猫屋敷華恋との『日常』

エスコーン

先輩センパイ!事件です!!

 先輩センパイ!聞いてくださいっ!!例のラノベがアニメ化されることになったんですよっ!主人公を演じるのはあの人気若手男性声優さん──そう!あの歌って踊れるキャラソンの常連さんです!

 えへへ、懐かしいですよねー。先輩と華恋はこの声優さんが今みたいに人気になる前に『この人は伸びる!』って言ってましたよね。それが本当にすぐに人気声優さんになっちゃうなんて。華恋たちは先見のの持ち主ですねー!……えっ、先見の目じゃなくて先見のめいだって?細かいことを気にするのはノーですよー、未来は明るく行きましょう!


 それにしても先輩が今読んでる本は何ですか?あっ、隠さなくても大丈夫ですよー、当ててみせますねー。

 んー?これはアレかなー?アレなのかなー?あっ、今ドキッとしましたね。うふふ、華恋の千里眼は先輩の心を見通すのですっ。

 じゃあ、当てますよ。ズバリッ!ハーレム本です!あっ、その顔は当たりですねー。さあ、隠さないで見せて見せて!

 あー、やっぱりハーレム本じゃないですかぁ!先輩には華恋がいるのにまた読んじゃったんですねー、イケませんねー、先輩。まあ、これをプレゼントしたのは何を隠そう華恋なんですけどね、えへへ。

 でもね、先輩、ハーレム系の主人公がハーレムを築くとは限らないんですよぉ?それにハーレム系ではメインヒロイン以外はそのオマケみたいになっちゃうとかいろいろあるんです。悲しいですよねー、ホント。

 そんなわけでですね、ここはこの猫屋敷華恋ねこやしきかれんちゃんを攻略しちゃいましょう!浮気はノーですっ!浮気ダメ絶対っ!なんちゃって、うふふ。

 おっと、トークが楽しくてときの流れが早いです。実はですね、華恋は用事があるので出かけなくてはならないのです。心配しなくても大丈夫です、またあとで会いましょう、先輩!

 あっ、そうそう、言い忘れてました。そう、大事なことを言い忘れるなんて、華恋ちゃんはドジっ娘属性アリですねー……って、目をそらさないで下さい、もうっ!

 だからですね、先輩、












 もう逃げちゃダメですよ、絶対。











 せっかく先輩と仲良く暮らせる監禁部屋お家を準備したのに華恋がいないときを見計らって逃げちゃうんですから。華恋、すごく悲しいです。

 先輩がいなくなって悲しくていっぱい泣いたんですよ?華恋はこんなにも愛しているのに、こんなにも先輩が大好きなのに──。


 なんで?なんで?なんで?


 ナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデナンデ?



 ネェ、センパイ、ナンデ?



 あっ、すいません、取り乱しちゃいました、華恋ちゃんウッカリです、うふふ……。

 まあ、逃げたのは悲しかったですけど、先輩につけていた発信機ですぐに場所は分かっちゃうので連れ戻すのは簡単でした!愛の力ですね、先輩!

 それとですね、先輩が逃げたのはきっと華恋がいない時間が寂しくて拗ねちゃったんだと気付きました!だから、寂しい時間を埋める娯楽として先輩が好きそうなラノベをプレゼントしてあげたんです!華恋はデキる女ですねっ!先輩は幸せ者ですよっ!

 でも、ハーレム系読んで自分も主人公みたいにモテモテになりたいなんて先輩は浮気者ですね。華恋、ちょっとだけイラッとしました。……まあ、ラノベや二次元の世界を見ているだけなら許してあげますから安心してください。これが大人の余裕ってヤツです!ただし、三次元で求めるのはですけど。


 あっ、もうこんな時間っ!ごめんなさい、先輩、華恋はこれから用事ミッションをコンプリートして来ます!

 それと、




『猫は気まぐれですから“次はない”ですよ』




 それじゃあ、行って来ます、センパイ……♡

















「という設定考えたんだけど、ダメかな?」

「ダメに決まってるじゃないですかー!」


 せっかく僕が考えたネタなのに華恋から即ダメ出しをされてしまった。残念だ。


「なんですか、これ!?華恋めちゃくちゃ重い女ですし、病みまくってますよ!?華恋、こんなに病んでないですっ!」

「華恋、そこは“病んで”じゃなくて“ヤンで”だ」

「どっちでもイイですぅー!」


 ああ、僕の拘りまでノーと言われてしまった。これは手厳しいぞ。


「もう、先輩のバカ……。でも、なんで華恋をヤンデレにした設定なんて考えたんですかぁ?」

「クククッ、よくぞ聞いてくれた!これを見たまえ!」


 僕はテーブルの上に5冊のラノベを置いて見せた。カジノのディーラーのようにクールにスタイリッシュに!ドヤるぜ!


