番長と乙女

五味葛粉

第1話

最近すごく、すご~く!!気になる子がいる。


 二年生にして最強の番長と恐れられている番田長人ばんだながと君だ。


 自慢じゃないが私、花野乙女はなのおとめ(18)は一年の時から今年、つまり三年間連続で生徒会長を務めるくらいには真面目なので、不良とかヤンキーとかぱんぴー?あ、ぱりぴ?とか怖そうな人はすごく苦手である。


 そんな私が何故彼のような乱暴で金髪で背が高くて力が強くてイケメンで頭も良くて実は優しいんじゃなかろうか?

 みたいな人が気になっているかと言うと、まず一週前の出来事から語らねばなるまい。


 ―――――――――――――――

 ×月×日(雨)


 その日は朝から雨が降り続き、傘無しで登校しようものなら濡れスケ必死、変態童貞達のオナペット待った無しの一日だった。


 当然、私も傘を忘れる筈がなく、いつも通りの一日を終えて帰宅している時、事件は起きた。


 雨の降りしきる電柱の下で、番田君が傘も差さずに捨て犬を撫でていたのだ。


 段ボールの中でうずくまる子犬に番田君は言った


「ワンワンワオーン!!」


 なんでやねん!!!!!!!!

 と危うく口に出すところだったが何とか踏みとどまる。


 彼との距離は目測3メートル、周りには誰もいない状況、雨+子犬+番田+生徒会長=ラブコメ


 じゃないの!?何なのそれ!?何で鳴き声真似する?普通は「お前も一人ボッチなのか?俺もだ」で胸キュン!だろ?真面目にやれよ!!


 何て本人に言う度胸がある筈もなく、私は足早にその場を離れようとした。


 濡れながら子犬と戯れる番田君の横を通りすぎようというところで

「ちょっ、待てよ!」

 と番田君が声を上げる。


 相変わらず周りには人がいないので、自分に向けて声をかけられたのだろう。

 立ち止まり、振り向くか迷ったが彼は番長、後が怖いのでやっぱり振り向く事にした。


 恐る恐る後ろを向くとそこにはまるでリンゴのように赤面した番田君がいた。


「さっきの……聞いてたか?」


 さっきのとは犬の鳴き真似の事だろう。

 何だろうこの子、ちょっと可愛いじゃん。


「さっきのって何??」

 とりあえず聞き返しておくかと思ったが、

「あぁ、実はさっきまで犬の鳴き声を……」


 自爆しやがった(爆)。

 表情には出ていなかったと思うが、番田君の顔はみるみる赤くなっていき、もはや番長の威厳0で

「あ、ああ、あああーー!!!」

 と泣きながら去っていった。

 ちなみに子犬はしっかり抱えていた。


 ―――――――――――――――

 ×月△日(晴)


 ワンワン事件から3日が経ったある日の事、

 何となくイイ人かも知れないと思っていた番田君はやはり番長なのだと思い知った。


 帰宅途中変な三人組に絡まれたのだが、

「へっへっへ、姉さん良い体してるじゃん?」

「ほっほっほ、私達と遊びませんか?」

「yoyo、ユーは何しにニッポンへ?」


 何だこいつらギャグで言ってるんだろうか?間違い探し的な?


 とりあえず女の子の必殺技、金的を外人風のアフロヘアーに繰り出そうとした時、彼は現れた。


「ちょっ!待てよ!」

 私の前に割り込み叫ぶ番田君。


「番田君!」

「番田!」

「番田!」

「パンダ?」



「「「「ぷっ、ふふ、ははは、あーはっはっはっはっは!!!!」」」」

 爆笑である。


 私達四人の笑い声が響く中、

 明らかにさっきと違う理由でイラついている番田君のパンチやキックが舞う。


「あっはっはっはパンダて!あっはっはっは!!!」

 気がついた時には番田君の姿は無く、気絶した3人組と笑い続ける私だけが残されていた。


 ――――――――――――――――――

 ×月◯日(晴)


 さらに3日後、つまり今日。


 冒頭で言った通り私は彼がすごく気になる。

 今現在港の空き倉庫で、3日前のパンダ事件の時絡んできた三人組と一緒に気絶している番田君は本当に番長なのだろうか?


