第2話 自分の事も好き

ひでちゃんとは毎日会ってた。

ひでちゃんは大工さんで毎日朝から仕事で疲れてるのに会いに来てくれる。

会いたいって言えば疲れてても来てくれて、でもそのうち、しんどい方が勝って断られるのが怖くて、会いたいって言えなくなってた。

「さゆは俺に会いたいって思ってる?

俺が言わなかったら、さゆからは言わないね。迷惑なら教えてよ!」

「迷惑なんて!そんな事ない。ひでちゃん仕事で疲れてるのに、私が会いたいって言えば無理して来てくれて、だんだんそれが負担になって嫌になられたらって思ったら…」

「さゆ、俺だってそう思ってるよ。さゆ疲れてないかな?会いに行ったら迷惑かなって。

さゆは迷惑?会いたくない?」

「迷惑じゃない、会いにきてくれて嬉しい。」

「俺も嫌がられて負担がられて、嫌われるの嫌だから、会いたいって言えなかったから、さゆと俺は会えないまま終わってしまう。お互い会いたいって思ってるのに、終わってしまう。」

ひでちゃんの言う通りだ。

ひでちゃんが疲れてるかもって心配してたけど、私は自分が傷つくのが怖くて、言い訳してただけだ。

私がひでちゃんの心がわからない様にひでちゃんも私の心はわからない。

黙ってても心の声が聞こえる能力は誰にもないのだから。


「さゆ、俺はさゆが大好きだから。

さゆじゃないと駄目だから。」


私幸せだな。


私のバイトが終わって迎えにきてくれて、海までドライブ。ひでちゃん達は車が好きで皆スポーツカーに乗っていて、山を走りに行ったり、競争したり、とてもカッコいい。

ひでちゃんは私が乗ってる時は車間距離も開けて穏やかな運転で安心する。せっかちな人の運転は怖い。遅い車にイライラしたり、細い道でも飛ばす。運転に自信があるんだろうけど、隣の私は怖くて息つく暇がない!

ひでちゃんの隣はとても安心する。


冬に珍しく雪が降った時、会う約束をしてたけど、雪が降って運転危ないし、会えないなって思ってたのにひでちゃんは来てくれた!


「雪一緒に見たいから。」


って。


車を止めて車の中でたくさん話した。

「あかねとスノボーに行った時にね、リフトから降りるの2人共下手でね、降りたらすぐダッシュしてた。」

「ふはは!どんくさいもんな。」

「だって!すぐどかないとリフトせまってくるから!笑ってるけどひでちゃんだってダッシュするはず!」

「俺はスムーズに降りれるょ!俺がさゆもちゃんと降ろしてやるよ!」


話しをちゃんと聞いてくれて、嬉しい言葉も言ってくれる。


「バイト先でね、私の名前でレジ打った1人がね、間違えて、でも私の名前だから私がしたと思われてて、私は休憩入ってた時間だから私じゃないのを伝えたんやけど、なんとなく後味が悪くて、私じゃないって言わなくても良かったんだけど、でもやっぱり私が間違えたって思われたくなくて。」

「うん。勇気出して伝えて良かったと思うよ!さゆ頑張った!」


ひでちゃん大好きだなー。


私は小さい頃の事をあまり覚えていない。覚えているのは、父親がいつ怒るかわからず、言葉を選び顔色を見てしゃべっていた事、それにもかかわらず、怒られて怖くて、勉強教えられてても怖くて頭に入らなくて、私がわからない時にわからないって答えない事に怒られ殴られて、ダイニングのテーブルの上を整理したら、大事な書類がないって怒られ、どうしたらいいかわからず、ただ怯えていた事や、母親に喜んで欲しいからお手伝いをしたり、お小遣いで母親の好きな物を買って渡したり、痛い時に痛いって言うのが悪い事のようで、我慢したり、そんな事は覚えているけど、母親に抱っこしてもらったり手をつないでもらったり、小学校から帰ってから何をいつしたのか、家族とどう過ごしてたのか覚えていない。

姉と弟がいて、愛されてなかったわけじゃない。母親は家族を大事にしていたから。

だけど私は自分に自信がないし、小学校の頃から、「死にたい」って紙に書いたり、生きる事に執着がない気がする。早く大人になって1人で暮らしたいって未来ばかり見て、今日の日を大事にするより、今日が早く過ぎて未来に少しでも早く近づく事を願ってた。


ひでちゃんと出会って私は1日1日が楽しくて愛しくて、生きるっていいな。こんな私の事を好きになってくれて、いつも側にいて、私が困ってないか、道を間違えてないか、変な勧誘に誘われてないか、気にして守ってくれるひでちゃんはすごい。

私を好きでいてくれる自身がなく、少しの事で不安になって、顔色伺って、何もないフリして笑っててもひでちゃんは気付いて、私を抱きしめる。

「今、何に不安なの?

さゆは分かりやすいから。

俺はいつもさゆを見てるからわかるんだよ!

目が今にも泣きそうなのに無理して笑ってる。」

「…」

「さゆ、大好きだよ!

さゆのヤキモチもイビキも、俺は大好き!」

「イビキはしない!」

「ふはは!ヤキモチかー!」

「ヤキモチじゃない!」

「ヤキモチかー男冥利につくね!」

「何それ!」

「ふはは。」

ひでちゃんはあったかい。

ひでちゃんは私をすっぽり抱きしめて私の心を溶かしてしまう。


何も喜ばれる事をしてなくても、泣いても拗ねてもひどい言葉を言ってしまっても、

「大丈夫。大好きだよ。」

って抱きしめてくれる愛は、誰かの真似をしたりいい子を演じる事でしかもらえなかった愛とは違う。


私は初めて私を好きになった。





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彼といる時の私が好き @hiyusu

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