第5話・洒落にならない事態
悪魔を自称する少女、シエラちゃんと過ごす生活が始まってから、早くも4月を迎えた。
俺としては少しでも早くシエラちゃんに自宅へ帰ってほしいところなのだが、日が進むにつれて言い辛い状況になってきていたし、シエラちゃんの行使できる
「それじゃあ仕事に行って来るから」
「うん、行ってらっしゃい」
いつものようにシエラちゃんに見送られながら、俺はかなり早めに自宅を出た。なぜなら今日は新入生の入学式で、俺が受け持つことになる1組の生徒達との初顔合わせになる日だからだ。
「さてと、今日も頑張りますかね」
手に持っていたリュックをしょってから両手を上へと伸ばし、身体をほぐしながら職場へと向かい始めた。
× × × ×
「――と言うわけで、特に新入生の担任になる先生方は様々な点で注意をし、新入生達が少しでも早く高校生活に慣れるようにして下さい」
職員室ではいつもより早い朝礼が始まり、校長先生、教頭先生に続き、各学年の学年主任から伝達事項を告げられた。
「それでは朝礼を終わります、皆さん、今日も一日頑張りましょう。あー、それと早乙女先生はこのあと教頭先生のところへ行って下さい」
「分かりました」
長めの朝礼が終わったあと、俺は言われた通りに教頭先生の所へ向かった。
「教頭先生、ご用は何でしょうか?」
「あー、早乙女先生、実は先生が受け持つクラスなんですが、生徒が1人追加で入ったので、渡しておいたクラス名簿をこちらと取り換えて下さい」
「分かりました、名簿を持って来ますね」
俺は急いで自分のデスクへと戻り、持っていた名簿を教頭先生に手渡してから新しい名簿を受け取った。そして追加された生徒が誰なのかを確かめようと名簿を開こうとした瞬間、校内にチャイム音が鳴り響いた。
――あっ、もう時間か、仕方ない、追加の子は教室で確かめるか。
新しい名簿を開くのを止め、急いでデスクの上に用意していた荷物を持ち、4階まで上ってすぐの位置にある1組の教室へと向かった。
そして辿り着いた教室内へと入った俺は、ちょうど教卓のすぐ前にある席に座っている人物を見て我が目を疑った。
――何でここにシエラちゃんが居るんだ!? あー、いやいや、慌てるな、他人の空似ってのはあるもんだ、名簿を見ればすぐに別人だって分かるさ。
動揺する中で名簿を開いたが、その中に『シエラ・アルカード・ルシファー・早乙女』という名前を見つけ、思わず固まってしまった。
「先生、どうかしたんですか?」
「えっ!? ああ、いや、どうもしないよ。えっと、自分はこれから3年間、みんなの担任を務めることになる、早乙女涼介と言います、みんなよろしく。本当なら続けてみんなの自己紹介もしてもらいたいんだけど、それは入学式の後にやるとして、どんな自己紹介をするかは考えておいてほしい。これからみんなには、入学式を執り行う体育館に行ってもらいますので、廊下に出て出席番号順に2列に並んで下さい」
緊張の面持ちを見せる生徒達は、みんなそわそわしながら廊下へと向かい始めた。そして生徒達が廊下へと向かう中、俺は目前の席に居るシエラちゃんに小さく声を掛けた。
「シエラちゃん、これはどういうこと? どうしてここに居るの?」
「先生が『人の気持ちを理解するには学校へ行くのが最適』って言ったから、先生の居る学校に通うことにしたの」
「通うことにしたって、もしかしてこれも
「うん、
――なんてこった、まさかあの言葉がこんな事態を招くとは。
「それじゃあ先生、学校でもよろしくね」
短くそう言うと、シエラちゃんはみんなが居る廊下へと向かって行った。
「何事も無ければいいけどな」
こうしてシエラちゃんのとんでもない
× × × ×
「入学式お疲れ様、あとはみんなに自己紹介をしてもらって、高校生活の諸注意をしたら今日は終わりだから、もう少しだけ頑張ってな。それじゃあ予告通り、みんなに自己紹介をしてもらうよ。では出席番号順にお願いします、まずは赤井さん、よろしくね」
「はいっ! 私は
とても簡潔な自己紹介を終えた赤井さんが席に座ると、そこからはあまり変わり映えしない感じの自己紹介が続き、いよいよシエラちゃんの番が回ってきた。
「私はシエラ・アルカード・ルシファー・早乙女、人間界のことを勉強する為に魔界から来ました」
――あちゃー、言っちゃったかー。
シエラちゃんの口にした厨二設定を前に、教室内が少しざわつき始める。家の中ならともかく、学校で厨二設定を出さなければいいなと思っていたが、その思いは虚しくも散ってしまった。
「あのー、シエラさんは別の世界から来たってことですか?」
シエラちゃんの発言で教室内がざわめく中、一番最初に自己紹介をした赤井さんが恐る恐る手を上げ、シエラちゃんにそんな質問をした。
「うん、それで今は先生の家に住んでるの」
「ちょっ!?」
「「「「「ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!」」」」」
シエラちゃんの不用意な発言に、生徒達は一斉に大きな声を上げた。
「一緒に住んでるって、早乙女先生とシエラちゃんは親戚とかですか?」
「ううん、私と先生は結婚してる、だから夫婦」
「ふ、夫婦!?」
「ちょ、ちょっと何言ってんのっ!?」
「何って、本当のことじゃない」
シエラちゃんの夫婦発言により、今日一番のどよめきが教室内に起こった。そしてこの後、俺は騒ぎを知った校長に呼び出しを受け、シエラちゃんとは別々に聴取を受けることになってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます