第26話 チャンス到来?! 新星発掘コンテスト
直後、メールの着信音が鳴った。
見ると、海都社の編集の波紋屋ルカからだった。
「件名:原稿依頼のお願い
凪田 真帆子様
お世話になっております。
海都社の波紋屋です。
先日は、弊社へ御足労いただきありがとうございました。
御依頼の件の進捗具合はいかがでしょうか。
さて、本日は、先日のご依頼とは別件でご連絡いたしました。
このたび、弊社で創作世界の新たな地平を拓く新人発掘のコンテストを開催することになりました。
コンテストは一般公募となりますが、この企画を盛り上げるために、社内でプレコンテストを開催することになりました。
プレコンテストは、編集部をはじめ全部署が参加して行われます。
デビューを目指し研鑽に努めている人材を、各部署一丸となって探し出し推薦者となってエントリーします。
つきましては、このプレコンテストに、当編集部では、凪田様を推挙させていただきたく思いご連絡差し上げた次第です。
このコンテストは、あくまで本コンテストを盛り上げるためのものですので、優劣を競うものではありません。
つきましては、賞は設けられませんが、弊社でプレコンテスト参加作品集を刊行し、本コンテストの宣材として、出版関係、全国の書店、公共施設等に配布予定です。
作品集は無料配布にに付、商業出版物とはみなしませんので、本コンテストに参加していただくことは可能です。
尚、本コンテストの方の選考方法は、一次選考は読者選考と編集部ピックアップ、二次選考は編集部での選考会議、最終選考は編集部と選考委員会で行います。
参考までに現時点での概要を以下に明記いたします。
・コンテスト名:新星発掘コンテストプレコンテスト(仮)
・主催:海都社
・目的:創作世界の新たな地平を拓く新人の発掘
・賞:無し
・賞品:プレコンテスト作品集掲載
・応募資格:商業デビューしていない新人
・応募作品:オリジナル小説全般(商業出版されていないもの)
・文字数:3万文字以内
・応募期間:募集日より一ヶ月(現在調整中)
・審査方法:賞を設定しないので無し。但し、作品集掲載の順番は、プレコンテスト実行委員会で検討する。
・権利等:別途詳細を連絡。
上記につきまして、ご不明な点等ございましたら、お問い合わせくださいませ。
ところで、もし、現在、お考えになっていらっしゃるプロットもしくはイメージのメモ書きなどがございましたら、お知らせいただけませんでしょうか。
凪田様の物語を生み出す力、筆力、読書量の多さからくる作品の深み、これらの素晴らしさがコンテストで開花する道程を、僭越ながら伴走させていただきたく思っております。
急なお話でまことに申しわけございません。
先だっての御依頼の件がまだ形になっておりませんので、作業量の増加等難しい点もあるかと思います。
そうした点を含めまして、全力でサポートさせていただきますので、何卒ご検討のほどよろしくお願いいたします。
改めてご連絡いたしますが、上記につきまして、ご一考いただければ幸いです。
お忙しい中、また、突然のお願いではございますが、何卒ご検討賜りますよう宜しくお願い申し上げます。
海都社 編集部
波紋屋 ルカ 」
メールの文面を一読して、慌てて放り投げたメモ書きを広げてしわを伸ばした。
「チャンス、なのかな」
しわを伸ばしたページのメモ書きを、改めて読み返す。
読み返していくうちに、そう悪くはないんじゃないかと思えてきた。
むずがゆくて浅薄な気がしたのは、泊愛久を意識したからなのかもしれない。
そう、彼女に読んでもらうというのが前提だったからだ。
「特殊な環境下でなくても、こういうことってあるよね。でも、環境を特殊にすることで言いたいことが鮮明になることもある」
私は誰にともなくつぶやいた。
こうした言いまわしは好きではないのだけれど、意識高いものでないと彼女には見せられないと、自分で自分を縛っていた。
これでは、自分が主体になっていない。
好きな相手に振り向いてもらうためというのを命題にした、未成熟な状態。
それも、悪くはない。
そうした状態から生まれる共感もある。
でも。
やってきたチャンスの手をとりたいと、直感がそれを後押ししたのなら、いったん彼女から離れるべきなのかもしれない。
「読まないで、よかった」
私は、彼女の原稿を封筒に押し戻すと、クリップで留めてバッグにしまった。
それから、もう一度メモ書きを眺めた。
初接触、初対面から押され気味で最初は戸惑ったが、波紋屋ルカは、私の応募作品を全て読み込んでいてくれて、指摘も的確だった。
編集者であれば当然のことだが、多くの担当と業務を抱えている中で、きっちり対応してくれるというのにも誠意が感じられた。
「あまりいじらないで、いったん打診してみよう」
最初に案が閃いた時、これだ、と思うものが降りてきた時、そういった時にメモしておいたものは、断片的であっても本質が捉えられている。
その段階では、そのメモを中心に、放射状に展開が広がっている。
つまり、アレンジによってどのようなタイプの作品にもなる可能性があるということだ。
もちろん最初から一本道で到達するものもあるが、今回のはそうではない。
「これは、放射線状に広がっていくタイプ」
ペインとプラトニックラブという芯を、SF、ファンタジー、メルヘン、歴史もの、ミステリー、純文学などのどのジャンルで表現するか、これは重要だ。
特異な状況下における恋愛ものというのは、オーソドックスな切り口となって、広く興味を惹く。
それは、一般受けする王道のように思える。
プレコンテストなので、一般受けより読み巧者受けするものがいいのかもしれない。
否、粗削りでも、自分をぶつけたものの方がいいのかもしれない。
迷う。
こうして、書く前から消耗するのは愚かだ。
愚かだけれど、舵取りを間違えれば、船は進まない。
進まないどころか、沈んでしまう。
私はちりめん模様を描くメモ書きを「pain」の紙の隣りにピンで留めてメールを読み返した。
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