第4話 お怒り

 「ようやく着いたな。疲れてないかイリス?」


 「平気よ。それより服を着替えないと。貴方は特にね」


 「そうだな、俺も服に血や汚れがひどいからな。」


 あれから、休息を取りながらも歩き続け、シルフィの街の門前にたどり着いた。上を見ると空はまだ赤い、これなら約束の時間には間に合う。イリスに指摘された通り、ずっと歩きっぱなしだったから服は汗臭いし汚いし血が乾いた跡もある。ギルドへ向かう前に一旦家に帰るか。


 とりあえず門番に報告をしないとな。街に入るには門での手続きが必要で面倒だ。まぁ俺はこの街のギルド所属だから顔見せで十分だが。さっさと街へ入る為に門番に駆け足で寄った。


 「よっ!帰ってきたぜ、バン」

 

 「おっ!ドラゴの旦那!お帰りっす!うわッ、すごい汚れっすね…」


 「はははっ、ちょっとな」

 

 「ちょっとだけじゃないっすよ…」


 俺が声をかけたのはバン、シルフィの街の門番だ。門番は数人での交代制で門を守り、入出者の管視を行っている。ほとんどの門番とは顔見知り程度だが、バンとは特に仲のいい飲み仲間だ。


 「それより、今日はバンがこの時間なのか?」 


 「そうなんすよぉ〜だからギルドに行けるのは最後らへんっす……」


 「そうか…残念だが仕方ない。ギリギリでも待ってるからな」

 

 「了解っす!あっ、イリヤさんお疲れ様っす!」


 「お疲れ様バンさん」


 「いや〜今日も綺麗っすね!」


 「そう?ありがとう」

 

 イリスから明るい表情と労いの声をもらったバンは嬉しそうだ。かつての俺もこれくらい美人の女からにこやかな声を掛けられたら魅了されただろう。今となっては本性を知ったからな、もう口説こうとは思わない。もしイリスを口説こうとする奴が居ったら応援するぞ。怪しい奴だったらぶっ飛ばすがな。


 「ドラゴの旦那もどうでしたっ〜?イリスさんとのデートはぁ〜?」


 「はっ?」


 「まっ、服と胸甲の汚れを見ると帰りに何かあったか想像つきますけど、街では誰にも邪魔されずデートを満喫したんすよね〜?」


 バンの野郎、ニヤニヤしやがって。そんな冗談言ってると、今度こいつの女房にイリスを見て鼻を伸ばしてたことを密告してやろうか。というかこいつ俺より6歳下のくせに美人な女房がいるんだよな。密告してやる。


 「デートな訳ねえだろ。ただの買い物だ。」


 「またまた〜」


 「それ以上言うと…」


 「ドラゴ」


 「あぁ…イリス悪いな。ッ!」


 バンと会話途中に後ろからイリスに声を掛けられた。話すぎたかと思い、謝りながら振り返るとイリスが俺を睨んでいた。表情には出てないが俺には分かる。あれは随分怒っていらっしゃる。


 怒られる要素がわからないぞ…。あぁ、そういえば服を着替えたいと言ってたな。汗臭いだろうし、さっさと着替えたいのは俺もだ。バンへの用事はもう特にない。早く帰ろう。


 「行くかっ、イリス…。じゃあな、バン。ちゃんと来いよ」


 「……じゃあ後でね、バンさん」


 「また後で〜」


 随分のんきな返事をしやがって。イリスを見ろ。なんか怖くて話掛けられん。少し話し込んだだけで機嫌悪くなるとか…そんなに服が臭いのか?イビル・ボアを斬る時に思ったより血が付いたかもしれんな。なんかイリスが怖いからさっさと帰るか。

 

 俺が拠点としているこのシルフィの街は大きくもなければ、小さくもない。この大陸中では平均値ぐらいだろう。特別な役割があるわけでもない、すごい力を持っているわけでもない、至って普通の街。


 俺達は門をくぐり街へ入っていく。今はもう日が沈み掛け、暗くなりかける。ただ、街は完全には暗くはならない。真夜中になるまでは、あちらこちらに置かれているストリーアと呼ばれる人工魔法アイテムで明るさを保証されている。それでもこの時間帯では買い物する者や働く者もいなくなり、多くの店などは閉まっている。歩行者もまばらだ。

 

 この時間帯では特に話す知り合いも歩いていない。ある場所まで来ると、俺達は立ち止まった。


 「それじゃ、ギルドでな。遅れるなよ」


 「大丈夫よ、貴方じゃあるまいし。買ってきた物、忘れないでね」


 「わかってるよ。…まだ怒ってるのか?」


 「何が?私が何に怒ったの?ねえ」


 「い、いやっ俺の勘違いだ。すまん。またな」


 まだちょっとだけ怒ってるな、こいつ。帰り際に何か日頃の感謝とご機嫌取りも兼ねて、開いている店で買っていくか。実は昨日今日、居た街でイリスにも日頃の感謝を込めて送り物を買おうと思ったが、常に隣で品定めしてるもんだから恥ずかしくて何も買えなかった。帰るついでとギルドに行くついでにどこか店が開いているといいんだが。

 

 「開いてねえな……どこも。やはり遅かったか。」


 自宅へ歩いていく途中見渡すが、どの店も開いていない。空もだいぶ暗く、防犯用のストリーア(街灯)の灯りも順々に点いてる。

今からの時間は飲み屋ぐらいしか開店しない。


 「仕方ねぇ。また今度だな。っとやばいな、家まで走るか」


 とりあえず着替えと風呂だ。急がないとな。今日はギルドである人の誕生日パーティが開かれる。そのためにクルフィの街へ気合の入ったプレゼントを買いに行ったり、この日のために普段お洒落しない俺が買っておいた服も用意してある。頭も普段と違い、綺麗に整えてある。

 ギルドの仲のいい同業者の祝い事でもここまではしない。頭や服なんて適当で高い酒を奢るくらいだ。そんな俺がある人の誕生日パーティのためにここまでするのは理由がある。

 それは、ある人・・・受付職員であるアリアさんに愛の告白をするためだ。

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相棒が俺にだけ厳しい件について ナマ毛モノ @namake85

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