第21話

 その日の晩、カイは再び暗殺者ギルドへと足を運んでいた。

 目的は兵士の鎧等を受け取るため……。

 するとギルドにはなぜか誘惑ハニートラップの姿があった。



「ここに正体不明アンノウンはいるかしら?」

「いえ、さすがに見たことありませんが?」

「そう……」



 残念そうに顔を伏せる誘惑ハニートラップ



「あの兵士の殺され方……、絶対にこの町にアンノウンがいるはず……。どこにいるのかしら」



 しかし、誰も言葉を発しない。

 それはこの誘惑に怯えているからだろうか?

 それともこの場に暗殺王がいるからだろうか?



「あれっ、貴方は見ない顔ね……。もしかしてここのギルド員?」

「……」



 何も話さずに誘惑の動向を探る。



「まぁ自分のことを話したくないやつもいるわね。ごめんなさいね。あと、もしアンノウンについてわかったら教えてもらえるかしら」



 カイが一度頷くと誘惑は満足そうにギルドを出ていった。





「お待たせいたしました。なにやら少し騒ぎがあったみたいですけど大丈夫でしょうか?」

「問題ない。トラブルにはなれている」

「それならいいですけど……」

「それよりも例の品は?」

「もちろん準備できていますよ」



 支部長は奥の部屋から兵士の装備一式を持ってきてくれる。



「これで何をなさるおつもりなのですか?」

「それを言わないといけないのか?」

「いいえ、とんでもない。すこしだけ気になっただけですよ」



 必死に支部長は首を横に振って否定していた。



「そうか……、それは命拾いしたな」



 カイは懐に手を入れていた。

 既にナイフに手をかけていた。


 それに気づいていたのか、青い表情を浮かべていた。


 しかし、カイが手を離したとわかったら安心したようにソファーにもたれ掛かって人心地付いていた。



「ま、全く……、暗殺王様はお戯れが過ぎますよ。われわれギルド員が貴方様に絶対服従なことを知っておられるのに……」

「いや、どんなやつも信用していない。いざという時は寝首を掻いてくると思っておかないと不意を突かれるからな」

「その警戒心……、だからこそ貴方様が最高の暗殺者と言われるんですよ……。ナンバーズの何人かが同一人物の可能性がある……とは思ってもまさか全員が同じ人物だとは――」



 余計なことを言おうとした支部長を睨みつけて黙らせる。



「す、すみません。これは暗殺ギルド内でもトップシークレットにございましたね」

「次言ってみろ。そのときはお前の寝首を掻かせて貰うぞ」

「は、はい……」



 青ざめたギルド長を他所にカイは装備を持って部屋を出て行った。

 そして、装備の具合を確かめながらここの支部長について考えていた。


(やつは口が軽すぎるな。今後を考えると消しておいた方が良いかもしれないな。下手に名前を知られるとまた一から今のシステムを作る必要が出てくるからな)


 ナンバーズ全員がカイ。

 その状況を作り出せたのには暗殺ギルドの長という立場があったからに他ならない。


 ただ、カイ自身がギルドを作り出した……というよりはいつの間にかカイを祭り上げる組織ができていて、それが暗殺者ギルドになっていた……というだけで、いざという時は切り捨てるつもりでいたが――。



「意外と便利なんだよな……。この暗殺者ランク……と言う制度は」



 暗殺者ランク一、正体不明。


 彼に頼めばほぼ確実に依頼を成功させる。

 当然ながら依頼は正体不明に集まってくる。


 ただ、彼を恨む人間はそれと同等の力を持っているであろう人間に暗殺を依頼する。


 この暗殺者ランクで考えるなら二位や三位といった人間だ。


 カイを殺すためにカイに依頼する……という状況を作り出せるので、あとは恨みを持った依頼人を殺せば安心できる状況に戻せる。


 一桁全てを占領しておけばまず他の人物に依頼は回らない。



「今回は予想外だったけどな……」



 まさか十位の誘惑にまで声がかかるとは……。

 いや、単に金がなかっただけかもしれないが。


 それでも彼女だけに声をかけるのではなく、冒険者ギルド長は予定通りカイにも声をかけている。

 その上で今は問題ないと判断して放置しているのだが――。



「まぁ、他所の町まで付いてくるのならそろそろ退場して貰うか……」

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