エピローグ【余】
◇主要登場人物◇
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-0.0000000000000000001-
人生は物語と等しく容易には終らない。
意味不明に始まって、理解不能に続いていく。
理不尽に、理不尽に、理不尽に。
ならばこの
鑑みる暇も無い、省みる隙も無い、有るがままのなし崩しに他ならない。
死が解放であると錯覚してしまうぐらいには、救い様の無い物語の続きを始めよう。
-G.59-
(へぇ……本当に倒しちゃったんだ。凄いね、これは予想外だったかも)
魔力を持たないただの人間――
あの青年と出会った際に気まぐれで与えた、ちょっとばかりの
それでも生き残る確率は一割にも満たないとばかり思っていたのに。意外や意外、彼はやってのけたのだ。
過去、脳針とは引き分けという結果に終ったものの、それこそ山のような数の魔術師を押し並べて完破してきた鏡面の識者を、撃破するという偉業を成し遂げた。
(こんなことなら一部と言わず彼だけに全部渡しとけば良かったなぁ~……なーんて思っちゃったり)
もうすぐ夜明けを迎える。脳針は一瞬、ほんの一瞬だけではあるが、天を追いかけようと考えた。
考えたが、止める。
理由は二つあった。
一つ目は、折角恋焦がれた罪人である
これは脳針自身の意思が優先された、いわば内的な理由。
二つ目は、仮に彼と彼女の元へ馳せ参じようとしたところで、五体満足なまま辿り着けるかすらが怪しいと考える、外的な理由。
「お久しぶりですね」
深緑がかったライダージャケットに黒のジーンズ。
不機嫌そうな表情を浮かべて、自らに語りかけるこの男。
一 体 い つ の 間 に 背 後 に 現 れ た ?
「――ボクの背後を取るなんて、やるじゃあないか。みたところ初めましてなんだろうけど、キミは?」
内心を悟られないように口調こそおどけてみたものの、首筋を伝う汗の冷たさが証明するまま、突如として現れた正体不明の第三者に、自らの動物的本能がけたたましい警告音を鳴らしているのが分かった。
(溢れ出る魔力の量が常軌を逸している。桁が違うなんてものじゃない、これはきっと…………次元が違う)
「嫌だな。脳針さんみたく強い魔術師は、いちいち殺した相手の事を覚えていないんですか? 伽藍の
深く被っていたフードを上げて、顔が覗き出た。
「キミは――キミはあの時ボクが確実にトドメをさしたんじゃあ……」
がらんはじめ。
ガランハジメ。
危険すぎる才能と能力を有していたが故に、危うく
かくいう脳針も死ぬ一歩寸前まで追い詰められ、
下方よりこちらの内面を覗き込むようにして、射抜くような視線で自らを睨み付けながら、端〆は
「トドメを刺したと認識させるのが精一杯でした。あの頃の僕といえば、才能の欠片も無い餓鬼でしたからね。脳針さんがもう少し
他者の意識を極限まで己に向けない奥の手でもってね、と。
端〆は薄ら笑いを浮かべていた。
しかし決して不機嫌そうな表情を崩してはいなかったが。
「正直。いやね、本当の所余す事無くつい先ほどまではね、可愛い妹がもうすぐ処刑されるんだなって絶望してたんですよ。親父は死んで、母親は行方知らずになって、残された唯一一人の家族がいないこの世の中なんて、耐えれないし絶えるべきだと考えたんですよ。でも、妹は妨害者によって救出され、魔術とかいうクソみたいな無為の
「“道具”? なんだいそりゃあ。ボクはそんなもの知らないな」
「守護者だろ、お前」
「お前の宿している“緑夜叉”――僕にくれよ」
「・・・・・・・・・・・・」
「言い方を変えようか。さっさとよこせ――でなければ今ここで始末する」
「ッ――――!!!?」
剥き出しになった殺意が容赦なく脳針へと叩きつけられる。
無意識且つ瞬時に、体組織が“鱗体”へと構築されてしまう。
先の番人達と戯れていた時とは状況を異とする、一歩間違えれば存在が滅びかねない、掛け値無しに
「相変わらず
首を反時計回りにぐるりと回し、それでいて直立不動の姿勢を解かないままに、端〆は気だるそうに脳針を見据えている。
(凡そ190万匹弱……
自らの残存戦力を計算しながら、どう仕掛けるかと
屍体であった。
身体の至る所を、現在進行形で
「
ブーンブーン、と。
闇夜が包む視界不明瞭な辺りに、羽音が重なる音が聴こえてくる。
やがてそれは次第に勢いと量とを増してゆき、今や大気を振るわさんとする重低音と同様かそれ以上の――
「真衣は優しい妹でした。優しいからこそ、他者に対して誰よりも興味を持ちそれを
(血と肉を媒体に自らを構成する我が魔術の更に上――伽藍一族のみしか使えない秘術中の秘術“生体干渉”――ッ!!!)
