第5話 文学読書サークルでの出会い
私が通っていた都内の私立大学では、講義よりもサークルへの出席率が高い学生が多かった。それでも互いに出欠をやりくりしノートをやりとりしぎりぎりのところで単位を落とさずに進級していった。
私が入学した頃は留年8年生という先輩もいたが、卒業する頃にはそうした学生も見かけることはなくなっていた。
振り返ってみれば、大学の四年間で全てが平らかにはみ出さないようになっていったように思う。均一な面白さの安堵感にじわじわと支配されていく時代の始まりだったのかもしれない。
多彩さという言葉の陰で、その多彩さの何処かに所属して仲間を見つけなければならないという、新たな束縛の時代の到来だった。
そんな大学生活の中で、彼女、
サブカル寄りの文化系サークルが多い中、唯一に近い文学読書サークルに彼女も私も所属しなんとなく話すようになり、いつしか行動を共にするようになっていった。
そのサークルは、男子10名女子8名プラスアルファの総勢20名にも満たないこじんまりとしたサークルだった。プラスアルファというのは、いわゆる幽霊部員だ。
学祭の時、イベントの時だけ参加する部員もいれば、新勧コンパではめをはずしてそのまま消えてしまう者もいた。
非公認サークルにはよくある、来るものは拒まず、去るものは追わずのゆるさが、私には居心地がよかった。
同じ学年だったのは、女子は彼女と私、男子は一人だった。
その男子は一年の時に三年の女子とつき合い始めて、卒業、就職と同時に籍を入れるのだと資格試験の勉強と貯金のためのバイトに勤しんでいて、サークルにはめったに顔を出さなかった。
当時、サークル誌に載せていたのは、彼女は書評、私は本に登場する美味しそうなものを作って紹介するコラムで、詩や小説などを書くまでには至っていなかった。
創作活動というにはあまりに未熟で、学祭でごく少部数を無料配布するくらいが関の山だった。
文芸パレスという創作同人誌即売会に大学のサークルで参加していたが、イベント限定販売の特別誌への寄稿も二人で1ページといった消極的なものだった。
高校までの文芸部の延長の域を出ていないことを、私は気づいていた。
けれど、彼女は違った。
彼女は書評が他校の文芸サークルの部長の目に留まり寄稿を頼まれたりしていた。
彼女はそれをにべもなく断っていた。
三年の夏で引退してからは、二人とも創作活動から足が遠のいた。
就職先が決まり、私は都内の実家住まいで何も変わりはなかったが、彼女は郷里にもどることになった。
彼女の郷里は、東京へは新幹線に乗れば小一時間で出られる東海地方の町だった。
そう遠いわけではないし、メールでやりとりすればさほど距離は感じないと思っていた。
もちろん、毎日学内で顔を合わせるといった気楽さは当然のことながら失われる。
それに、彼女は、SNSの類を嫌っていた。
かろうじてメールでのやりとりをしているが、それもいつ途絶えるかわからない。
このまま疎遠になるのではとの不安から、サークルの追い出しコンパで、私は、思いきって彼女に声をかけた。
今でも、当時のことは、鮮やかによみがえる。
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