第3話 それでも前へ

私は彼の葬儀が終わって、まだ家に引きこもっていた。

何もしたくない。それが本心だった。

彼を失った喪失感と自己嫌悪に苛まれブツブツと独り言を言う毎日。


「少し外に出てみたら?」


と母に言われ、外に出てみた。空は真っ赤な色をしていた。行く宛もないのだが。私はふと家の近所には神社があることを思い出した。


昔はよくそこで遊んだっけ。ずっと用もなかったから、しばらく行ってなかったけど、行ってみようかな。


境内に着くと何故か社が大きく見えた。

どうせならお参りしていこうかな。

私は静かに目を閉じ、手を合わせた。


すると目を閉じた暗闇から一筋の光が見えた。


そこには彼がいた。

泣きながら謝っている彼が。

そして私にこう言った。


「僕の事なんて忘れて、幸せに生きてよ。」


涙声で彼が言う。

忘れるわけない。どう足掻いても無理だよ。

「忘れた方が幸せになれるよ。」


忘れて幸せになんてなりたくない。


「君の笑った顔が見たいんだ。」


「僕は見てるから」



そう言い残して、彼は消えた。と同時に目の前に神社の景色が広がる。


「あれ?」


さっきまで凄く何か口論をしていた気がしていたが思い出せなくなってしまった。

ただ、彼が泣きながら見ているとそう言ってくれたのは覚えている。


彼はきっとそこに居たのだろう。


そして私を見ていてくれるのだろう。

彼が見ているのに、情けない姿はこれ以上見せられないな。



すこしだけ前を向いて生きていこうと、そう思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

私は、僕は昨日失恋した。 @aqly

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