背骨のない無脊椎動物のうち、脚に節のある「節足動物」。
地球上において二番目にシェアを占める、生命体の一種。
昆虫類に限らず、 宙と地を綱甲殻綱・唇脚綱・倍脚綱らが
ぞろぞろと。
うじゃうじゃと。
「あなたのかわいいかわいい金魚ちゃん達が何匹いるのか分かりませんが――仮に一千万匹いたとしましょうか。大きさは劣るかもしれません。でも数だけならその一千倍以上は優に超えるでしょうね。単位で表せば京かな? それとも垓かな? 数学は苦手なのでよくわかりませんが、あははっ」
「・・・・・・・・・・・・」
彼我の戦力差は計り知れないほど開ききっている。
開き直りでもなんでもないが、「ここで自分は死ぬのだな」と脳針は諦めた。
とはいえむざむざ殺されるつもりなど毛ほどにも無かった為なのか、彼は言わずにはいられなかったのだろう。
いてもたってもいられなかったからか、あるいはいたたまれなかったのは彼自身にしか分からないが。
「絶体絶命の所悪いのだけれど、伽藍端〆。一つだけお前に言っておきたい事があるんだ」
「なんですか? バケモノ改め『さかなちゃん』さん。辞世の句でも、詠みますか?」
「――――,――――.」
「え? なんて? 聴こえなかったのでもう一度お願いします」
「Bite
罵倒を合図に、黒い群れが渦となって、脳針を視界から消した――。
-.59-
まるで隕石が落ちたかの様な――まっさらな更地にて。
そんな爆心地と見紛う中心に――人間の形をした何かが2体立っていた。
一人は、どこにでもいるような成人男性。一点特異な部分を挙げるならば、胸元から自重の何倍もの樹木を生やしている点であろう。
地面から生え出たそれは、男の胴体を丸々突き破り、視認に易い程の恐るべき速度でもって、今も尚天に向って成長を続けていた。
対するもう一人は、どこからどう見ても人間とは判別できない様相を醸し出している。
頭の天辺から爪先に至るまで、鎧のような物を纏っている。しかし実際にはそれは皮膚から直接生えているというか、鎧そのものが皮膚と同様の性質を有しており、かつて関節があった部分――今となっては鎧の継目に様変わりしているのだが、そこからは翡翠に点滅する鈍い光を放っていた。
脳針筵、緑の守護者。
全卵虫を以ってしても伽藍端〆に敵わないと踏んだ、【
司る属性は“植物”
自らが発する大気中の成分割合を即座に書き換える程の圧倒的な有害物質の発憤により、
本来ならば変異するだけで自我が崩壊し、意識という意識が全て白痴と化すシロモノなのではあるが、守護者である責務を全うするだけの愚直なまでの我が、脳針の意識をかろうじて保っていた。
眼前の脅威は去った。口からは大量の血液を
しかし。
ぱこんっ、と。
乾いた音が、後頭部辺りから、響く。
「惜しかったですね」
そこには伽藍端〆が立っていた。
彼の手には、柄の長い木刀のような物が握られていた。どうやらそれで後方から叩かれたのだと、気付く。気付いた所で遅かった。
全身が、音も無く灰となり消滅していく感覚が、脳針に伝わっていく。
(ココニキテ・・・・・・シ、・・・・・・神器ダト・・・・・・?)
神器『空蝉』。
緑夜叉に対抗する為に精製された――超弩級魔宝具が一本。
貫いたはずの前方の人間の形をした何かは、みると蟲の屍骸の寄せ集めであったようだ。ばらばらと、それこそ蜘蛛の子を散らすように、形を為していたものがちれぢれに霧散していく。
「そんな大層な力を所有しておきながら、結末は10年前と一緒ですか。呆れた。本当にあなたに敗れた過去の自分が、どうしようもなく情けない」
【他者の意識を極限まで己に向けない】能力。
敗北を喫した要因を知覚する間もなく、脳針筵は――緑の守護者は、塵に帰した。そして、彼の立っていた足元に拳大の宝石が亡骸のように転がっている。
中央部は、欠けているように見えた。端〆はそれを拾い上げ、ぽーんぽーんと投げながら、こともなさげに呟いた。
「やれやれ。呆気ないというか味気ないというか。ともあれこれで緑色は手に入ったし、あと六つか。赤河童と黄麒麟はもう見つかっているから良いとして……まぁいいや、地道に時間をかけて探していこう」
全部揃った暁にはこの世に存在する全ての魔術師をぶっ殺せるんだから、と。
それから
かくして緑の守護者は破れ、蔑ろの暴君が緑夜叉を手中にするカタチで一旦は幕を閉じる。
白石天に分け与えた自身の細胞に紛れ込ませた中に、その一部が含まれている事を彼らは未だ知らない。
ここから更に10年後、伽藍端〆が率いる“神の七本足”が襲来するまでの間は一時の平和を享受するも。
物語は未だ終らない。
[ラブ♡マイ♡ブライド 終幕]
ラブ♡マイ♡ブライド 宮園クラン @miyazono-9ran
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