第33話
ギルド長と食事をして以来、彼からの信頼を獲得していた。
そこですっかり気を許してくれたのか、度々カイはギルド長に呼び出しを受けていた。
「ミューズくん、よく来てくれた。今日は一体何をもってきてくれたんだ？」
「今日はウルフ肉のシチューらしいですね」
「そうか、それは私の好物なんだよ。ありがとう……」
カイから皿を受け取ると早速嬉しそうに食べ始める。
「それにしても依頼を出しただけでは案外狙われないのか？ 隣の国の国王が殺されたと聞いて警戒していたけど――」
「そういえばそんな話がありましたね。もしかしてあの人も何かを依頼していたのですか？」
「あぁ、どうにもこの国の国王を暗殺しようとしていたらしい。だからこそ国王を暗殺された隣国はこの国に戦争を仕掛けようとしているんだ」
「そうなんですね……」
「あぁ、戦争になったらまた忙しくなりそうだな。君も今のうちに休んでおくと良いぞ。私もそろそろゆっくり休ませて貰うよ。明日くらいには家に帰らせてもらおうかな」
「そうですね。それがいいでしょうね」
安心した微笑みを見せてくれるギルド長。
それを見てようやくカイはギルド長に隙ができるとほくそ笑んでいた。
◇
その日の夜にカイはプラークの店へと出向いていた。
「おっ、カイか。珍しいな。最近は冒険者ギルドで必死に働いていると聞いたが……」
「まぁそれも今日で終わりだな。いよいよ、明日、やつを取るぞ」
「そうか、ついに隙が見つけられそうか……。ただ、油断はするなよ。やつの実力はおそらく以前お前がやったSランクのあいつより上だからな」
「そうだな。隙がなさすぎて困ったよ……。でも、やっぱり身内には優しくなるものだな」
「それがあいつの罠である可能性もあるぞ？」
「あぁ、それも考慮して動くつもりだ」
「そうか、カイが大丈夫だというのなら問題はなさそうだな」
ブラークは安心したように笑みを浮かべる。
ただ、カイ自身は正直なところ、成功する確率は五割もないと見ていた。
今回の暗殺には色々と運の要素が絡んでしまう。
まぁ、失敗しても特に問題はないし、次の隙を伺うだけだからな……。
カイは笑みを浮かべると改めてどうやって行動するかを考えていた。
すでにギルド長の家がどこにあるのかは確認済みだ。
他にも最短ルートも調べがついている。
あとはその時に人混みがどのくらいあるかと、あとはギルド長がどのくらい警戒して歩いているか。
それと違うルートを選ぶ可能性も考慮しておく。
「まぁ、これを逃すと次いつになるかわからないからな。ここは先手を打っておくしかないな」
◇
次の日の夜、カイは一人でギルド長の家の近くにある通りで待機をしていた。
服装はいつも通り。
人混みがあれば一瞬で紛れてしまうだろう。
しかも、今日はちょうどいいくらいに通りには人が歩いている。
これならば条件は概ね揃っていそうだ。
あとはこの道をギルド長が使ってくれるだけ……。
そんな淡い期待を抱いていると運良くギルド長がこの通りを使ってくれた。
姿を現すギルド長。
それを見てカイは心の中でほくそ笑んでいた。
そして、ゆっくり人混みに紛れるように歩き始める。
ただ、そんなときに予想外の出来事が起こる。
「あっ、ミューズくん、こんなところでどうしたんだ？」
まさかこの人混みの中で気づかれるとは思わなかった。
ギルド長が大きく手を振ってくる。
気づかれてしまったのなら仕方ないだろう。
カイはギルド長の前に姿を現す。
「あれっ、ギルド長？ こんなところで何をしているのですか？」
「私の家はこっちの方向なんだよ。君は何をしていたんだい？」
「私はこのあたりに買い物に来たんですよ。ほらっ、このあたりっていろんな食べ物のお店があるじゃないですか」
記憶をさかのぼりながら答えるとギルド長が笑みを浮かべる。
「もしかして、夕食の準備かい？ それなら一緒に食べていかないか？ ちょうど彼女と一緒に食事をしようとしていたんだ」
笑みを浮かべるギルド長。
その隣には誘惑の姿があった。
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