第45話 桜の花咲く頃
新星発掘コンテストの結果が出たのは、桜の開花情報が聞かれる頃だった。
その日は、波紋屋ルカと今後の打ち合わせをすることになっていた。
最初に来た時に通された海都社のパーテーションで区切られた応接スペースで、彼女と向かい合うと、ノートパソコンでホームページを開いて、エントリー作品のタイトルを確認した。
「貴石拾いの日」 いつくしま志乃 旅情ミステリー
「殊更に言わずもがな」 琴鳴ハマ 耽溺恋愛小説
「ノーザンビジュー戦記 本伝」 ゾンネン・モロー 幻想文学
「プラトニックペイン」 凪帆 ファンタジー風純文学
それぞれの小説のジャンル設定は、担当編集がつけたとのことだった。
「私の作風って、ノスタルジーとかファンタジーって、映るんですね。いろんな人に読んでもらうのって面白いですね」
「そう、面白いんですよ、だから、これからも、どんどん書きましょう」
元気を取り戻した波紋屋ルカに、そう励まされた。
励まされた、すなわち、私は、賞を逃したのだった。
ゲスト枠のエントリー作品による期待賞は、当初の予定通り、プレコンテスト参加の4名の作品によって選考された。
賞をとったのは、ゾンネン・モローの「ノーザン・ビジュー戦記 本伝」だった。
「ノーザン・ビジュー戦記 本伝」は、その星自体が生命体の惑星「ノーザン・ビジュー」で、人間と幻想世界人、それぞれの存在理由を闘わせて、惑星生命体の支持を得た方が、その星の住人として存在を許され、支持されなかった方はジェノサイドされるという、極限状態での緊張感溢れる物語だった。
担当編集が海外SFや幻想小説好きで、資料としてその方面の本を大量にゾンネン・モローに勧めたところ、彼女は全て読んで創作の糧にしたとのことだった。
悔しいけれど、作品の精度の高さと面白さは認めざるをえなかった。
彼女の作品が、プレコンテスト作品集掲載時から文学寄りのSFやファンタジー好きな人たちから人気があるのは知っていた。
作品集ではキャラクターの作り物めいた感じが強めで多少読者を選ぶところもあったが、本伝ではファンタジーというより幻想小説の趣が醸し出されていた。
大賞は、某大学の准教授が書いた、新米臨床心理士が戦国時代にタイムスリップして戦国武将相手にカウンセラー業を始めたところ、それが評判になって諸国から勇猛だがはみだしものの武将が集まってきて、彼らに持ち上げられて一国一城の主となって天下統一を目指すというファンタジー小説が受賞した。
純文学ではないが、メディア受けする本人の容姿に加え、綿密な歴史考察と准教授の専門の臨床心理学がうまくミックスされて、面白く読ませる作品に仕上がっていた。
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