第7話・証明の仕方

 新設された不思議研究会の顧問申請書を提出した翌日のお昼、学食で昼食を済ませた俺は、教頭先生から放送で呼び出しを受けて急いで職員室へと向かった。


「教頭先生、お呼びですか?」

「ああ、早乙女先生、休憩中にすみませんね」

「いえ、ご用件は何でしょうか?」

「昨日提出してもらっていた顧問申請書の事ですが、検討した結果、申請の許可を出す事にしました」

「えっ!? 大丈夫なんですか?」

「何か問題でも?」

「あ、いえ、その部活にはシエラさんが居ますから、自分が顧問になる事でご迷惑をかけたりしないかと心配になったもので」

「なるほど、しかしその点については私も校長も、他の学年主任の先生達とも話し合いましたが、これまでの早乙女先生の働きぶりなどを考慮した結果、大丈夫だろうという判断に至りました」


 ――入学式の後であんな事があったのに、俺を信用してくれるってのも変な話なんだけどな。


「そうでしたか、分かりました、申請を許可していただいてありがとうございます」

「それでは先生に顧問札と鍵をお渡しします、部室は四階東側の一番奥にある、予備準備室を使って下さい。ただ、あそこは今は物置になっているので、片付けをしてから使って下さいね」


 そう言うと教頭先生はデスクの引き出しを開け、そこから一枚の縦長な札と鍵を取り出し、俺に差し出した。


「分かりました」

「部活の代表には、先生から直接顧問になったと報告を入れて下さい。では、他に何か質問はありますか?」

「いえ、特にありません」

「それではこれで終わります」

「はい、それでは失礼します」


 意外な展開に驚きつつも、俺は受け取った顧問札と鍵を持って、すぐに赤井さんが居るだろう一組の教室へと向かったが、辿り着いた教室内に目当ての赤井さんの姿は無かった。


「誰か、赤井さんがどこに居るか知らないか?」

「赤井さんならさっき、シエラさんを連れてどこかに行ってましたよ」

「そっか、どこに行ったのかな」

「お弁当を食べてる時に、赤井さんが大きな声で屋上の話をしてたから、多分屋上に居るんじゃないですかー?」

「屋上か、ありがとう、行ってみるよ」


 生徒から情報をもらった俺は、急ぎ足で屋上へと向かった。

 そして辿り着いた屋上で俺が目にしたのは、生徒の姿がまばらな屋上で手を繋いで輪を作り、空を見ながらブツブツと呪文の様なものを唱えている赤井さんと、そんな赤井さんを見つめているシエラちゃんの姿だった。


「えっと、二人は何してるの?」

「異生物との交信」

「どういう事?」

「お静かにっ! 今は宇宙人との交信を試みてる最中なんです!」

「そ、そっか、それは悪かったな」


 赤井さんは自己紹介で『不思議な事に興味がある』と言っていたが、まさか昼休みの屋上で宇宙人と交信を試みるくらいの不思議好きとは思わなかった。

 こうして俺は二人の宇宙人との交信が終わるのを静かに待ったが、結局その交信は昼休みが終わるまで続いた。


× × × ×


「結構荷物が沢山あるな」

「そうですね、これは片付けが大変かも」

「先生、ここを片付ければいいの?」

「そうだよ、でも、この荷物量は時間かかりそうだな。まあとりあえず、いらなそうな物を先に選別をしよっか」

「そうですね、ところで先生、先生とシエラちゃんが結婚してるってマジなんですか?」

「えっ? あ、ああ、まあね」

「本当ですかー? 私としてはとても信じられないんですよねー」

「分かった、それじゃあ証明する」


 そう言うとシエラちゃんは持って来ていた鞄を開き、そこから一枚の筒状になった紙を取り出して赤井さんに手渡した。


「えーっと、婚姻届受理証明書? 夫、早乙女涼介、妻、シエラ・アルカード・ルシファー」

「信じてもらえた?」

「信じたっ!! 確かに先生とシエラちゃんは結婚してますねっ!」

「シエラちゃ――じゃなくて、シエラさん、それ、いつも持ち歩いてるの?」

「うん」

「何で?」

「よく今の質問と同じ事を聞かれるけど、話すだけじゃ誰も信じてくれない、だけどこれを見せると、みんな信じてくれた、だから私は、人間には言葉よりもこういう物を見せる方が早いと分かった」


 人は言葉よりも、目に見える証明を信じる、シエラちゃんはしっかりと人について勉強しているみたいだった。


「ははっ、人間について勉強してるなんて、やっぱりシエラちゃんは面白いなあ、さすがは魔界から来た悪魔さんだねっ!」

「その話しもしたの?」

「うん」

「赤井さんはその話を信じてるのかい?」

「もちろん信じてますよ、だってその方が面白いじゃないですか!」


 ――やれやれ、シエラちゃんと同じ厨二仲間ができちゃったな。


「さあ、二人共、時間がもったいないから片付けを始めるよ」

「うん」

「はーい」


 こうして俺は相変わらずな様子のシエラちゃんと、楽しげな様子の赤井さんと一緒に部屋の片付けに勤しんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る