第43話 ノスタルジーと言われても

 プレコンテスト作品集が出てすぐに、ペンネームを知る知り合いたちから次々と連絡があった。

 後輩の貝原沙羅からは、夏原ノエの講演会への案内メールのあった翌日に、読みましたよ、とメールがあった。本文を引用しながらの感想が書かれていて、「学生時代を思い出して、ノスタルジーに浸っちゃいました」と、しめくくられていた。


「ノスタルジー、ね。私の根っこには、過去への感傷がいつまでも消えないで残ってるのかな」


 後輩からの感想に、そんなことを思った。


 井間辺和子からは、作品を読んだ感想と今後への期待の言葉が述べられたメールが届いた。彼女らしく、丁寧に読み込んで誠実な感想が記されていた。

 自分は所属していなかったサークルだけれど、読むことで追体験できて面白かったと書いてあった。そして、掲載されていた4作品それぞれジャンルは違うが、文学を目指しているのが伝わってきたと感心していた。私以外の作品が、サスペンス、ミステリー、ファンタジーというエンタメ要素の強いジャンルであるにも関わらず、だ。

 いつか彼女たちにも執筆依頼することになるかもしれない、けれど、このメンバーで最初に依頼するのは真帆子、あなたにしたい、だからがんばって、と、メールはしめくくられていた。

 先だって会った時に、今回のことを微塵もにおわせていなかったことには、触れられていなかった。

 私はすぐに返信をした。


 「確かな目を持つあなたに期待されるのは、なにより励みになる」と。

 

 他のメールも、全て、驚きと応援の言葉が連ねられていた。

 それらのメールを読んでいるうちに力が満ちてきた。

 

 高揚する気持ちのまま、執筆にとりかかった。

 一気に書き上げて、いったん寝かせて、自分も眠って、それから推敲する。

 それを繰り返して、応募作品「プラトニックペイン」を書き上げた。

 しかし、何か完成した感じがしない。

 なんだろう。

 わからない。

 ヒントがあるかもと思い、貝原沙羅から案内のあった図書館での夏原ノエの講演会に出かけることにした。







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