第4話 レーニンの憲法制定会議解散を批判する

ツアー政府を倒した(2月革命)後の臨時政府に対して、ボルシェビキ(レーニン派)は「戦争の停止(即時講和)」とこの憲法制定会議(そのまま国会になる)の開催を強く求めていた。それに対して臨時政府の首相ケレンスキー(社会革命党)は勝利による講和・戦争の継続を主張し、憲法制定会議をなかなか開こうとはしなかった。皇帝時代の将軍コルニーロフの反乱、ボルシェビキら左派勢力を臨時政府から排除したいと考えていたケレンスキーも彼を支持し、軍の首都への導入を依頼した。この失敗によって形勢は一挙にボルシェビキに傾き、ボルシェビキのソビエト政権が樹立されるのである。10月革命、10月25日であった。


革命を承認した10月25日に開かれた全ロシア兵士・労働者ソビエト大会の代議員構成と11月12日に選挙された議員構成は大きく異なっていた。革命まもない状態で、農村における浸透度が弱いボルシェビキの選挙結果の不利が予測され、延期が検討されたが、それは混乱を生むだけとして予定通りの日程で行なわれた。農民に基盤(農民は人口の8割を占めていた)を置く社会革命党(エスエル)が40%、都市部、労働者・兵士に基盤を置くボリシェヴィキは24%であった。1月に召集された憲法制定会議は当然、革命政府の議案は否決されることになった。翌日レーニンはこれを解散させた。


ロシア最初の普通選挙による20歳以上の男女による選挙であった。ブルジョワ民主主義からすると「何たる暴挙!」ということになる。

選挙は比例代表制で、革命前の情勢でエスエル右派の有利な名簿で組まれていた。革命幹部は、「憲法制定会議は『革命の前日』を代表しているにすぎず、革命後の状勢の変化を代表していない」と述べている。また、12月4日に第2回全ロシア農民大会が開かれて、権力を憲法制定会議に移行させるというエス・エルの提案が否決された。ロシア革命はレーニンの「すべての権力をソビエトへ!」というスローガンのもとに労働者・兵士が武装蜂起して政権を奪取したものであり、それを農民ソビエトが承認し隊列に加わったことを意味した。この大会でエスエルは左右に別れ、左派は革命政府に参加した。憲法制定会議の存在意義は開催される前に消失していたと革命政府は見たのである。


これに対してローザの制憲議会についての批判は、その解散措置に向けられたものではなく、その改選を行わずに、「10月に構成された憲法制定会議の特殊な欠陥から憲法制定会議は全て不要だと云う結論を下し、しかもトロツキーが、革命期間中は一般に普通選挙によって選ばれた人民代表制度は役に立たないところまでこれを一般化した」に対してであった。

「プロレタリアートの歴史的使命は、権力を握ったときに、ブルジョア民主主義の代わりに社会主義的民主主義を創始することであって、あらゆる民主主義を破棄してしまうことではない」「それは大衆の積極的な参加から一歩一歩生まれ、大衆の直接的な影響下にあり、全公衆の統制を受け、人民大衆の政治的練習のたかまりの中から生まれてくるものではなければならない」。これがローザの社会主義下の民主主義の原則であった。

あの兵士、労働者のソビエトはまさにそのようなものではなかったか。ジョン・リードの有名なルポタージュ『世界をゆるがした10日間』の中でも、ボルシェビキの兵士が、メンシェビキの労働者が、エスエルの農民が、無名な者たちが我も我もと壇上に立ち意見を述べる。賛成!の声が飛び、野次が飛ぶ。そんな中から革命が生まれたのではなかったか。


注釈;【ソビエト(労兵協議会)】

ロシアではソビエト、ドイツではレーテと言った。例えば工場や兵舎で1000名を単位として代議員を選び、大会で中央執行委員を選ぶ。3ヶ月単位や問題がある度に選び直される(女性にも選挙権はあった)リコールも可能な直接民主主義であった。


反革命の内戦、外国の干渉戦争、ドイツのウクライナ占領等、「ロシアに起こっていることは、全て理解できる」ことであって、やむを得ざる措置として認めながらも、社会主義の原則からの批判を加えて、この措置が国際的に規範化されることを防ごうとしたのである。


この獄中で書かれた「ロシア革命論」草稿は彼女のグループ、スパルタクス団(後のドイツ共産党)の幹部に見せられたが、今のロシアの情勢に批判を加えることは良くないとされて公表されなかった。後のドイツ共産党(KPD)党首になるパウル・レヴィによって1921年に始めて公表された。


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