R音 @rion731

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