10年後地球メンテナンスするのであとよろしく

ちびまるフォイ

地球の支配者

『これより10年後に地球メンテナンスが実施されます』


人類の脳内に届いたメッセージは疑いようもなく地球側からの言葉だった。


「地球メンテナンス!?」

「いったい何が行われるんだ!」


けれど地球は既読こそつくが人類へのメッセージに答えることはない。

人間たちは偉い人集めて緊急会議を開いた。


「メンテナンスが実施されるらしい……」

「我々はどうすればいいんだ……」


「メンテナンス時間中は地球に入れないのでは?」


「えっ」


この言葉をきっかけに「ノアの箱舟計画」が開始される。


メンテナンス時間中には地球にいられないことを見越して、

宇宙へ人間を避難させるという世紀末的な計画だった。


「ちょっと! どうして牛や豚は乗せるのに

 私達人間は入れてくれないのよ!」


「そうだそうだ! 俺たちも方舟に乗せろー―!」


方舟と呼ばれる宇宙ロケットには家畜や人間たちが載せられた。

人間には有権者や人類に貢献した人、イケメンや美人、各人種などが選ばれて載せられる。


個人でもお金を貯めて宇宙避難を試みる人はいたが、

それはあくまでも莫大なお金を持っているひとにぎりだった。


宇宙逃避できないと知った人間たちがあまりに暴れるので、

急きょ地下にはシェルターが作られて提供された。


「みなさん、安心してください。宇宙へ行けない人間を見捨てるわけないでしょう。

 ここにある地下シェルター『ヴォルト21』に入ればメンテナンス中でも生存できますよ!」


舌切りすずめだったら首ごと切られかねないほどの大嘘だったが、

地獄に垂らされた蜘蛛の糸にすがるように人々は地下シェルターへと集まった。


それでも10年間の間にシェルターが人間分用意できるはずもなく、

地上には入りきれなかった人とあきらめた人が残った。


メンテナンス当日。


都会の交差点では地上に残った人たちがカウントダウンを始めた。


「5!」


「4!」


「3!」


「2!」


「1!」


「メンテナンスかいs――




【地球からの通信が切れました】



「やっぱりか……」


宇宙を回遊する方舟からはもう地球内部の映像も音声も途切れた。

メンテナンス開始と同時に方舟へ逃れた動物たちへメッセージが届く。


『メンテナンスは1年後に終了します』


方舟からは歓声があがった。

宇宙サバイバルが一転して、1年間の宇宙バカンスへと早変わり。


方舟に逃れた人は宇宙空間での生活を1年間エンジョイした。

1年後のメンテナンス終了日。


方舟内はケーキが用意されてカウントダウンが行われた。


「3!」


「2!」


「1!」


「メンテナンス終了~~!!」


口笛が吹かれる中、頭に届いたのは絶望のメッセージだった。



『メンテナンスをあと2年延長します』



方舟内の人間たちは顔がひきつった。

1年のパーティ騒ぎで食料は使い果たしていた。


2年後。


方舟内に注ぎ込まれていたあらゆる動物は食料として消費され、

口数減らしのために人間同士も争い血と腐敗臭が満ちていた。


『メンテナンス終了しました』


「やったぁ!!! これで地球に戻れる!!」


メンテナンス終了報告を受けるや方舟の進路を地球にとる。

みるみる大きくなる青い惑星に残された人たちは心を躍らせる。



『地球緊急メンテナンスに入ります』



方舟の人たちは再び地獄へと叩き落とされた。

今度はもう終了日の連絡すらない。


いつ終わるかもわからない緊急地球メンテに発狂する人もいた。


「もう我慢出来ない! 俺はもう地球に入る!!」

「おい! 勝手に脱出ポッドを使うな!!」


方舟に用意されていた脱出ポッドを奪取すると

一部の人間は緊急メンテ中の地球へと強制上陸を試みた。


しかし、オゾン層でポッドが爆散したのを見て方舟の人間たちは顔を沈ませた。


「もうダメだ……こんなことになるのなら宇宙になんて逃れずに

 地上で消えてしまうほうがずっとよかった……。

 きっと地上に人間を置いてきてしまった罰なんだ……」


方舟ではもう争うこともなくなり、ただ時間がすぎるのを植物のように待っていた。

地獄のような半年後。



『緊急メンテナンスが終了しました』



地球のメンテナンスが今度こそ終了した。

方舟に残された人間たちは再び故郷の惑星へと戻った。


待っていたのは地獄を過ごした人間にはあまりに眩しい光景。


「おお……! なんて自然豊かなんだ!!」


メンテ前は伐採されて失われていた森も。

あらゆる汚染で台無しにされていた河川も。

汚され続けていた空気もなにもかもキレイに復元されていた。


「見ろ! 俺たちの街も残っているぞ!!」


人間が築いてきた文明や建築物も復元や修復されて元通り。

作られた当時のように新品同然となっていた。


上陸した人間たちは大いに喜んだ。


「見ろ! 枯渇していた石油がまた採れるようになっている!」

「鉱石もまた採れるように元通りになっているぞ!!」

「やった! 地球の資源すべてがリセットされたんだ!」


ありとあらゆる地球の恵みが戻ってきたことを知った人間は感謝した。


「さぁ、さっそく収穫しまくろう!」

「我々への地球からのごほうびだ!」

「これだけの資源あれば大儲けだ!」

「我々がこの星の支配者だーー!」


人間たちは地球の支配者同然にまた資源回収へと乗り出したとき。



「おい、あれなんだ?」



絶滅前に復元された恐竜と目があったとき、

人間たちは方舟に乗ってまた宇宙へと避難していった。

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