 まあいいや、こんな所にいたらせっかくの真面目キャラが崩壊するし、彼のプライドを傷つけてしまうだろう。

 と思って番田君達と気絶さ・せ・た・西高の不良目測百人を放置して家路についた。

 ――――――――――――――

 すげぇ……。

 薄れ行く意識の中、番田は思った。華奢な女の子とは思えない怪力に正確無比の打撃で迫る不良をなぎ倒す生徒会長。


 中学時代の憧れ。

 恵まれた体格を持ちながら乙女と呼ばれイジメられた自分とは正反対の存在。

 花のように可憐で知的、さらに強い。彼女は番長と呼ばれていた。


 彼女は俺を助けてくれた事なんて覚えてないだろうが、俺はどうしても忘れられなかった。


 彼女に近づきたくて不良デビューしようと思ったが東高には不良がいなかったので、


 とりあえずアホな友人達と不良っぽい事をしていたら番長認定され、周りの不良高の生徒にも目をつけられる始末。


 そんなこんなで結局何も出来ないまま一年が過ぎたある日、やっぱり卒業する前にこの気持ちを伝えたいと思って、先回りして犬と戯れたり、マッチポンプでカッコつけてみたものの、まったくの無反応。


 今日だって絡まれてる彼女を助けようと飛び出したにも関わらず、瞬殺されるという残念すぎる結果。


 気絶する直前、番田は思った。

 先輩から声をかけてもらうのは無理だ。

 こうなったらもうあれしかない。最終手段ラブレターだ!!


 ――――――――――――――――

 ×月~日(晴)


 今日も今日とて何も無い平和な空だ。

 昨日の事は、若干心配だがまあ彼らは男だ。問題無いだろう、等と思っていたからだろうか。


 私は真面目に予鈴30分前に登校しているので、普段は誰にも会わないのだが、今日は後ろから声をかけられた。

「ちょ!待てよ!」


 振り返らなくても分かる。

 彼の第一声は決まってこれだったから。


 あんまり良い予感はしないが無視するのもアレなので振り向く。

「何?番田君?」


「う、あ、そ、その……」


 ? 何故か赤くなった番田君がもじもじしている。手に何か持っているようだが……あぁ、そういう事か。


「こ、これ受け取って下さい!!」

 バッ!と90度以上頭を下げて四角い紙を突きだす番田君。


「ありがとう。確かに受け取ったよ」

 出来るだけにこやかに笑いかけ、それを受けとる。

 大分引きつった笑みになっていると思ったが、


 番田君はパァッと顔を輝かせて

「ありがとうございます!!」

 直角のお辞儀から土下座に移行する。


 そんなに喜ばれるとこちらも嬉しくなってくるものだ。


「どういたしまして!」

 うん。我ながら完璧な作り笑顔だ。鑑が無くても分かる。


 顔を上げた番田君と目が合うと、もういっそ赤絵の具を塗りたくったのかと思う程に顔を紅潮させて、

「そ、それじゃあ失礼しますです!!!」

 後ろに全力疾走していった。

 学校反対なんですけど……。


 しばらく歩いているとまた声をかけられた。


「会長~、おはようございま~す」


「ん?あぁ、おはよう副会長」


 彼女は副会長。それ以上でもそれ以下でもないTHE・副会長だ。

 ちなみに巨乳。


「さっき番田君がすごい勢いで走っていきましたけど、何かやったー、とか叫びながら。会長何か知ってます?」


「あぁ、これの事だろう」

 番田君から受け取った果・た・し・状・を見せる。


 すると副会長は目を丸くして、

「えぇ!!?ラ、ラ、ラブレター!!!?!!??」


 何を言ってるんだこのポンコツは。

「違う違う、果たし状だよ」


「いやいやいや!何言ってるんですか会長!馬鹿なんですか?お目目節穴なんですか?ってちょ!冗談!冗談ですから!頭グリグリしないで下さい!」


「誰が馬鹿だってぇ?このポンコツがあ!」

 要望通り頭グリグリの刑を執行する。


「うあああ!!痛い!イタイ!いたい!イタイイタイイタイイタイ痛いいいいい!!!頭、頭馬鹿になりゅううううぅぅぅぅぅぅ!!!!!」


 この子はもう駄目かもしれない。

 とりあえず一分経ってから解放した。


「ハァハァハァ。うぅ頭痛い。封印されし記憶が!」


 これに構ってると早く出た意味がないので無視して歩き始める。


「う、うぅうぅ我が名はエグゾって、待って下さいよ会長~!」


 胸を揺らしながら小走りして、隣に並ぶ封印されし者。


「無視するなんてヒドイですよう。番長に告白されたからってヒロイン気取りですか、まったく。」

 副会長が唇を尖らせる。


「ははは、5枚にバラして封印するぞコラ」


「フッ、残念ですが私が復活した時点でデュエルは終了してるんですよ」


「甘いな、罠カードオープン!頭グリグリの」

「分かりました私の負けでいいです!!」


 ふふん、やったぜ相棒!


