虚構の嘘吐き
@holst93
第1話
_____弟が死んだ。
容姿が良くて文武両道。ラノベの主人公が劣等感抱きそうな奴だった。
_____弟が死んだ。
それなのに俺の部屋に勝手に入り込んでは漫画やラノベを読み漁って、気が付けばどっぷりオタク沼にハマってた奴だった。
_____弟が死んだ。
それどころか、バ美肉してVTuberになってそこそこの再生数まで稼いでる奴だった。
そんな・・・
_____とても可愛い、弟が死んだ。
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弟の葬式が終わってから2日目。
俺は弟が死んでから初めて、弟の部屋に入った。
部屋はまだ、弟が生きていた頃を残酷なまでに主張してきた。
___畳まれていないベッドの掛け布団
___開けっ放しの引き出し
___充電中のスマホ
その一つ一つが鋭利なナイフとなって俺の心に刺さってくる。
その鋭さに耐えられず、俺はベッドに座り込んで頭を抱え一人呟いた。
「・・・本当に死んだのか・・・?」
わかっている。頭ではわかっている。これは馬鹿げた発言だと。
葬式を上げ、冷たくなった体に触れ、火葬場で遺体を焼き、遺骨を自宅へ持って帰った。
一つ一つが弟の死の何よりの証左なのに、まだ俺は弟が死んだことに疑問を持ち続けている。
そして、俺の脳の一番浅ましい部分はこうとすら思っているんだ。
『弟は生きていて、異世界転生したんだ』
『そうだ、きっとそうに違いない』
『ご丁寧に、弟はトラックに跳ねられたんだ』
『それこそ、異世界転生した何よりの証拠じゃないか』
なら。
本当にそうなら。
せめて一週間だけでも戻ってきてくれよ。
戻ってきて、計画してたハワイ旅行に行こう。
あれを一番楽しみにしてたのはお前の親父なんだぞ。
その旅行の中で家族4人で目一杯話そう。
「〚コンビニ行ってくる〛なんて言葉を最後の会話にしたくなかった」と嘆き続けているのは、お前の母親なんだぞ。
そして旅行から帰ってきたら、疲れてるところ悪いけど動画作ってくれよ。俺も手伝うからさ。
お前のVTuber動画。俺は心底大好きだったんだからさ。
だからさ、戻ってきてくれよ・・・・・
不意に、機械音がなった。
顔を上げるとパソコンが起動していた。
弟はシャットダウンを全然しない奴だった。
きっと、何かの拍子でスリープ状態だったのが解除されたのだろう。
再びついたモニターを見たとき、俺は心を失った。
モニターに表示されていたのは、恐らく弟が死ぬ直前まで作っていた動画と動画サイトの投稿ページ、そして「エンコードが完了しました」という文字列だった。
俺はモニターに近づいてその画面をじっくりと見た。
動画を投稿する準備は、すべて終わっていた。
サムネイル選びも。動画の説明文も。すべて終わっていた。
それを理解した瞬間。
俺の手は動き始めた。
理性を心から追放し、
ただ心の赴くままに、
その動画を投稿した。
___その瞬間、俺は亡き弟の尊厳を踏みにじり
___【嘘吐き】になった。
虚構の嘘吐き @holst93
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