第五話 竹田城
神話の時代、
また収穫期に決まって氾濫する円山川の治水工事を自ら民と城兵を率いて敢行し、但馬の大地に豊饒な恵みを約束させている。
その国作りはかつて広秀と惺窩が播磨で語り合った夢と知恵を礎にしていることは明白であった。
「惺窩様、ご覧ください!稲穂があんなに
惺窩の身の周りの世話をする童女の楓が
道端の農夫に広秀の居館を尋ねると手を止め「
竹田城は竹田山の頂に築かれた堅牢な山城で
久方ぶりに見る広秀は
「随分
惺窩は自身を納得させるように聞いた。
「えっ? 私は惺窩さんみたいに禿げてませんよ」
「誰が禿げや! お前いま全僧侶を敵に回したど! 仏敵か!?第六天魔王なんか!?」
笑う広秀を見て惺窩は内心胸を撫で下ろしていた。
「それにな、もうじきこの坊主頭ともおさらばや。わいは仏道を降りる」
「……儒学ですね」
「そうや、仏門は死後を開く門。わいは気が短いからな。今を生きる民を救うんは儒学やと考えとる。お前が言う民草と歌を詠む国作りをわいが儒学で支えたる」
楓が驚いた顔つきで惺窩を見ている。寝耳に水だったらしい。
後に文禄 慶長の役と語られる豊臣秀吉 二度の朝鮮出兵は混沌を極め、その戦下に捕縛された朝鮮の若き儒学者
「
惺窩は息をのんだ。
「長治さんは臣民の命と引き換えに自ら肚を切られたそうです」
「
「しかしあの時、私は私の感情を抑えきれませんでした。意趣返しで我を忘れた武将が民と歌を詠む国作りなど片腹痛いですね」
「それでもお前はこの城下を潤わせとる。お前はまだお前の夢を諦めてへん!」
広秀は何も応えない。ただ虚しい時間が流れた。
惺窩は静かに座を立つと広秀に背を向けた。
「広秀、わいは京で秀吉に
そう言い残すと惺窩は
「惺窩様、何やら獣が鳴いておりまする」
「……嗚呼、鵺が哭いてやがる」
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