第3話 ローザ・ルクセンブルクとはどのような女性であったろうか?

1871年にポーランドで生まれる。父親は材木商で外国とも手広く商売をしていて、父も母もユダヤ人であった。当時、ポーランドはロシアの支配下にあった。ワルシャワ高等女学校を首席で卒業。卒業後すぐに革命組織のワルシャワ支部に入り活動を始め、マルクス・エンゲルスを勉強し始める。ワルシャワ労働者同盟の創設に関わり、当局に睨まれるところとなり、スイスに亡命。

チューリッヒ大学で自然科学、政治学、経済学を学ぶ。ここで私生活でも、政治活動の面でも固く結ばれた社会主義者ヨギヘス(ロシア)を知ることになる。1893年チューリッヒで開かれた第2インター*の大会で報告を行い、注目を浴びる。若干22歳であった。『ポーランドの産業的発展』の論文で博士号を取得する。活動をドイツに移すため、偽装結婚してドイツ社会民主党に入党する。帝国主義戦争に一貫して反対し、レーニンのロシア革命を熱烈に支持し、ドイツのプロレタリアートが革命でこれに応えるべきと訴え続ける。4年3ヶ月の大戦中3年4ヶ月を獄中で送った。レーニンの論敵として、彼女が亡くなったとき、レーニンは最大級の賛辞を贈った。


第二インターナショナルのシュトゥットガルト大会で採択された戦争反対決議案(反戦のために全ヨーロッパ労働者階級の結束を求めるもの)は、ローザとレーニンによって起草されたものである。戦争の危機がせまると、カール・リープクネヒトらとともに良心的兵役拒否や命令への不服従を訴えかける。 この件により懲役1年の有罪判決を受ける。「域内平和」をかかげ、ツアー政府の戦争に賛成したSPDに怒り、最左派の立場を明確にし、党内分派スパルタクス・ブントを結成する。


女性の革命家、赤いローザ。ついいかめしい人物を想像してしまうが、彼女は花を愛し、小鳥に想いを馳せ、音楽と文学とをこよなく愛した。

「およそ人間的なもの、そして女性的なものも、わたしにとって何ひとつ縁遠いものでも、どうでもいいものでもありません」と書いた『獄中からの手紙』の2編ほどを紹介する。

岩波文庫の帯にはこう書かれている。リープクネヒトの妻となった幼友達あてに書き送った22通の手紙.どの一通からも,逆境にあって少しも変わることのなかった自然や書物に対するみずみずしい感受性,いや何にもまして余りにも人間的であったこの女性革命家の,繊細にして心温かな人となりが伝わってくる。


ヴロンケ監獄 一九一七年五月二日


聞いてくださいな、昨日、五月一日に出会ったのは――だれかおわかり?――輝くばかりに活きのいいヤマキチョウですよ! うれしさのあまり胸がふるえました。チョウは飛んできてわたしの袖に止まり――ライラック色の上着を着ていたので、その色に惹かれたのでしょう――それからゆらゆらと塀の向こうに消えてゆきました。午後には三種類のきれいな小さい羽毛を発見、ジョウビタキのくすんだ灰色の羽毛と、ホオジロの金色の、それにナイティンゲールの灰色がかった黄色のと。ここにはナイティンゲールがたくさんいて、はじめての歌声はもう復活祭の日曜日の朝早くに聞こえましたし、それからは毎日わたしの庭の大きなウラジロハコヤナギに来ます。三枚の羽毛は、きれいな青い紙箱に入れたわたしのささやかな蒐集品に加えます。この箱にはバルニム街監獄の中庭でみつけた羽毛も入っているんですよ――ハトとニワトリの、それにズュートエンデで拾ったすばらしくきれいな青いカケスの羽も。「コレクション」はまだとてもわずかですが、ときどき眺めて愉しんでいます。どれをだれに贈ろうか、もう心づもりをしているんですよ。

ところが今朝、塀のほうに近寄ってみると、なんと塀ぎわにそっと隠れるようにしてスミレが咲いているのを見つけました! わたしの小さな庭全体で一輪きりのスミレ。ゲーテはなんと詠っています?


すみれが一輪、野に咲いていた、

頭を垂れて、だれにも知られずに、

小さな、可憐な花すみれ!

〔Das Veichen, モーツァルトがこれに曲を付けている〕 (p. 48)


ブレスラウ(獄中) 一九一七年九月九日

          日曜日

ゾニューシャ、あなたは想像できるかしら、小鳥、たとえば、スズメよりまだかなり小さいコマドリが、春に南(南エジプト)からヘルゴラント〔北海にあるドイツ領の島〕までの旅を一晩でやってのけるなんて。こんな小さな生き物が、北へ再び帰りたいと、これほど驚くべき熱い思いを抱いている。南へ渡る秋にはこれとはちがって、おおかたの渡りの群はためらいがちにしか飛んでいかず、途中で何度も旅を中断して休みます。それほど故郷を去りがたいのです……(p. 110)


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