「でもそれ本当にラブレターじゃないんですか?」


「どこが?」


「いやどこがって、ハートのシールで封がしてあったら普通はラブレターなんじゃ?」


 それはまあ普通ならそうだろう。しかし、

「番長がそんな事すると思う?」


 ハッ!と副会長が目を見開く。

「確かにそうですね!」


「そうでしょう?これは煽りよ」


「煽り?」

 副会長がきょとんと首を傾げる。


「そう、三年間真面目に過ごしたにも関わらず!!一人も彼氏が出来なかった私を煽ってるんだよ!!」

 グシャリと果たし状を握り潰す。


「まあ真面目すぎるせいだと思いますが」

 ボソボソと副会長が呟く。


「何?何て?」


「何でも無いですよ。それよりいいんですか?中身見なくて」


 グシャグシャになったゴミを指差して副会長が言う。


 見なくても分かりきってるけどな

 まあ、一応確認しておくか。


 立ち止まって、のり巻きみたいに丸めた紙を引き延ばし、封を剥がして中身を見て見ると


「うわぁ……」

「はわわわ」


 拝啓

 花野乙女様へ


 初めて見た時から好きでした。

 放課後、部室棟の空き教室に来てください。

 直接お話したいです。


 2―3番田長人


 なんてやる気の無い果たし状だ。


「ラブレター、ラブレターじゃないですか!」

 騒ぐ副会長。


「落ち着きなさいよ。ますます果たし状じゃない」


「どこが!?!?」


「どこがって、さっき会ったのにわざわざ場所移す必要ないでしょ?つまり待ち伏せね」


「はぁ、会長。」

 何か疲れた表情でポンと肩を叩くと、


「もっと現実を見ましょうね。はいこれ、足りないかもしれませんが」

 そう言って副会長はコ◯ドームを箱ごと手渡してきた。


 やっぱこいつヤバいわ。

 とりあえず会長として頭グリグリの刑三分を執行しておいた。


 ―――――――――――――――――――

 そして放課後、私は指定された部室棟の空き教室前にいる。

 しかし変だ。ドアに耳を当てて中の音を聞いているのだが、一人分の気配しか感じない。

 待ち伏せかと思ったが、やはり番長、一対一がお望みのようだ。


 しかし、油断は禁物。ここ最近ばったりと会っていたのは私を観察して実力を量っていたのだろう。


 そして勝てると踏んで果たし状を出した。

 アホっぽい顔で中々慎重な男だ。


 だが人の悩みを馬鹿にするかのような果たし状。

 面白い奴だと思っていたが、あれは許せん。

 とりあえず一週間は色々と立たない体にしてやる!

 ――――――――――――――――

 教室のドアが音を立てて開かれる。


「待たせたな番田君」

 鋭い眼光を放つ乙女。


「待ってませんよ」

 体温が限界突破した番長は体から湯気を放っている。


 乙女は思った。

 あの湯気、漫画で見た事あるぞ。確かワ◯ピースで主人公が使ってた技だ。

 あいつ本気で殺しに来ているな。


 番長は思った。

 あの眼光、突き刺さる殺気。

 間違い無い、確実に怒っている。

 手紙なんかで告白するナヨい奴は殺す、そんな凄みを感じるぜ。


 二人は思った。

 相手が本気な以上、先手必勝だ!


「行くぞ番長!!!」

 乙女は拳を握り床を蹴る。


「好きです!俺と付き合って下さい!!」

 シュバッと頭を下げる番長。


「「え?」」


 突っ込んだ乙女と顔を上げた番長の唇が重なった。


 誤解が解ける5分前。

 正式に『番長』が『乙女』の唇を奪うまで後30分。

 この日二人は恋人になった。

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