そんなもの、望んでいないけど。
@yo_guluto__
始まりが終わりだから、
「ねぇ、ひめは安楽死を認めないこの国をどう思う?」
どう思うって言われても、って感じだよね。わかる、わかるよ、俺もよくわかんないから。
んー、まあ、わたしは安楽死を認めちゃえばいろいろ楽になるのになぁって思うよ。人間誰だって、楽に生きて楽に死にたいでしょ。それにこの国は、ある程度生き方を選べる社会なんだから、死に方も選べていいんじゃないかなぁって。生きてたら誰にだって辛いことや苦しいことがあるでしょ?それから逃げる手段が"死"なのに、その瞬間すら痛みや苦しみを感じなきゃいけない。安楽死を否定するってことは、苦しんで死ねって言ってるのと同じなんじゃないかなぁって思うよ。
でも俺は、安楽死を認めるってことは自殺をすすめてるみたいで嫌だよ。楽に簡単に死ねるから、さっさと死んでください。みたいな。なんて言うのかな、心理的圧力.......?あー、俺って死んだ方がいいのかなって考えちゃうかもなぁ.......それに人工的に!ってよりは自然に、人間らしく最期を迎える方が俺は綺麗だと思う。
んー、人間らしくってなんだろう。倫理に沿っていたら?それって本当に人間らしい?常人の思考で人間らしいなら、それは人間らしい行為ってなるんだろうね。でも、それって道徳となにが違うんだろう。社会のルール、規則となにが違うんだろう。わからないなぁ、わたしには全然わからない。安楽死が心理的圧力を与えてるなら、生きることは社会的圧力に押しつぶされることだね。わたしたちはいつだって上の人間からの圧力に耐えながら生きている。神様は人の上に人はつくらないんじゃなかったの?!なのにどうして強い人間と弱い人間が存在するの.......?生きることはいい事なのに、どうして自ら死ぬことは許されないの?.......いや、いいことじゃないね、生きるのが当たり前として扱われてる。生きているだけで褒められたい。でもそんなこといったら我儘だって怒るでしょ?だからわたしはこんな世界は捨てたい、こんな世界に殺される前に自分の手で死んでやる。
.......わたしみたいな精神異常者で、生きる義務を果たせない人間は、こう思ってるよ。安楽死を望んでる。でもこの国は許さないんだ。自分の命を捨てることを悪として、生きているのは当たり前、じゃあ何が善かって、人間らしい正しい行動をとって、社会的ルールを守れる.......そんな上っ面だけの1番人間らしくない人間。
「まぁ、わたしは安楽死なんて望んでないけどね。」
そう言って彼女は海の中へ身を投げ込んだ。
俺はただ呆然と見ることしか出来なかった。沈んでいく彼女を、自分が愛した人を。
重そうなリュックを抱えて
「ちょっと付き合ってくれない?」
と家までやって来た彼女に、いいけど.......と返事を返すのがやっとだった。
じゃあ着いてきて、と勢いよく俺の腕を引いて彼女は迷わず進んだ。
どこに行くのかと尋ねると、海。と一言だけ返ってきた。
海に着くと
「このリュックのなか、石が詰め込んであるんだ。それでね、わたし、今から死ぬ。」
と淡々と告げられた。
意味がわからない。動機は。俺になんとか出来ないことなのか。たくさんの質問を投げつけてしまっていたと思う。ひめは一つ一つ丁寧に答えてくれた。中には俺が理解できないくらい難しい答えもあったけれど、ひめが考えた結果なのだから正しいのだろうと、自然に受け入れてしまっていた。
ひめが死んでから、俺はひめが出来なかった多くの経験をした。ひめをおいて大人になってしまった俺には、楽しいこともそうでないこともいろいろあった。俺はひめが死んだことが、ひめという人間がいた事を忘れられていくのが、1番辛くて苦しかった。報われない気持ちでいっぱいになった。
人によって考えや信仰するものは異なっていたし、みんな筋も通っていたけれど、ひめの皮肉めいた思考以外しっくり来なかった。
やっぱり、ひめがいちばん正しいんだ。ひめがいちばん頭の良い選択をしたんだ。
だから、今日、俺も同じ方法で死んでみようと思う。
大きなリュックに、石を詰め込んで、それからあの時と同じところに立って、下を見下ろすと、深く深く底の見えない海。水に濡れるのは苦手だけど、彼女と同じ死に方をしたかったから。でも、彼女が残さなかった遺書は一応残してきた。彼女の存在を忘れて欲しくないから、俺が同じことをしたら、またひめの存在を思い出してもらえる。そう思ったから。あー、俺、死ぬのか。死んじゃうのか。どこか呆気ない。まぁ、そのくらい、この世界の命は軽い。簡単に死んでしまうくらい、人間の身体は脆い。そして、死んでしまおうと考えてしまうくらい、この世界はゴミってわけ。ひめ、ひめ、俺、今から、そっちに行くから。俺が生きてた間に知ったこと、ひめ
にたくさん話すから聞いてくれる?
「.......おっさん、なにしてんの?」
踏み出そうとした足は、その声で止まった。
そんなもの、望んでいないけど。 @yo_guluto__
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます