仏が三体並んでいて、上から宇宙が下りてくる。

「キクナちゃん、あついの?」

 瑞葉のかぶせるタオルは絞りが甘くて、目の端からぽろぽろと雫が垂れた。首から横に垂れ、額から横に垂れ、耳の中にぞろりと入った。

 仏は端の方が欠けてきている。

「ゆめだ」

「なあに?」

「熱のときにみる、ゆめ」

「ゆめを見ているの?」

 そう。夢を見ている。

 私は夢を見ている。外の声が聞こえる夢。体が熱いような夢。いずれ寒くなる夢。きゅうりを食べる夢。水音が聞こえる夢。朝がくる、昼がくる、夜がくる夢。

 不明物体は夜中に時々跳ね上がって水を飛ばした。

 これも夢だ。

「ぜんぶ夢なのね」

 そう。

 何もかも全部夢だ。

 だってそれは生きてなどいないのだ。

「おとうさん」

 そうだ。

 瑞葉の父親はもう死んだ。

 死んだ人間は、早く、どこかへやってしまわないと。

 そうしないと、仏がどんどん削れていってしまう。てとてと、音を立てて。

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