第20話
カイは城門前へとやってきた。
城を守っている兵士は昨日とは違う人物のようだ。
ただ、やはり一人殺されたということもあるからか、城を守っている人数が一人増えて三人になっていた。
なるほどな。一応警戒はしているようだ。
ただ、兵士達には詳しい事情は知らされていないようだな。
人数が増えたことで油断しているようだった。
「あー……、こんな門の警備くらい一人でも大丈夫だろ……。なんで三人もいるんだよ……」
「良いじゃないか、暇なんだから」
「その分仕事時間も増えるんだぞ?」
「それもそうだったな……」
「いったい隊長は何を考えているんだ……」
ここまで油断しているなら潜入は簡単そうだった。
せっかくなので直接話をしてみることにした。
「すみません、少しよろしいですか?」
「あぁ……、なんだ、旅行客か? どうしたんだ」
「ここって王城……なんですよね?」
「もちろん見ての通りそうだが?」
「そうなんだ……。それじゃあここには王様とかが住んでるんですね……。それじゃあその護衛をしてる人たちはとっても強いんですよね?」
カイは普段見せないような輝いた目を見せる。
すると兵士はあきれ顔になりながら答えてくれる。
「もちろんとっても強いぞ。特にこの国には最強の兵士団長、マーグル様がいるからな」
兵士はどこか誇らしげだった。
「それなら安心ですね。ありがとうございます」
カイはお礼を言ったあとにその場を離れていった。
◇
警戒すべき相手は兵士団長だけ……。
おそらく国王のそばにいるんだろうなと想像がつく。
ただ、先に殺ってしまうと更に警戒心を煽ってしまうか。
少し考えた結果、とりあえずカイはまず王城へ潜入することを優先することにした。
すると城の中へ入っていく一般人の姿を見かける。
兵士に軽く会釈をしただけ。
それなのに兵士達も同じように軽く頭を下げただけで素通りしていた。
もしかしたら兵士達の話に何かヒントがあるかもしれないとカイは聞き耳を立てていた。
「今日はどんな料理を作ってくれるんだろうな?」
「カバンの中から何かの肉が見えた。きっと肉料理だぞ」
「カバンの中にはいる程度の量しかないのにか?」
「うっ……、そういえばそうだな。それじゃあどんな料理を作ってくれるんだろうな……」
どうやら先ほどのやつは料理人だったようだ。
さすがにこの王城内の料理を一人で担当してることはないだろう。
複数人いて当然……と考えると――。
「よし、ひとまずわかる範囲の情報はこのくらいだな」
あまり長居しても怪しまれるだろうからとカイは一旦この場を離れることにした。
◇
今度は町の中を見て回る。
今歩いているところは食品などが売られている場所で、結構人が多い。
(ここまで逃げて来られれば人混みに紛れることができるな)
カイはにやりと微笑む。
そして、商品を見て回っていると店員の一人がカイに声をかけていた。
「おっ、そこのにいちゃん。どうだい、一つ買っていかないか?」
店員が手に持ちながら進めてきたのは果物だった。
カイ自身はあまり欲しいとは思わないけど、チルへのお土産にはちょうどいいかもしれない。
せっかくなので、一つもらっていくことにした。
◇
「カイさん、お帰りなさい」
宿の部屋に戻るとチルが嬉しそうに出迎えてくれる。
「あぁ、ただいま。これ、チルへのお土産だ」
「あっ、カグの実ですね。とっても甘くて美味しいんですよ……」
チルははにかみながらカグの実を受け取ってくれる。
「それじゃあ早速皮をむいて、切り分けてきますね」
「いや、それはチルだけが食って……」
「せっかくですから一緒に食べましょう」
微笑むチルを見ていると断りにくい。
カイは苦笑まじりに頷いていた。
すると嬉しそうにチルは厨房へ……。
「ど、どうしましょう、カイさん。ここ、厨房がないです」
(まぁ、宿屋だもんな……)
苦笑しながらカイはチルを連れて女将に話をしにいく。
そして、宿の厨房を借りて、カグの実を切り分けるのだった。
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