「え〜と、なになに、『異世界から始まる監禁生活』、『ヤミツキ!転生先は牢屋の中でした』、『ヤンデレ令嬢の監禁録 ─アナタに相応しいのは檻の中 ─』、『チートが通じないからハーレム諦めてヤンデレに飼われます』、『転生する前に捕まった。永久就職先は監禁部屋』……なんですかこれっ!?」

「褒めるな、褒めるな、また株が上がってしまう」

「褒めてないです!引いてるんですっ!」


 なんだって、引いてるだって。やれやれ、ちゃんと説明しなくてはいけないね。


「実はね、これって『このヤンデレ本がアツい!』というので注目されてるラノベなんだよ。知ってた?」

「知りませんよぉ……あれ?先輩ってハーレム系ばかり読んでませんでした?」

「それがさぁ、前読んでたラノベのツンデレヒロインが新刊でヤンデレ化しちゃってもうそれが良くて良くて。そんなわけで、何となく『ヤンデレ』に興味持って調べたらこれに辿り着いたわけ。で、ハマった」

「へーそうなんですねー」


 あれ?ジトーっとした目で見られている?プレゼン能力スキルの低さがバレちゃったかな?よし、ここは気合と根性でカバーだ!令和だけど昭和的にがんばるぞい!


「だが、なぜ僕がこの5冊に魅せられたか気にならない?」

「気になりませーん」

「よくぞ聞いてくれた!」

「聞いてませんっ!」


 残念、しかし僕は続ける。やっと僕のハートがあったまって来たところなんだ。つまり、もう始まっている、もう止まらないのさ!


「答えは“監禁”!数あるヤンデレ系ラノベで絶対的且つ絶望的なシチュエーションを味わえるのがこれなんだと答えを導き出したのさ!」

「はあ、そうですか」

「ちなみにこの中で僕のオススメは『ヤンデレ令嬢』ね。読んでいたら怖くて怖くて嬢に飼われているんじゃないかと錯覚してしまったよ。あと、6時間半ぐらいしか寝れなかったし」

「わりと寝てるじゃないですか!」


 おお、ツッコミが冴えている。先輩として嬉しいぞ、後輩よ。


「そんなわけで、監禁系ヤンデレ本にハマってしまい、何となく華恋でそのシチュエーションをイメージしてみたらベストマッチだったわけです、はい」

「いい迷惑ですよ、もうっ!」

「まあ、そう言うなよ、うちに来て大きめサイズの肉まんを3つも食べる少女よ」

「うっ!?」


 華恋は痛いところを突かれたという顔をする。ついでに右肩のニャンコ的なモノも同じ顔をしている。


「だっ、だって、肉まん大好きだし、先輩の部屋に来ると落ち着くし、先輩と一緒にいると安心してお腹空いちゃうんだもん……」


 ヤバい、かわいい!急にもじもじし始めた華恋を見ていたら改めてその可愛さを再認識してしまった。中学時代から知っている仲とはいえ、たまにすごくドキッとしてしまいます。


「まあ、気にするなよ。うちに来て落ち着いてもらえるなんて嬉しいし、僕も華恋といると安心するし、ね」

「もっ、もう……、先輩、恥ずかしいですよぉ……」

「それに、華恋とグッズ集めに行ったときとかキャラについて語り合ったときもすごい楽しかったし、今こうしているのも楽しいんだ。華恋は僕以上に知らないことを知っているし、教えてくれるからね」

「うぅ……先輩……」

「だからそんな華恋と一緒にいる時間はすごく大切だって思えるんだ。華恋、いつもありがとう」

「かっ、華恋もセンパイと一緒にいれて、そのぉ、あっ、ありがとうございます……!」


 華恋は少し頰を赤らめていた。君に出会えて本当に良かったって思える瞬間だった。ありがとう、華恋。……だからこそ、を聞かなくては!





「そんな華恋だから言えるけど、僕が三次元リアルでハーレムを築くことがあっても許してくれるよね?」





「は?許すわけねぇだろ、ふざけんな」





「デスヨネー」


 華恋からドスの効いた声で叱責を受ける。ああ、やっぱりこのワードはダメだった。前もこれを聞いて怒られたことがあったよ、そして今回も。

 華恋は本気で怒るとめちゃくちゃ怖いのである。普段は「先輩センパイ!」なんて言っている猫可愛い女子だけど、こんなかんじに猫から虎になることがあるのだ。虎だ、お前は虎なのだ!と言わんばかりの威圧感である。えっ、僕が悪いって?ははは、その通りさー。

 そんなわけで、華恋はヤンデレはヤンデレでも『ヤンキーデレ』でしたとさ、めでたしめでたし、なんちゃって。


「おい」

「スイマセン」

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