第6話 本

 桜は散ってしまった。 




 私は昼休み図書室にいる。

 遥か過去で少年に見られてるかもしれないと思ったら、困ってしまった。


 でも、好きだと言われたのは嬉しかった。

 私のことを好きになる人がいるとは思わなかったから。


 今日は本を見に来た。

 あの本。


 あの少年をどこかで見たことがあったと思ったのは本の中の写真だった。

 あの友人と一緒にも写っていた


 この本はあの少年が書いたのだ。

 素敵で楽しい語り口。

 本を読むと少し、少年に触れた気がした。


 素敵な人に好きになってもらえたのだ。

 嬉しかった。


 「・・・なんか腹が立つ」

 彼が隣りで呟く。


 私が持つ本を覗き込んで毒づく。

 彼とは図書室に一緒に良く行くようになった。

 二人で行く必要なんかないのに。


 本は一人で読むものだから。 

 と言ったら


 「アイツが見てるかもしれないから」

 と言っている。


 それの何が問題なのだろうか。


 彼とは話をするようになった。


 まだ、上手く話せないけど。


 本の話とかなら、結構話せる。

 たまに、電話もくれる。

 良く分からないけど、友達にはなれたのかもしれない。

 何か一つ思い出があればいいと思っていたのに、すごいことだ。

 でも。


 「言葉にしないと、届かないよ。言葉にしたら届いたでしょう?」

 少年の言葉が聞こえる。


 


 伝えよう。

 いつか。

 少なくとも、私は伝えられて嬉しかった。

 それは、私の勇気になった。

 卒業するまでには伝える。

 伝えることは無意味ではないと思えたから。


 「・・・言いたいことがあるから、放課後また会ってくれる?」

 彼に小さい声でささやかれた。

 彼も私に伝えたいことがあるらしい。


 なんだろう。


 私は今この学園の不思議な現象の調査に夢中で、それをたまに彼も手伝ってくれている。


 何か新しい発見があったのだろうか。


 「わかった」

 私はそう言って笑った。


 「・・・絶対、わかってないよね」

 彼はため息をついた。


 少年が残した本の最初のページはあの桜の写真で。

 桜の樹は、あの夜のように咲き誇っていた。






 END


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桜の下で出会いたい トマト @kaaruseigan1973

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