サウナウォーズ〜アツすぎる男たちの闘い〜

@shimennsoka

第1話

久遠理央は温泉に来ていた。

『サウナでも入るか、、、』

理央はそう呟きサウナ室へと入っていった。

十二、三人ぐらいだろうか。

おっさん、おじいさん、どちらにしろ圧倒的に年上だらけだった。

彼らはみな、理央の顔を確認すると嘲るようににやりと笑って、また下を向き、暑さに耐えていた。

心の中で「お子ちゃまが入って来たぜ。」と、でも思っていたのだろう。

その嘲笑が理央の闘争心に火をつけた。

理央は出入り口の一番近くに空いていた席には目もくれず残っている席の中で一番奥の席に向かい、堂々と腰を下ろした。

彼なりの宣戦布告である。

5分くらい経った頃だろうか。

二人のおっさんとお兄さんが出ていった。

理央は誰にも聞こえないような小さな声で

『あと十人』

と、呟き下を向いていた。

しばらくしてふと顔を上げると、サウナ内の時計が10分経ったことを理央に教えた。

この間には誰も抜けなかった。

また五分程たった頃

1人のじいさんがしゃっくりをしだした。

『うぃっ、うぃっ』

数秒ごとに何度もこんな音を鳴らすのだ。

全体がイライラし始めたのを肌で感じた。

一部の人はわかりやすく彼を睨みつけ、わざと咳払いをするような者もいた。

そして、痺れを切らした人々が外へ出ていった。

『ふっ、しゃっくりじいさんは残ったか。

あと、五人。』

周りを見渡しながらそう呟いた。

今残っている人たちには敬意を払って名前でもつけてやろうと考えた理央は一人一人を観察していった。

1人目はもっとも出入り口に近い席に座っている太った中年男性。ブヒ丸と名付けた。

2人目はその後ろにいるしゃっくりをしているじいさんだ。言うまでもないが、しゃっくりじいさんと名付けた。

3人目は理央の左後ろに座っていた40代前半くらいのおっさんだ。理央の高校の体育教師の増田によく似ていたのでそのまま増田と名付けた。

そして4人目、自分の隣に座っている汗ダクダクのじいさんの名前を考えていた時、遂にしゃっくりじいさんが外へ出た。

じいさん枠が空いた!

そう気づいた理央は汗じいさんと名付けてやった。

ここにいる4人はすでにサウナ四天王と呼べるが、理央は全く満足していなかった。当然辛いには辛いが、自分を舐めて笑った奴らに負けるなど彼の自尊心が許さなかった。

20分。

4人がお互いの顔をチラチラと確認していた。

彼らも負ける気は無いようだ。

当然である。

彼らもまた四天王なのだ。

理央はここで弱っているところを見せるわけにはいかないと思い、

あえて微笑みながら3人と目を合わせた。

まるで弱者を一方的に捕食する獣のように。

その余裕を気取った態度が効いたようだ。2人が同時に腰を上げた。

ブヒ丸と汗じいさんだ。

この瞬間から理央と増田の一騎討ちが始まったのである。

理央は『増田、負けねぇぞ…。』と心の中で己に言い聞かせるように呟いた。

増田もしきりに理央の表情を見て来ている。しかし、理央は一切弱さを見せない。

これは男と男の闘いなのだ。

ここで理央は大胆な行動をとる!

理央は苦しそうな顔を作って腰を浮かした。

増田は満足そうな顔をしながら理央を見た。

勝てたと思ったのだろう。

しかし、それは大間違い。

理央はかまどの真隣、すなわち最も暑い場所へ移動したのだ。

増田は落胆を隠せない様子だった。

とはいえ、彼も決勝戦まで上り詰めた男。

その姿を見てもなお、諦めるそぶりは見せず、逆に距離を詰めてきた。

「さすがだぜ、増田。それでこそ俺のライバルだ。」

理央はそう言わんばかりの目で増田をしっかりと見つめた。

アツい!サウナも暑いがこの闘いのアツさだって負けてない!

2人はすでに限界寸前だが、1歩も譲らない。

『ギィ、、、』

入口の方からドアを開ける音がした。

理央と増田は今更誰が来たって、仲間には入れてやらねぇぜ?と思いながらどんな奴が入ってきたのか、確認しようと覗き込んだ。

『うぃっ、うぃっ、うぇいっ』

しゃっくりじいさん‼︎

増田は苦笑いをしながらこちらを見て、立ち上がった。

出ていくことを決めたようだ。

『あんなにイライラさせられたしゃっくりじいさんに救われるとはな。

これだからサウナはやめられねぇ。』

そう呟き理央も外に出た。

勝者を讃えるかのような心地のいい風がそこに吹いていた。

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