記憶のカギはキミ
@momo_chan
第1話
東京、渋谷。
駅前のスクランブル交差点を渡る多くの人。
足早に過ぎる人混みの中、私はその中に紛れて交差点を渡っていた。
仕事終わりで疲れていたのかもしれない。
交差点を渡り終えた頃、足がもつれて転びそうになった私の腕を後ろの人が掴んで助けてくれた。
「大丈夫ですか?」
そう言って私の顔を覗き込んだのは、同世代の男性だった。
「すみません。大丈夫です。ありがとうございました。」
恥ずかしさでその場をすぐに立ち去ろうとしたが、バッグを落としている事に気付き、飛び出た中身を慌てて拾い集めた。
助けてくれた男性も一緒に荷物を拾い集めてくれた。
「あれ?」
彼が何かに気付いて声をあげた。
見ると、彼の手には私の社員証が握られている。
「本当にすみませんでした。助かりました。」
私は彼の手から社員証を取り、立ち去ろうとした。
「相沢莉子?」
彼は社員証に書かれた私の名前を呼んだ。
「そうですけど…」
いきなり名前を呼ばれて全身で不快感を表した私を、彼は気にせず話し続けた。
「中学って諏訪二中じゃないですか??」
「え?あ、はい。そうです。でもなんで…」
不審がる私とは裏腹に、彼の顔を一気に明るくなった。
「俺、中学の時同じクラスだった木戸俊平!覚えてないかな?」
そう言われた私は必死に記憶を辿った。
しかし、全くと言っていいほど記憶になかった。
「ごめんなさい。わからないです。」
私の言葉を聞いて落胆する表情を浮かべる彼に、申し訳ない気持ちになった。
「そうですよね。そんな前の事覚えてないですよね。いきなりすみませんでした。怪我してないですか?気をつけてくださいね。」
沈んだ顔で立ち去る彼を呼び止める理由もなく、私は訳も分からずただ遠ざかる彼の背中を見ていた。
記憶のカギはキミ @momo_chan
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